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ツッコミ 15 〜カミングアウト〜

 山に到着する前から、なんとなく嫌な予感はしていた。その理由は、川に沿うようにして続いていた道が、徐々に川から離れていったことに他ならない。


「登山道は、おおよそ東西南北に、一つづつあります。しかし、川を沿うように伸びるものはないんです」


 カナネの解説によると、川の源流へたどり着くには、一度山頂付近まで行ってから目的の場所まで降るのが一番の近道だという。六合目付近まで茂る森の中は、自生する木が複雑に入り組んでいるため、探索にはお勧めしない。


「つまり、川を調べるだけなら、まだ簡単?」

「そうですね。あと、六合目以上も、まぁ、簡単といえば簡単です。動物もいませんからね。森は熊とか怖いですよ」

「熊くらいなら、まぁ、だけど。モンスターはいないの?」武闘派の勇者の意見。

「見たことないですね」


 要は、時間をかけた探索は冒険者にとって命取りになる。というわけだ。


「あ、そのことで気になっていたんです。キア様の花弁の中にいる猫ちゃん、ルートさんってなんなんです? 喋る猫って聞いたことがありません」

「え、モンスターじゃないの?」

「モンスターはもっと、モンスターらしい見た目をしています。その子は立派な動物ですよ」

「うそぉ!?」


 勇者が一番驚いた。


「シュラナさんは気にならなかったんですか?」

「いや、僕はあんまりモンスターには詳しくなくて。旅にでたのも最近だし、それまではずっと地元のコミュニティだったし」

「あー、シュラナさんの部族だと、そうですよね」


 今度はこちらが疑問に思う番だ。


「シュラナの部族って?」

「言っていいんです?」

「う、出来ればキアには黙っていたかったけど、話の流れ的には仕方がないか。いい。僕から話す」


 とても深刻そうな表情に、好奇心から訊いたことを後悔してしまう。けれど、やっぱり、好奇心から止めることは出来なかった。女の子がいない部族で、接する経験がなかったから苦手になったのだ、なんて話が聞けるのだろうか。


「僕の部族はね、ある魚を主に食べる部族だったんだ。その影響がモロに出てね。その……、必ず、男として産まれるんだ。けれど、二十歳を過ぎた頃に性別がなくなって、準備段階に成長する。そして、二十六歳の頃に群れの中で一番強かった者が、女になる。女となれば性別が維持され、また翌年の二十六歳から女が生まれる。そんな生態だと思ってくれたらいい」


 まさかのカクレクマノミ的なパターン。


「僕は今、性別が不明な段階なんだ。そんな中、勇者に選出されて旅に出ることとなった。その結果、僕は、性別を決めるためにはこの星で一番強いか、そうでないかを決めなくてはならなくなったんだ」


 あー、なるほど。コミュニティが広がってしまったことにより、判断基準が上がってしまったと。その為に彼(?)の部族は、あまり情報の入らないほどの、狭いコミュニティを維持しているわけか。


「僕はあの中では一番強かったから、女になるんだなぁ、と漠然に思っていた。でも、外に出て、町にいる女性を見て、スイーツやら服やらアイドルやらでキャピキャピしている女性を見て、不安になったんだ。僕は、女性としてやっていけるのだろうか、と。だってそうだろう? 強くなって女になったら、待っているのは戦いとは無縁の、そんな華やかな世界なんだ。部族の中にいればこんなことに悩まなくてもよかったのに、一度知ってしまえばずっと不安を抱えたままだ」


 ちょっと視線が痛かった。お気に入りのTシャツは、首元がゆったりとして、ダボッとしたオーバーサイズ。薄い緑が下半身の植物部分と合っている。


「そんなとき、君に出会ったんだ。君は、僕と同じで性別がない。そして、女性を少し苦手としている。そんな君と共にいれば、こんな複雑な想いは乗り越えられるかもしれないと思ったんだ!」


 思ったよりも大事だった!


「そして、もしもの時は僕より強くなって、僕を男にして欲しい」


 思ったよりも大事だった!


「因みに俺は普通の猫だぞ。気が付いたら喋られるようになってて、魔法も使えるようになってた。ついでになんか長生きしてる」


 いや、喋られて魔法が使えて長生きするうえに何でも食べられるような猫を、一般常識では猫とは言わんのだよ。けどまぁ……、転生した自分が言うことでもないかぁ。


「そういうボクも、違う世界から転生してね。前世の記憶があるの。あの頃はただの人間だったなぁ」


 自然と始まったカミングアウト合戦に、自然と視線は残りの一人へと集中する。


「え……、いや、あの、私は至って普通ですよ?」


 まぁ、この集団に普通に混じっていられるのも、まぁまぁの異常だと思うけどね。

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