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ツッコミ 12 〜初めての入浴〜

 日が落ちると、ボクはどうにもお腹が空いてしまう。おそらく、光合成のようなもので得ていた栄養が、夜になると、その補給路を断たれてしまうからだろう。


「美味しいお酒と、コロッケと、後は唐揚げと――」

「ステーキ!」


 テーブルの上に前足を置いて、椅子に立って鳴く猫の期待にも応える。看板娘は直ぐにオーダーをマスターに伝えた。


 酒場はほぼ満席で、身なりからして冒険者の方が多いようだ。乱暴に騒ぐものは今のところ居らず、静かに会話を嗜みながら呑んでいる。おそらく、奏でられる音楽や、シックな内装から醸し出される雰囲気に当てられているのだろう。


 演奏家と目が合えば、素敵な笑顔と見事なテクニックが返される。楽器もどこか、見覚えのあるものが多かった。


 この世界にもお通し、もしくは突き出しといった文化はあるようで、席に着くなりテーブルに置かれたよく冷やされたお豆腐を箸でつまむ。


 至って普通の豆腐だ。しかし、この村の作物が通常(他では異常)の大きさに戻れば、もっと旨味の増した豆腐が出来るらしい。


 提供されたお酒はビール。この村自慢の麦芽とホップで作られたものだ。さわやかな苦みがとても美味で、豆腐よりももっと、味の濃いものと合わせたほうが、よりその美味しさを味わえるだろう。


「豆腐、美味い?」


 見つめる猫は、モンスター故にか雑食らしく、器を差し出すとガツガツと食べ始めた。ボクが苦手な生姜も、全然平気らしい。


「夜はお一人なんですね」揚げ物を持ってきた看板娘に話しかけられる。

「二人はお風呂。ボクは、お湯が苦手だったから」


 試しに蔓を浸してみたのだけど、熱いし痛いしで散々だった。しかし上半身の人間部分は平気だったので、頭だけ洗って退散したのだ。


 そして、そもそも水が苦手な猫、ルートを護衛に伴って、こうして夜の晩酌に興じているわけだ。後ほど、二人もやってくるらしい。


 そう言えば、勇者は大浴場ではなく、個室のシャワールームへ入っていった。やはり性別は隠し通したいらしい。


「そうだったんですねー。あ、塩水はどうなんです? 苦手だったら船旅とか大変かもですよ」

「あー、どうなんだろう。食事で塩分は摂っているけど、それとこれとは話が違うだろうし、下半身はまるで別だし」

「塩水を作って、持ってきましょうか?」

「じゃあ、お願いします」


 今後、海の方へ行くことも考えて、事前に試しておこうと思う。駄目なのは温度に関することだけで、塩に関しては大丈夫だと思いたいけれど……。


 結果、大丈夫だった。もしかしたら、海藻が海の中では出汁が出ない、みたいな理由と同じなのかもしれない。ともあれ、海は平気そうだ。


「山に岩塩があっても、平気かもな」

「あ、その恐れもあったんだ。あー、一応試しておいてよかった」

「山に行くのですか?」看板娘が問い掛ける。

「うん。ちょっと調査へ」


 お酒の力も借りているのか、女性との会話もスムーズだ。これはもう、異世界デビューは確実に成功を収められるかもしれない。苦い大学デビューの記憶は、もう彼方へと飛んでいくことだろう。


「でしたら、ここだけの話し――」


 マスターとアイコンタクトをして、そっと耳元へ顔が寄せられた。とても小さな声が届く。


「冒険者は知らないと思うのですが、あの山には地底人の伝説があるのです」


 気になる話題に、横目で続きを訴える。しかし、その顔は直ぐに離れてしまった。


「ごめんなさい。彼らに関わると祟が起こるぞー、なんて言われているみたいでしたので、あまり人に言う話ではないのです」

「では、なぜボクに?」

樹神様(じゅがみさま)は、繁栄をもたらすそうなので」


 なるほど、それで中和しろと。厄介ごとのようにも聞こえるが、しかし、ふむ。ちょっと面白くなってきたぞ。

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