花か風景ばっかじゃねーか
放課後、僕と晋作はとあるお寺の境内にいた。もちろん心霊動画を、それもホンモノのような心霊動画を撮影するためだ。
「なにがホンモノっぽいかわかったわけ?」
コンピュータ室を出た後、とりあえずスマホを見せろと言ってきた晋作に尋ねた。晋作は僕のスマホを受け取りつつ、説明を始めた。
「なんでニセモノはニセモノだってわかるんだと思う? あまりにもわざとらしいからだ」
言われ、僕は頷いて返す。確かにその通りだ。
「多分だけど、インパクトが強くないと、こんなもんかってすぐに興味をなくされるんだ。だから、どうしたってインパクト重視になる」
確かに最もらしい推論な気がした。で?
「樹のお笑い心霊動画が正解なんだよ。違う目的で撮影して、そこにさり気なく、気付かないくらいで写っているのがベストなんだ」
「それだとすぐ飽きられるって言ったじゃんか」
「気づき方によるんだよ。幽霊に気付くのが俺とか樹じゃない誰かの方がリアリティあるんだ。撮影した自分たちも気付いていませんでしたって方が、話としては怖くないか?」
言われ、考える。確かに、僕の撮った動画を見た誰かが違和感に気付いた方が、恐怖度は高い気がした。その噂が如月の耳に入れば、自然と接点も生まれる。いいぞ、さすが晋作だ。
「で、樹が自然と動画を撮るシチュエーションを考えてんだけど」と晋作が僕のスマホを操作した。画像フォルダから、僕が撮影した写真や動画をチェックし始める。が、
「花か風景ばっかじゃねーか」
晋作が嘆いた。そりゃ他に撮るものがない、もとい、撮る相手もいないからな。哀しいことに。
「花とか風景だとなーんか違和感出そうなんだよなぁ」と頭を搔きつつ晋作が画面をスワイプする。と、「これはいけるかも」と声をあげた。それは、学校帰りにあるお寺で撮影した猫の写真だった。
というわけで、僕と晋作は辺りを注意深く観察しながらお寺の境内を進んだ。しかし、猫の姿はない。そのまま集合墓地の方へ歩みを進めていく。
「発見」
晋作が小声で言い、身を屈めた。僕も同じく身を低くする。
視線の先、十メートル程先の墓石の上に、三匹の猫が寛いでいた。日向ぼっこでもしてるのか、目を閉じ眠りこけている。
晋作が僕を見、右手での人差し指で自分を指した。そして、横に半円を描きながら猫の向こう側を指差す。気付かれないように回り道をして猫の向こう側へ移動する、ということだ。僕は親指を立てる。
晋作が移動を開始した。中腰で、物音を立てないように墓石の陰に隠れながらゆっくりと歩みを進める。僕も僕で、気付かれないように少しずつ前進した。今の位置からだと、スマホのカメラでは猫がはっきりと写らないからだ。
しかし、野良猫に気付かれないように静かに移動するというのは思った以上に困難だった。何気なく寝転がっているように見えるけど、少し物音をたてると猫は顔をあげ、耳をたて、周囲を見回す。何か変わったことはないかと警戒をする。野生の世界とはかくも厳しいものなのか。
最終兵器匍匐前進まで使い、僕は撮影位置にスタンバイした。スマホを構え、墓石の上で寛ぐ猫たちを画角に捉える。さあ、こちらのスタンバイはOKだ。あとは晋作が猫の後方の墓石から顔を覗かせるだけだ。僕が右手で親指を立てると、猫の奥の方に移動していた晋作も親指を立てた。墓石の陰に隠れ、そこからにゅっと顔を半分だけ覗かせる。いいぞ、なかなかの表情だ、と思ったところで肩がはみ出ていることに気付いた。僕は首を振り、自分の肩を指差す。こちらの意図を読み取った晋作は一度引っ込み、再度顔だけをにゅっと出した。いけるか、と思ったところで、今度は顔が出なさすぎてあまりにもわからない。もう少し顔を出せ、とジェスチャーで伝える。
さあ、いよいよ撮影だ。僕が指で丸を作ると、晋作は再度顔を引っ込めた。録画ボタンを、押す。墓石の上で眠る猫を、スマホが記録し始めた。後は良きところで晋作が顔を覗かせればいいだけだ。さあ、おどろおどろしく顔を覗かせるんだ!
「なにしてんだ!」
突然背後から怒鳴られ、僕は悲鳴をあげた。スマホを落とし、そのまま前に倒れ込む。何事と振り向くと、そこには仁王立ちするお坊さんの姿があった。