第7話 ストーカー見参
自宅から笘篠さんのバイト先まで歩けばだいたい一時間くらいかかるからバスを利用していたがこれから通うことを考えれば運賃が馬鹿にならないなぁとため息をついたゴールデンウィーク2日目。
即興を強いられた「笘篠さんと友達になる計画」は思いの外順調だった。
「ふぅ、やっと、ついた」
暑い。
ほおに伝う汗をハンカチで拭って、眼前にあるコンビニを睨み一息つく。
坂が多いからここまで自転車ではなく徒歩で来たもののやはり疲労はある。
一先ず、店内で涼もう。
テレテレテレン―と気の抜けた入店音とともに昨日に続き今日も入店する。
「いらっしゃいませー」
今日も当たりだ。
店内に笘篠さんがいることを確認した。今日もシフト入っているようだ。
今の時刻は14時で人が少ないし、会計のときに二言三言交わしても対して問題ではないだろう。
それにしても笘篠さん、休日だったら14時にシフト入ってるのか。
頭にメモをしておこう。
よし。
最初に駄菓子を大量にカゴに詰めて、少しでも会計時間を伸ばす。この小賢しい作戦は昨日も実行した。しばらくこすることになるだろう。
そして次に奇抜な商品を買って話題にする作戦を実行したい……ところなのだが、これがまた難しい。
昨日は幼児向けのギャグ漫画の8巻をチョイスした結果、その奇抜さに話しかけられてかなり盛り上がった。できれば今日も多少会話をしたい。
雑誌コーナーを見回っていると、ふと色んなアーティストのポスターが目に入った。ライブの日付やらが書いてある。そういえばコンビニでライブのチケットとかも買えたよな。
アーティストか。これなら、興味を引けるかもしれない。
……でも高いしな、うん、今度にしよう。
他には何かないだろうか。
できれば安価で、「え!? こんなん買うやついるんだ!」って思われるやつが理想だ。
おぉ、この時期からもうすでに花火が売っているのか。
最近の花火は随分とバラエティに富んでいるようだ。せっかくだし、今度萌奈たちと花火でもしようかな。
しばし手にとって物色していると、ふと臀部に衝撃が伝わった。
人にぶつかられたとすぐに分かった。
振り向くと、中背中肉のどこにでもいそうなおっさんがこちらを睨みつけていた。
「ちっ」
……なんか舌打ちして通り過ぎていったんだけど。
普通に怖い。
とりあえず花火をかごに追加しながら、俺は通り過ぎていった失礼なおっさんの方を見やる。
なんだ、あれ……。
あのおっさん、なんかニヤニヤしながらカゴにめちゃくちゃ避妊具を放り込んでる。精力剤まで買ってるし。どうしたどうした。
流石にちょっと気になって見てしまう。
おっさんはひたすらカゴの底をピンク色にした後、蓋をして隠すようにお菓子や酒、オムライスなどをカゴに入れていた。
あんな大量に買って恥ずかしいとか思わないのか。なかなか強い心臓を持っているようだ。感心の域だわ。
さぁおっさん、次は何を買うんだ。
こっそり視線を向けていると、おっさんは店内を見回した。今レジにいない店員を探しているようだ。どうやら買い物は終了らしい。
店内の客は俺とおっさんしかいない。
そこでおっさんはパンの陳列棚にいる笘篠さんに声をかけようとしていた。
しばしその様子を観察していると、思わず「あ」と俺の声が漏れてしまう。おっさんの様子が何やら怪しい。
挙動不審だ。
おっさん、それはあかんとちゃうか。いくら彼女の体が魅力的でも……。
やばい。
俺は見逃さなかった。
明らかにおっさんの下卑た眼差しが笘篠さんのおしりに向いている。
助けなきゃ。と、咄嗟に思う。
というか、見て見ぬふりしたらこの後の会話も気まずくなるし。作戦に支障がでる。
なんて、考えてる場合じゃないか。
俺は急いで2人の方へ向かう。
おっさんは何かを堪えている様子で、商品棚に夢中になっている笘篠さんの後ろに立っている。
よく見ると少しずつ笘篠さんのおしりに手が伸びている。触れるか触れないか、既のところである。
っ! 笘篠さんのおしりを守らねば!
「あのっ、なに触ろうとしてるんですかっ」
勢いに任せて言った俺に笘篠さんは気づいたようであるが、緊張した様子だった。
「あ、東くん……」
おっさんもハッとしたように俺の方に振り向いた。陳列棚に手を突っ込んだままの笘篠さんは怯えた声を上げたままで、銅像のように固まっている。
「え、いや違……これは」
言い訳しても無駄だぞおっさんっ。
「か、監視カメラだってあるんですよぉっ!?」
頭おかしい人に毅然とするのって、難しい……。
こういうときは舐められないように、スマートで厳かな態度でいなきゃいけないのに中々うまくいかない。変なテンションだな俺?
「み、未遂なんだ! お、俺はただ……そこのたまごパンを取ろうとしただけなんだぁ!!!!」
喚いたおっさんがカゴを落として逃げていった。
このおっさんがまたやってこないとも限らない。ここは追わねば!!
「おい、おっさん!」
「東くん! 追わなく、大丈夫だからっ」
追いかけようとした俺を止めたのは笘篠さんだった。




