プロローグ
主人公、東優斗には野望がある。
それは学園のアイドル的存在である斎藤明里と親密になることである。
きっかけは、彼が高校に入学してまだ間もない頃──
青くさい志をもって通学路を闊歩していた優斗は、桜の花びらが舞い散る中に映った彼女の存在を認めた。
「ああ」
言ってしまえば一目惚れだった。
艷やかで伸びた黒髪が強く目を引きつけ、それから彼女の瞳や鼻梁、唇がすべて整っていてかつ均一に配置されていることに気づく。
とても華やかで美しい。とにかくかわいい。
やべぇやべぇ。
まじぱねぇ。
見れば見るほど語彙力が低下するのは避けられない。
彼女はそれほどまでに美しい容姿であった。
その日の授業中、優斗の頭の中はほとんど彼女でいっぱいだった。そして次の日からはとにかく何か行動しなければならない思いに駆られ悶々とするようになった。
ファンクラブでもできようものなら会費を見ずに即時入会するところだが、彼女も新入生であるためそれは望めない。
相手が普通の人間であったなら、直接アプローチすることも考えた。
しかし、斎藤明里という存在は生物としての格が違う。
彼女と同じ道を歩むことは、修羅の道を歩むことに等しい。苦難は計り知れないだろう。
だけどそれでも――
「もうこうなったら、いっちょ本気、だしますか」
優斗は漢になることに決めた。
それほどまでに、漢の彼女への思いは熱かったのである。