ツッコミ 13 〜登山の準備〜
全員成人を迎えていた、ということで、三人と一匹の食事会は騒がしくも穏やかに進んでいった。騒がしかったのは主にカナネだけであり、彼女はお酒が入ると笑い上戸になるらしく、猫が鳴くだけで笑う始末だった。
そんな彼女でも正体を失うことはなく、宿屋に戻ると、直ぐに明日に向けた準備が始まった。宿屋の中にあった、アパレルショップ。多種多様な服が取り揃えられた、冒険者御用達の店舗だ。
「三千メートル級の山は、温度差が激しいですからね。二人は防寒具を揃えたほうがいいと思います。特にキア様。寒くありません?」
僕の衣服は、チューブトップのように胸を覆う葉っぱのみだ。剥がしても、どこから自然といくらでも生えてくる特別な物で、質感も自在に変えられる。これを鏡のようにして、自分の人相を確認したのだ。
「今は、ちょっと寒いかも。日が当たっていたらそうでもないんだけど、夜はちょっと」
「まだまだ夏の始まり。夜は少し冷えますからね。山小屋に泊まることを考えなくてはならないので、色々と服も買っておきましょう。んふふー、キア様の分は私が買ってあげますね!」
渡りに船だ。ありがたい。
「先ず、防寒具はダウンのジャケットがお勧めです。モンスター由来の糸を使ったものが、ストレッチも効いていて動きやすいですよ。上下で揃えるのがベストです」
「戦うことも考えれば、それもいいかもしれないね」
地底人のことは、まだ二人には教えていない。現地でのサプライズ――、というよりも、自分が痕跡を発見して、実はこういう話を聞いていたんだ、なんて風に驚かせたい。
「キア様は、上だけしか着られませんね。どうしましょう。植物には辛い環境かもしれませんし」
「そこは、行ってみないと分からないかな。とりあえずお酒を持っていくといいかも」
「お酒?」
「身体の中から温めるのです」
「いや、そこは僕が魔法で温めるよ。僕にだってそのくらいなら出来る」
流石異世界。便利な方法がありそうだ。
「いえ、それはちょっと難しいです。あの山、遥か昔に山頂に隕石が落ちて、窪地になっているんですが、そこから生み出される魔力によって、魔法の加減がとても難しいんです。下手に温めようとすると、ボッと」
燃えると。
しかし、そういう山であるなら、川に多くの魔力が含まれるのも頷ける。これで一つの謎は解けただろうか。そして、そんな山だからこそ、地底人のようなものが住み着くのではないか。
「じゃあ、やっぱり行ってみるしかないね。もしもボクが耐えきれそうもなかったら、調査は二手に分かれたほうがいいと思う」
「風呂苦手コンビだなー」
勇者は微妙な顔をしているが、これはもしもの話である。そして実現してしまったのなら、覚悟を決めて仲を深めてほしい。一緒に、次のステップを踏み出そう。
「それはそれとして、今はキア様の服の話です。とりあえずTシャツは買っておきましょう。安いですから」
買ってもらう立場では、文句は言えないか。もう少しお洒落なんかもしてみたいけれど、それは自分で稼ぐことができたら、の楽しみにしておこう。
「サイズはどのくらいなんですかねー。あ、下着はどうします?」
「葉っぱで大丈夫」
「んー、残念。でも、キア様身長の割に人間みたいな部分は小柄ですからねぇ。下手に選ぶとオーバーサイズになってしまうかも。あ、胸の大きさも厄介か」
「ぶかぶかな感じも可愛いと思う」
「きゃー! 解ります。そういうのポイント高いですもんねー」
「萌え袖」
「今話題の! でも、キア様は健康的な肌色で美しい肌をしているので、もう少し見せにいきたいですよね。デコルテのあたりとか。首元がゆったりしたものとかないかなー」
キャイキャイと、ラックにかかったTシャツを二人で物色する。勇者はすでに、自分の買い物を終えたようだ。