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修行足りてないって言われません?

 プシュッとプルタブをあけ、寺の住職、堀和尚がコーラをグビッとあおっていく。よほど喉が渇いていたのか、それとも単にコーラ好きなのか。堀和尚の丸々とした身体を見るところ、多分後者だ。

「それは悪かったな」

 境内にあるベンチに腰掛け、堀和尚はプハーと口元を拭う。そのままゲフッと月賦した。僕と晋作もいただいたコーラを有り難く頂戴する。

「でもな、勝手に墓石の上に乗ったり撮影したりしちゃダメだっての。お前らだって自分の寛ぎスペースに他人がやって来て好き勝手し始めたらイラッとするだろ? それと同じ。やるならきちんとお断りをいれろっての」

 まるで和尚とは思えない口調で堀和尚が言う。丸々とした体躯とは裏腹に、結構アグレッシブな性格なのかもしれない。

「すみませんでした」

 頭を下げると、「ま、いーってことよ」と堀和尚は首を振った。「むしろ、青春って感じがして俺は好きだけどな」とワハハと笑う。「で、肝心の心霊動画はどうなのよ?」

 僕は先程撮影した動画、堀和尚のお陰で失敗に終わった動画を再生する。失敗に終わったとはいえ、途中まではきちんと成立していて、見ようによってはこれでいけるんじゃないかという気もした。

「和尚として、これ、リアリティありますか?」

 僕の問に堀和尚は「そーねー」と眉間に皺を寄せ、それから僕の顔を見て「てか、俺霊感ねーからわかんねーや」と声をあげて笑った。思わずズッコケそうになる。

「和尚なのに霊感ないんすか?」

 聞いた、というよりも責めるニュアンスで晋作が言った。それっていいんですか、と僕も追随したくなる。

「あのな、お坊さん全員に霊感があるわけねーだろ。お坊さんの目的は、煩悩を消して悟りを開くことだ。幽霊と戦うことじゃねーからな」

「じゃあ、聞いた話でもいいので、今までで一番怖かった心霊系の話ってなんすか?」

「そーねー」と堀和尚はそり上げた頭を搔いた。「何気に一番怖かった、って意味では、幼い頃に見た悪夢が一番かな」と続ける。

「夢すか?」

 晋作が顔を顰めた。明らかに興味を失っている。それを感じたからか、堀和尚は「夢だからってバカにできねーぞ」と晋作を指差した。

「どんな夢すか?」

 半ば義務的に晋作が問う。堀和尚は「ビビるなよ」とわざわざ前置きをし、話し始めた。

「小さいころな、お家柄じゃねーけど、怪談とか心霊話とかかなり好きだったんだよ。怖がりのくせに、夢中になって心霊写真の本とか心霊番組とか見てたんだな。んで、ある時夢を見たのよ」

 夢の中、堀少年は誰もいない居間で一人心霊番組を見ていたのだそうだ。番組はよくある心霊番組と同じで、視聴者から送られてきた心霊写真を紹介し、それを霊能力者が鑑定する、という形式だったそうだ。

「まー色々な心霊写真が紹介されるんだけど、どれもこれも怖いわけ。俺は一人ブルブル震えながら、でもテレビに釘付けだった」

 番組が進行し、司会者が「では次の写真はこれです」と、一つの心霊写真を紹介した。それは、居間で食事をする三歳くらいの男の子のもので、一見すると何の変哲もない写真だった。

「だけど、なんか違和感がある。あれ、と思ってよーく見ると、その写真、俺の写真なんだよ。それも、実際にある写真」

 堀少年はその事実に気づき、困惑した。自分が写っている写真が突然登場し、だけどその写真におかしなところが何一つなかったからだ

「でも番組の出演者も、観客も一斉に悲鳴をあげるんだ。もう、それは大騒ぎさ。んで、霊能力者が言うんだよ。これは本当に危険な写真です。この男の子は呪われてます。ここを見て下さいって」

 写真に、心霊写真でよく見かける幽霊をわかりやすくする為の円が表示される。だけど、堀少年はそこに何のおかしな点も見つけられない。しかし、出演者は戦々恐々としてる。

「結局何がなんだかわからないまま次の写真にいくんだけど、その写真も俺の写真なんだよ。しかも、それも実際にある写真」

 同じことが繰り返される。何の変哲もない、実際にある写真。何もおかしな点はない。にも関わらず出演者や観客は恐れおののき、霊能力者でさえ震えている。

「俺は居間から自分のアルバムを取り出し、ページを捲る。すると、そこに全く同じ写真がある。でも、やっぱり何の変哲もない。何がおかしいのかわからないのに、とてつもなく恐ろしいものに思えてくる」

 そこで堀少年は目を覚ましたという。汗をぐっしょりとかき、ガタガタと震えていたそうだ。

「あれはマジで怖かった。未だにその写真見るのは躊躇するな。別におかしな点なんかねーのに、なんか怖いんだよ」

 どうだ、と堀和尚は得意気に晋作を見たけど、晋作は「へー、怖いっすねー」と平坦な声を出した。完全に事務的な返答に「なんでだよ、ビビれよ」と堀和尚が声を荒げる。

 その二人のやり取りを余所に、僕は一つの事実に気が付いていた。何気に撮った動画に幽霊が写っている。それはとても大切な要素だけど、それだけじゃ不十分なことに気付いたのだ。

「もの凄く参考になりました」

 僕が言うと、堀和尚と晋作が僕を見た。堀和尚は一瞬なんのことかわからない様子だったけど、すぐに目をギラリと光らせる。

「お役に立てたみたいで光栄だ。そのまま突っ走れ」

 そう言い、マスク越しでもわかるくらい、ニヤリと笑った。僕はもう一度、深く頭を下げた。

「御礼に女子高生紹介してくれ」

 堀和尚の言葉に、すかさず晋作が「修行足りてないって言われません?」と返していた。


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