つまり、創意工夫だよ
「徹夜?」
朝の教室で顔をあわせるやいなや晋作に聞かれ、僕は舌打ちをする。その通り、僕は徹夜をした。結局朝まであれやこれやと粘ってみたものの、件の女性の幽霊は一度たりとも写ることはなかったのだ。
「受験勉強?」
「まさか」
即否定すると、「だよな」と晋作が嬉しそうに目を細める。まるで僕が受験勉強などするはずがないと確信してるみたいだ。
「おもろい漫画でもあった?」
徹夜をする理由=面白い漫画という貧困な発想が羨ましい。僕は首を振って否定し、「教えたくない」と返した。
「なんだよ、教えろよ。隠すようなことでもないだろ?」
「隠すようなことだから隠してんだって」
「いーや、違うね」晋作は自信満々に首を振る。「本当に隠しときたいなら、そもそも口には出さないだろ」
完全に図星だ。だって、ネタとしては面白いもの。
僕はスマホを取り出すと、「誰にも言うなよ」と念を押し、昨日のあらましを説明する。晋作が声をあげて笑うので、幾人かのクラスメイトがこちらを振り返り焦った。「バカか」と晋作の頭をはたいたところで、如月と目が合う。思わず、目を逸らしてしまう。
「でもさ、これって放っておいて大丈夫なのか? なんか、悪い幽霊だったりしないわけ?」
言われ、首を傾げた。考えてもいなかった。確かにこれが所謂悪霊という奴で僕に悪い影響を及ぼすものなら危険な気がする。だけど、とてもそうは思えなかった。
「そんな悪そうな顔はしてなくない?」
「まー、どっちかっていうと、呆れてるように見えるな」
言われると、確かにそう見えなくもない。むしろ、そうとしか見えなくなってくる。現世の女性ならまだしも、常世の女性にまで呆れられるとは救いがなさすぎる。
「如月ー」と朝からテンションの高い呼び声で視線をあげると、森岡が如月に歩み寄るところだった。そのまま如月の前の席に自然と腰掛け、「ちょー怖いやつ見つけた」とスマホを如月の前に差し出す。如月がスマホを覗き込むので、自然と二人の距離が近くなった。
「これ、凄くない?」
意気揚々と見せる森岡だが、如月はすぐに首を振る。
「ダメ、これ見たことあるし、作り物だし」
「うそー怖いって」と訴える森岡だが、如月は「全然ダメ」とまたも首を振った。どうやら、如月の心霊動画への拘りはかなりのものらしい。
「くっそー、こっちにはホンモノあるのに」
思わず地団駄を踏みそうになった。机に突っ伏したまま、森岡に心霊動画とはなんたるかを説明する如月を眺める。この動画を見せたら、如月はなんて反応するだろうか?
やはり、心霊云々の前に引くだろうか?
引くだろうな。
引くな。
引くに決まってる。
「でもさ、見せたところで、ニセモノって言われて終わりかもよ」
晋作がそう言い、僕は顔をあげた。見ると、「あり得る話だろ?」と肩を竦める。
「いや、歴としたホンモノだって。説明したろ?」
「証明はできないだろ?」
言われると、そうだ。確かに証明する方法はない。しかし、
「そんなこと言い出したら何見せてもダメじゃんか」
僕は抗議する。と、晋作はゆっくりと首を振った。
「違う、逆だ。別にホンモノである必要がないってこと」
「どゆこと?」
「考えてみろって。インスタ、TikTokとかのSNSからアイドルも食品産地も何からなにまで、世の中偽造されてるものばかりだろ。言ってしまえば、誰もホンモノなんて求めてないんだよ。それっぽくて、話題として盛り上がれればなんだっていいんだ」
「……つまり?」
晋作は人差し指を立て、米神をトントンと叩く。
「つまり、創意工夫だよ」