ツッコミ 16 〜推理〜
図らずも互い互いを理解し合い、場の雰囲気はより和やかになった。シュラナとカナネもよく喋るようになり、今は少し前を歩いて会話に夢中になっている。
「私も、もう少しなんか特別なものになりたいですよねぇ」
「とりあえず、口に出して言ってみたら? フラグっていうのがあるんでしょ」
「あー、でもあれはマイナスの面もありますから。でも、言うだけはただですもんね!」
「そうそう」
「私、この旅が終わったら王家の血統だって判明するんだ」
それは新手の死亡フラグだろう。
頭の片隅でそうツッコミを入れながらも、ボクは会話に混じらず、ただただ思考を楽しんでいた。
登山口から始まった道のりは、森林の中を突き進んで清々しい思いだ。傾斜もまだなだらか。馬車を使えばあっという間に五合目までは行けるだろう。同じように徒歩ですれ違う人達は同業者なのか、カナネがにこやかに挨拶を交わしている。成果は上がっていないらしい。
その言葉を聞く度に、このまま山登りに興じていていいのだろうかと、頭を悩ませてしまう。既に、ボクの疑問は解消していた。
魔力という概念を知ったからか、川からもたらされる栄養は魔力であることが解ったし、この山にも相当な魔力が充満し、土にも溶け込んでいる。にも関わらず植物の生育が通常の範囲内に収まっているのは、やはりあの村の周囲が異常であることの証左であろう。
もっと村の周囲を探索すべきではないか。その方針が頭を過ぎるが、それを押しつぶすようにある単語が降り注ぐ。
地底人。
この言葉は、いったい何を意味するのだろう。その部分がまだ、聞けずじまいだった。
「ねぇ、カナネ。地底人って聞いて、何を思い浮かべる?」
「へ? えっと、チテイジン? というと……、あの地底人ですよね? 地中に住んでいる謎の人達。子供の頃から眉唾で聞いてましたけど、キア様は信じているんです?」
「まぁ……、いたら面白いよね」
「もしかしたら、魔族かも」
同族だから交渉できるかも、と勇者は笑った。けれど、ボクはカナネの言葉で頭は一杯であった。
この世界における普通の人であるカナネの認識は、この世界では至って普通のものなのだろう。つまり、地底人の認識はボクが持っているものと差異はない。
となると、地底人と認識できる方法は二つ。地中で発見するか、地中から出てきたところを発見するか。
前者であるなら、冒険者である彼女が地下空間のことを知らない、なんてことは考えられないだろう。道中で聞いた何も成果が上がっていないという話や、この場で地底人の話をして、ピンと来ていないのがその証拠だ。
であるなら、考えられるのは後者。どのくらい昔のことかは分からないが、かつて村に暮らす人が、この山で地中から現れた人物を目撃したことを間違いない。
その際に脅されでもしたのだろう。それが祟として後世まで伝わった。辻褄はあう。
では、その地中からの出口はなぜ見つからないのか。巧妙に隠されているのか、はたまた隠されてしまったのか。先ず怪しいと思うのは、隕石だ。
「もう一つ良いかな? 村の作物が巨大化しているのは、この山に隕石が落ちる前からなの?」
「んー、多分、隕石の方がずっと前からあります。こちらは伝説として伝え聞こえていたもので、村の作物は一番古い歴史書に記されています。山がへこむくらいの隕石が落ちるなんて大事件、歴史書に載らないわけはないでしょうし」
一理ある。だとすれば、隕石の墜落によって地底人の出入り口が塞がってしまった、というのは考えづらいか。
そうなると、可能性が高いのは前者か、もしくは……。
「歴史書には、作物が巨大化しした理由が書かれてる?」
「いえ、そうではなく、巨大化した木々を発見したので、作物を植えたら巨大化したと」
「申し訳ないけれど、簡単にこの世界の歴史を教えてくれない?」
「あ、そうか。さては転生してまだ日が浅いんですね。だからキア様はそういうのをご存じない、と。では、簡単に説明しましょう。世界が滅ぶような戦争が終わり、立王暦が始まりました。今は、立王暦一四〇三年です。一番古い歴史書は、立王暦が始まったときに記されたものです。戦争のときの資料は殆ど残っていないのですが、当時の調査によると、木の巨大化は最近始まったとの情報が得られたということです」
察しの良い回答がありがたい。お陰で疑問が解消された。
「ありがとう。今回の調査の方針は決まったよ」
「川を調べるんじゃないの?」勇者が問い掛ける。
「んー、変更、かな? 調べるのは建物。五合目とか、それより上の山小屋とか」
巧妙に隠されているか、はたまた隠されてしまったのか。ボクはその答えを、両方と見た。