第2話 最近、幼馴染がキてる!
今、幼馴染が熱い!
春うららかな日本列島には今まさに空前の幼馴染ブームが到来している!
……攻略に陰りが見えたからって現実逃避してるだけだろお前。
今、脳内で源の呆れた声が聞こえたが当然無視して、歩を進める。
今日の失態は一旦忘れよう。
ふんすふんすと、帰りしなしこたまのど飴を買い込んで帰宅した後、俺はすぐに弟子の家へ向かった。
自宅から弟子である春野愛結の家までの距離は15メートルくらい。徒歩で5秒である。
そう、言うまでもなく彼女は萌奈の2つ下の妹だ。
「ごそくろういただき、ありがとうございます、師匠っ」
「まったく、師匠たる俺を呼びつけるとは、偉くなったもんだ」
なんてことはない、いつも通りの師匠プレイは思いの外気に入っていたりする。頻繁にやるのは疲れるがたまには悪くない。
「それで? 最近でたキャラのコンボを教えてほしいんだっけ?」
「はい、お願いしますっ」
きらきら輝きに満ちた無垢な目を向けてくる。
お姉ちゃんとは違って可愛げがあるから好きだ。萌奈と違い、髪も短くショートにしていてその輝きを濁さないままでいてくれと願わずにはいられない。
「師匠、こちらでお待ち下さい。今お茶を出しますので!」
「うむ」
愛結の自室に響く柱時計の音。
この音を聞きながらただ呆然とするのはもはや何度目だろうか。
俺が中学2年生の時、初めて萌奈とクラスが別になった。萌奈と俺のクラスが別になったのは高1の時と、中2の時のみだ。
クラスが別れてしまえば当然お互い会う機会は減ったし、遊ぶ約束もあたらしくできた友達とするようになった。喧嘩も何もしていないのに、自然と疎遠になっていった。
これまでべったりだった俺たちの間に急に距離ができて困惑したのは愛結だったと思う。愛結は当時小学6年生で、かまってちゃんぶりは現役だった。
小学校と中学校ではタイムスケジュールが違うから、かまってちゃんを発揮されることはなかったが。
ところが、その年のクリマス目前、とうとう愛結がしびれを切らした。
その年の9月・10月にあった萌奈と愛結の誕生日をメッセージアプリのギフトを送って祝うなどと、少し薄情なことをしたからだろうか。
愛結はクリスマスプレゼントをかけて俺に勝負を挑んできた。
「私が負けたら夢の国のチケットをあげる、でも私が勝ったらブルメイのブレスレットちょーだい!!」
小6にしちゃあ随分ずる賢い勝負考えたものだ。春野家が夢の国の年パスを持っていることは知っている。
大方、何かの福引だかでチケット当てて持て余したからこのようなリスクのない勝負を挑んできたといったところか。
「勝負はゆーとお兄ちゃんの得意なあの格闘ゲームでいいよ」
「いいんだな? 負けるわけがねぇ!」
相手と違って俺にはリスクがあるが、いくらなんでも小6のおんなの子に負けるわけがない。そうだ、この俺が負けるわけがないのだから、実質ノーリスクでチケットが手に入る!
そしてクリスマスである勝負の日には熱き勝負が繰り広げられた。
結果は俺の勝利。しかしながら愛結は意外と強かった。
そうして無事夢の国のチケットを手に入れて解散になるかと思われたが、俺の強さに惚れ込んだ愛結が弟子にしてくれと懇願してきたのだ。勝利で気持ちよくなっていた俺は勢いで快諾してしまった。
それ以来、ゲームの攻略法や勉強を教えたりと、何かと俺は弟子の家に行くようになった。
結果的に俺と萌奈にあった心の距離を縮めたのは愛結だったわけだ。これが意図的であったら末恐ろしいものだ。
カチカチと無機質に鳴る音に背中がゾワゾワとするのを感じた。
……さてと、今日はゲームを教えるんだったな!
ぶっちゃけ俺は勉強が苦手だし、ゲームだって特筆するほどのセンスはない。
でも、苦手だからこそ分からない人の視点で教えることができる……ということは案外教えるのは得意かもしれないな?
まぁいいだろう。
やり方は丁度昨日覚えたところだ。
俺のストレス発散……じゃなかったな。ともかく、その体にたっぷり叩き込んでやるとしよう!
◆
「そうそう。ダッシュ攻撃からそのまま必殺技を打つんだ」
「なるほどです師匠!」
愛結が実践して見せ、俺は厳かに頷く。
そしてまた愛結も嬉しそうにガッツポーズする。
「師匠、一戦おねがいします!」
「いいだろう!」
どれどれ、ちょいと弟子の実力を確かめてやるとするか。
「バトルスタート!!」
試合のゴングが鳴り、お互い口を噤む。
流石俺の弟子というべきか、手を抜けるほど彼女は弱くない。普通に強敵だ。
しばらく間合いの読み合いが続いたが、ここでうまく俺のキャラのコンボが炸裂する。コンボが入った時点で俺の勝利だ。
「ほら、ここ、弱よな」
「いやぁぁん!!! らめぇぇぇ!! そこだけはらめぇぇぇ!!」
「オラ、オラ!」
「ああああっん!! そこはぁ、あぁっ、弱いのぉぉぉ!!」
「だったら克服しないとなぁ! オラァ!」
クソぅ、愛結のやつ結構強くなってやがる。
万が一師匠が負けるなんてことになるのは遺憾だ遺憾。
ふうと息を吐いて愛結の方を見ると、ぐでんとうなだれていた。
愛結の使っていたピンクマちゃんが果てて、「ゲームセット」の合図が部屋に響き渡る。
その瞬間、突如としてドアが開け放たれる。
「アンタたちっ! さっきから何してんの!!」
ここで、般若の如き形相をした萌奈のお出ましである。