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第8話 学園アイドルの友人にあるまじき魅力?




笘篠さんが働いているコンビニは最寄り駅から程遠く、しかも標高の高いところにある。住宅街の一角に位置するそこはしめやかだ。ぶっちゃけ通うのは大変。しかしながら客の出入りが少ないという大きなメリットがある。

今、俺はその大きなメリットをしみじみ感じていた。


「その、ありがとね、東くん」


照れくさそうにしているのはお礼をしているからなのかピンクな商品を戻しているからなのか判然としない。

そんなことよりもただ、ライトブラウンのショートから覗える赤みがかった横顔が美しかった。


「あのひとね、多分だけど私のストーカー……みたいなの」


商品を戻し終わり、立ち上がった笘篠さんはげんなりとしていた。

どうやら俺が追い払っただけで解決とはいかないらしい。


「え、ストーカー……家までついてくるとか?」

「いや、そこまではっきり悪いことはしてきてないけどね。でも私がシフト入ってる時に必ず入店してくるし、しかも会計のとき必ず私のところに並ぶんだよね……」

「そういう感じかぁ」

「……他の店員のときは来ないみたいなのにね、私のときには必ず来るってさ、やっぱりちょっと怖いよね」

「それ。ホント怖すぎる。今日なんて確信犯だしね。絶対相談したほうがいいよ」


あれ、俺ってば結構良さげな距離感で笘篠さんと話せてるぞ。


「だよね。流石にこれは店長に相談しないとだよね」


肩身を抱きながら、わなわなと笘篠さんが言う。俺も何か、笘篠さんのためにできることはないだろうか……。


断じてチャンスとか思ってないからな。ないからな!


「あのさ、東くんってもしかしてこの近くに住んでたりするの?」


このタイミングでこの質問……これはあれか。もしや、怖いから一緒に帰ろうの流れか?

そうか、ならばいいだろう。

紳士らしく俺が彼女を家まで送り届けよう。そうとも!


「いや、散歩でよく来るだけで家は遠いけど、それが……?」


ここはあえて何も知らないフリをする。


「そうなんだ。あの、よければっていうか、私、シフトもう終わるからさ、その、一緒に帰ってほしくて。林見公園のとこまででいいの」


はい、ありがとうございます。

だから笘篠さん、そんな申し訳なさそうな顔しなくていいんだよ? 俺がしっかり送り届けるから。


「水野公園だったらちょうど俺もその方向だしいいよ。正直俺も怖いしね」

「だよねっ、ほんと怖くて怖くて」


ほっと胸をなでおろす笘篠さんを見て、俺も少し安心した気になる。危ない人に立ち向かってから緊張が続いていたからかな。


ともあれ、想定より笘篠さんと交流できそうだ。不安な気持ちに付け入っているようで少し悪い気もするけど。


まぁ、誘ってきたのは笘篠さんだしね。

自分にそう言い聞かせて、俺はカゴをレジに置いた。


慌ててレジに周り花火を手に取った笘篠さんは不思議そうな顔をした。





ちょっと、何か忘れていないか?

俺の攻略対象はあくまで明里さんだ。


ならば危惧すべきことがあるだろう。

そうだ、2人でいるところを同級生ましてや明里さんには絶対に見られてはいけないのだ。


源は、明里さんの家はこのコンビニの近所だと言っていた。今は休日のお昼過ぎで遭遇してもおかしくない。


学校でならいい。

だが休日の住宅街などというプライベートなところを見られた場合アダルチックな誤解をされかねない。気をつけねば。


俺にとっちゃストーカーより警戒すべき事項だ。


今俺の隣を歩いている芸能人のオフショットを思い起こさせる風体の笘篠さんみたいに俺も身を偽りたい、本当に。



「そういえば東くん、花火買ってたよね」

「まぁね。あ、この時期に? って思った?」

「思った思った」


クスクスと笘篠さんは笑う。春風にふわりと髪が撫でられて、ネロリの香りがする。


なんだか芸能人とお忍びデートしてる気分だ。


「なんで買ったかわかる? あててみそー」

「あててみそ古いなあっ。 えー? 普通に友達と遊ぶとかじゃないの?」

「残念ハズレ、不正解の笘篠さんには正解を内緒のままにしておきます」

「結局内緒のままなの! ずるくない? もう、うふふっ」


笘篠さんのために紳士の私ができること、それは何気ない会話に笑いを齎し、恐怖を少しでも忘れさせることである。

たとえ俺が面白くない話しかできなくとも、常に自分が笑うことと、相手が言ったことに対して笑うことを心がければ、楽しい雰囲気をつくることができる。お、俺は面白いけどな。


「あ! 見えてきたね。林見公園」


笘篠さんの指先の方を見れば、木々が並び立った隙間から広大な芝生がある。すっかり青くなった木々が春の終わりを感じさせる。

噴水があるのか、歩を進めていくほど水流の音が激しく聞こえてきた。


「東くんも知ってるかもだけど、私ね、ネットにダンス動画上げててさ、よくここの公園で踊るんだよねー」

「そういえば笘篠さんバズったんだってね。動画見たけどまじでめっちゃかっこよかったよ」

「ほ、ほんとに!? それ言ってくれるのほんと嬉しいなぁ えへへ」


でろんでろんになった顔で後ろ髪をこれでもかと弄ぶ笘篠さん……めちゃくちゃ嬉しそうである。


「今もフォロワーとか伸びてるの?」

「そうなの! バズってからもう順調なんだよね」

「すごいじゃん! 今俺有名人と歩いてるのか! 自慢しないと! サインもいいかな?」


ここは透かさず彼女をよいしょしておこう。器用な褒め殺しの効果は思いの外絶大だからな。


「んふふふっ、いやぁ、私なんてまだまだだって。でもこれからもっともっと頑張っていくつもりだよ」

「あ、自分古参名乗りたいですっ」

「んー許す!」


おわかりいただけただろうか。

本来公園を通り過ぎるタイミングで別れるはずの俺達2人はいつのまにか公園の中へ突き進んでいる。そして笘篠さんもずいぶん砕けた態度で話してくれるようになっている。

これが褒めの効果ってやつだ。


ならばよし。

ではここから少し切り込んでいこうか。


今のところ、笘篠さんと友達になる作戦は順調である!






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