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TikTokの踊ってみたみたいだな

「調べ物?」

 僕と晋作の顔を交互に見た日高先生が、眉間に深い縦皺を刻んだ。

「何を調べるのよ?」

 昼休み、僕と晋作はコンピュータ室の鍵を借りるために職員室を訪れていた。調べるだけならスマホを使えばできるけど、印刷が必要となるとそうもいかない。

「映像制作の方法?」

 晋作がそう答える。やや疑問系なのが信憑性に欠ける気がしたけど、案の定日高先生は「なんでだ?」と突っ込んできた。

「進路です」と僕が返す。「ちょっとそっちの方に興味があって」

「橘、映像系に興味あるのか」

 僕も初めて知りました、と言いたい気持ちを抑えつつ、「そうなんです」と頷いた。心霊動画っていう酷く限定的な範囲ではあるけど、映像に興味があるのは嘘ではない。

「じゃあ、進路も映像系が学べるところだな」

 勝手に進路が決まりつつあったけど、気にしないことにした。日高先生は鍵置場から鍵を一つ取ってくると、「ほれ」と僕に投げてきた。

「言っておくが、アダルトは見るなよ」

「もちろんです」と僕は頷く。学校のパソコンでアダルトサイトが見られないことくらい、既に実験済だ。


「さて、とりあえず適当に見ていくか」

 晋作がそう言い、キーボードを操作した。単純に「心霊動画」で検索をかけ、一番上に表示された動画をクリックする。と、何やら神社らしき鳥居とその前ではしゃぐ女性が映し出された。続いて、低く太い男性のナレーションが流れてくる。

「これは、デート中の若いカップルが、山奥の神社にお参りに行った際に撮影された動画である」

 どうやらカメラを回しているのが彼氏であり、はしゃぐ彼女を撮影しているようだ。幸せを見せつけられているようで、なんだか腹が立つ。

 彼女は終始笑顔を浮かべながら神社の境内を進んでいた。それをカメラが追うと、彼女は手水舎に差し掛かる。柄杓を手に取り手を清めようとするが、唐突にカメラ、つまり彼氏に水をかけた。「つめて」と彼氏の声と共にカメラが大きくブレ、地面を映し出す。続いて「やめろよー」の笑い声と共に再びカメラが彼女の姿を写した。と、その背後、手水舎の柱の陰に、肌の青白い女の人がこちらを覗いるのに気付く。

「げっ!」と思わず声をあげてしまった。

 動画でも同じように彼氏が小さな悲鳴をあげた。カメラが再度大きくブレれ、地面を写している。「どうしたの?」と心配そうな彼女の声が入った。「いや……」とカメラは先程女の人が覗いていた柱を写すが、そこには誰もいない。「なに?」と訝しむ彼女の声が入る。「いや、なんでもない……」とカメラが彼女を三度とらえると、彼女の後ろに先程の女の人が立っていた。

「あああああああ!」

 と、情けない叫び声を上げたのは彼氏であり、僕だ。僕の悲鳴に晋作が驚き、椅子から転げ落ちそうになる。

「そんな驚く?」

「いや、ヤバいってこれ」

「どこが? 完璧に作り物じゃんか」

 晋作はディスプレイを、彼女の後ろに立つ女性の幽霊を指差した。そして、「よーく見ろ」とコンコンと指で叩く。「この幽霊、最初に写った時と同じ画像だぞ」

 言われてみると、柱の陰から覗いている時と彼女の後ろに立っている時、左右は反転されているけど、確かに同じ画像のようだった。

「なんだよ!」

 キレイに驚かされたくせに、僕はその手抜き加減に腹が立った。なんだかバカにされているような気がしてくる。

 そこからひたすらに心霊動画を見まくった。その都度僕が悲鳴をあげ、晋作に「ピュアか」と罵られていたのだが、そのうち僕たちはある事実に気が付いた。パターンがあるのだ。

「一回幽霊写ったらビビってカメラ外れて、戻したら幽霊消えてて、そんで違う場所にババーンと出る。こりゃ、如月の気持ちもわかるよ。ニセモノを隠そうともしてない」

 そして、そんな心霊動画がネット上には余りにも溢れすぎていた。色々なワードで検索してみても、同じような動画に行き着くのだ。

「TikTokの踊ってみたみたいだな」

 晋作が溜息と共に頬杖をつく。言いたいことはわかる。数が多すぎる上に、違いがさっぱりわからないのだ。

 ひとまず、幽霊が写った場面などをピックアップし、印刷した。一応参考資料として持っておくことにしたのだ。

「逆にホンモノの心霊動画ってなんだろうな?」

 印刷された手抜きな幽霊を眺めつつ晋作が首を傾げる。「心霊動画 ホンモノ」で検索をかけてみた。これまた多くの動画がヒットするが、サムネからしてどうも怪しい。試しにクリックしてみると、案の定作り物を隠そうとしないネタ動画だったりする。

「そもそも、ホンモノってあんのかね」

 うーん、と二人して首を傾げたところで、「まだやってんのか?」と日高先生が入ってきた。「そろそろ昼休み終わるぞ」と僕たちの所へやって来、「案の定遊んでるな」とやれやれと息を吐く。

「遊んでなんかないですって。合成技術学ぶなら、心霊動画はいい練習になるらしいんです」

 僕が尤もらしいことを返すと、日高先生は「そうなのか?」と疑う様子もない。「しかし怖くないのか?」

「全然です。先生、心霊動画とか見たことあります?」

「そりゃあるさ。先生の小さいころはオカルトブームだったからな」

「怖かったやつとか、憶えてます?」

「よーく憶えてるぞ」

 日高先生は言うと、キーボードで何やら文字を打ち込み始めた。「あがってるかなー」と呟き、次々と検索をかけていく。やがて、一つの動画を見つけると、「あるじゃん」と嬉しそうに声をあげた。

「一番怖かったのは、これかな」

 動画が再生される。

 それは、どうやら夜道を走行中の車内で撮影された映像らしい。助手席に座る男性がカメラ片手に自撮りをしており、カメラは下から、恐らく膝の上あたりから見上げる形で自分と運転手とを写していた。

「ここ」

 と、日高先生が指差したのは、車の天井、サンルーフだ。開け放たれたサンルーフの向こうは漆黒の闇だ。そこからチラ、チラと白い何かが覗くのが見えた。よく見ると、それは少女らしき顔だ。

「うげっ」

 思わず仰け反る。これまで見た動画と何が違うのか明確にはわからないけど、なぜだか背筋に冷たいものが走るのがわかった。古いからか画質が粗く、それが不気味さを際立たせていたからかもしれない。

「あとは、これとかか?」

 これまた古い映像で、心霊スポットのダムに向かっている車内からの映像だった。画質が粗くわかりづらいが、車がダムにかかる橋に差し掛かったところで、欄干に座り手招きする男性が写っている。

「久々に見てもこえーなこれは」

 日高先生が大袈裟に身震いし、腕を擦った。

「これって、ホンモノなんですか?」

「今と違って一般人が合成なんてできない時代だぞ。信憑性は高いんじゃないか?」

 なるほど、と納得してしまう。そうすると、動画の質というよりも環境に左右されるのではと思えてしまった。つまり、ネット上に溢れる躍ってみたと同じだ。これほど動画が乱立する時代では、そもそもスタート地点がマイナスなのだ。

「それじゃ、もはやどうしようもないじゃんか」

「なにがだ?」と疑問を口にする日高先生をスルーし、椅子の背もたれに全体重を預ける。そのままずり落ちて床に沈んでしまいたくなった。

「いや、そうでもないぞ」

 そう首を振ったのは晋作だ。

「方法は、まだある」


サンルーフの少女と、ダムに向かってて手招きしているのは本当にある心霊動画です。

気になる方は、検索してみてくださいませ。

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