ツッコミ 10 〜冒険者と勇者〜
「勇者様! 私を、私を弟子にしてください!」
女性である。村長の家から出るのを待っていたのか、その姿を目に映した途端に土下座のような体勢に移行。そして冒頭の台詞を吐いたのだ。
唐突に現れた見ず知らずの女性に対し、一気に緊張感の走るボクと勇者。どう話しかければいいのだろうか、と思案してしまう。勇者もきっと、あまり女性と接する機会の多くない生活をしていたのだろう。その動揺が手を取るように察せられた。
「頭を上げろよー。二人が困っているだろ」
猫のコミュ力が強い。なんでもないやりとりなのに、そう感じてしまう自分は弱者だ。酒場ではマスターを視界に入れることでなんとか平静を保てていたのだけど、……通りすがりの男性はいないらしい。
「も、申し訳ありません。けして困らせるつもりはなかったのです。私、冒険者をしているカナネと申します。戦闘もできる冒険者に憧れていまして、是非、その力を学ばせてほしく、偶然立ち寄ったこの村でお噂を聞き、やって来た次第」
「お前も、作物の謎を解きに来たんだなー」
「冒険者って、戦闘できないの?」
思わず、会話に割り込んでしまった。三つの視線が突き刺さる。こういうのも、なんか苦手だ。
「冒険者に戦闘力は関係ありませんから。冒険者というのは各地に眠る遺跡屋未開の地を調査する職業なんです。未知なるものを追いかける人たち、なんて言えば聞こえは良いですね。実際は、定職に就けないからお宝を探して一攫千金、なんて人も多いです」
上半身を上げ、膝立ちのまま解説が入る。履いているのはジーンズだろうか。馴染みのあるズボンである。上半身はどこかミリタリー感のある迷彩柄の長袖Tシャツ。茶色のベストにはポケットが多く、様々な道具が入っているらしい。酒場や宿屋でも感じたけれど、服装は元いた世界と似通っている。こういうものは、突き詰めると辿り着くところは同じ、ということなのだろう。
回答の感想に移る。なるほど、つまりは通常、そこまで危険がある仕事ではないということか。それにしても、カナネちゃんめっちゃフレンドリー。この世界では常識であろうことを、丁寧に教えてくれる。たぶん良い子だ。
「対して、戦闘を行うのは基本的に騎士の仕事です。治安維持が役目ですから、モンスターとの戦いもお手の物。勇者とは、それらのすべてを凌駕するような戦闘力を持ったものに与えられる称号なのです。まさに、憧れの的!」
視線を向ける。照れていた。
「おまけに、今代の勇者は史上初の魔族生まれ。私は人間ですけど、歴史を覆す存在には、本当に憧れてしまいます。あぁ、生の勇者様。素敵です」
耳まで赤い。とても照れていた。
「魔族って、人間とはどう違うの?」
ついでに、気になっていたことを訊いておこう。この子なら、なんでも素直に答えてくれる気がする。
「一言で表すなら……、食糧の影響を受けやすい種族、ですかね。動物を食べれば尻尾や角が生えますし、エラが出来て水中でも生きられる人達もいます。野菜を多く食べれば光合成も、なんて人達も。……あれ、そういう貴方は魔族、では当然な、い、と、ということはまさか、まさかまさかの伝説の樹神様ですか!? あわ、あわわ、偉人が二人も!?」
この子は多分、ただのミーハーだ。