ツッコミ 17 〜弁当はトークと共に〜
話は変わって弁当である。
五合目まではおよそ半分。といったところに休憩スペースがあったため、そこで買っておいた幕の内弁当を食べることにした。胡麻がかかり、梅干しが載った俵型のご飯。おかずには卵焼きにサバの塩焼き、レンコンの挟み揚げに蒲鉾と沢庵。なかなかボリュームのあるものだった。
「レンコンのシャキシャキ感、ちょっと苦手」
「なら俺が食べる!」
驚くべき速さで自身の弁当を食べ終えたルートが、ボクの腕に前足を乗せてぶら下がる。その口元へ運んでやると嬉しそうに飛び降りてガツガツと咀嚼する。
休憩スペースはコの字型にベンチが置かれた東屋で、今は独占状態だった。食べカスで汚れたベンチは、サッとカナネが払ってのける。
「レンコンは食感が魅力なのに、それが苦手なのは珍しいですよね」
ハンカチをしまいながら残念そうな目でこちらを見る彼女には、ため息混じりでこう返した。
「食感なんてただの飾り。好きな人には分からんのです」
頭に浮かんだ、はてなマーク。テキトーに言っただけだから、それも仕方がないだろう。
「それって、前世では相当偏食家だったんじゃない?」
「麺ばっかり食べる人には言われたくありませんー」
「コロッケばかりよりはマシだよ。ボクは麺ならなんでも食べる。うどんだって、ラーメンだって、スパゲッティだって蕎麦だって何でも好きだ」
「焼きビーフンは?」
「え、それは知らない」
それは非常に勿体ない。もしも材料を手に入れられたら、振る舞ってあげたいくらいだ。好きが高じた結果、揚げ物以外で唯一の得意料理になったものだから。まぁ……、惣菜を皿に並べ、冷凍食品をレンジで温めるのを料理と認めてくれたら、だけど。
「キア様は、もしかしたら食事文化に一石を投じる存在かもしれませんね。ヨーグルトを使った新たなスイーツとか」
「んー、食べたことがあるので言うと、フローズンヨーグルトとか?」
「聞いたことないけど幸せな響き!」
ボクは幕の内弁当があるのにビックリしたけどね。
「いろんな料理に詳しそうだけど、料理が得意なの?」勇者の問いかけには首を振って答える。
「いや、得意ってほどではないよ。なんていうか、その、便利な世の中だってだけ」
「でも、いろんな料理に接せられる世界って、信じられませんね。自分で作るのも大変ですし、買うとなるとお高いですし。火を起こしたりするの、大変じゃありません? 私、着けられるようになるの苦労したんですよ」
「いや、スイッチひとつ」
「すごい世界だ!」
カナネの食い付きがすごい。それほど苦労したんだろう。
「この世界なら、魔法で一発じゃないの?」
「魔法もセンスによりけりですからねぇ。私は使えません」
「ボクも苦手な部類だから、使える人は少数だと思うよ」
「憧れの職業ですよねー、魔法使いって。就職先は引く手数多、ですよ」
「魔法使いの冒険者はいないの?」
「あ、それ、僕も気になる」
「いることはいますけど、危険地帯だとか重要な土地の調査を請け負っている人達なので、殆どの冒険者は接点がありませんね。あ……、でも例外と言えば、公的機関である冒険者を管理する部署のトップ、彼は魔法使いだったと思います。魔法を使っているところなんてほぼほぼ見ないですけど」
「どんな人?」気になって問い掛ける。
「事務作業に熱心なインテリさん」
いや、まぁ……、ある意味魔法使いっぽい? けどなんていうか、そのワードはうちの兄貴を思い出すなぁ。あいつもいい大学を出て、いい会社に就職して、見た目から何から立派なインテリであった。帰省する度に事務作業が、ああういう作業的なことが好きでなぁ、と語っていたのをよく覚えている。
あぁ、なんかセンチメンタル――。
「俺も魔法使いだぞー」
は、一瞬にして吹き飛んだ。
眠そうに丸くなる猫を見て、誰が魔法使いだなんて思うのだろうか。ファンタジーの世界に転生して、自分もまさにその一部なんだな、と痛感できる瞬間だ。それに笑ってしまえる自分は、結構図太いのだろう。
せめて、新婚の兄貴の子供が見たかった。彼の奥さんは素敵な人で、あんなにも女性に対してネガティブだった自分にも優しくしてくれた、天使のような人だったのだ。そんな彼女を幸せにして、なおかつ兄貴にももちろん、幸せになってほしいのだ。
それこそバリバリと働いて……、てか、冒険者って公共事業なの?




