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風の君臨 「王はわたしよ!!」予知能力こそ神々の頂点です  作者: 竹宮 潤


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潜入

 それは、静寂塔で音を消された機械類の振動に似ていた。見る間に白線の内側の地面から金属の壁がそそり立っていく。それは巨大なドームを形成し、数分後には半径も高さも数十メートルはありそうな、半球状の建造物が出来上がった。白線内に置かれていた大小のコンテナやむき出しの大型機械類などはそっくりそのまま中に閉じ込められている。

 すると、私たちがゲートと目していたものから、ビーム状の光がドームに発射された。ドームを形作っている金属がビームの光でコーティングされたようになると、それはぱっと消えてしまった。後には白線のひかれた広場が残っていた。巨大なドームも、その中身も影も形もない。

― どうなってるの、これ?

 驚いている私とコーグレス王を尻目にあの人はカルティバや他の影たちとしばらく話し合っている。

― たぶん、テレキネシスです。ドームやあの光は演出にすぎません。

― 演出! あれは移動をそれっぽく見せるための目くらましってこと?

― テレキネシスということは、あのゲートを操っているのはリゼア人だということですか、ライラーザ?

― そうなりますね。今の事象を見る限り、アルシノエの社会構築実験をやっていたチームがからんでいるという話は可能性が出てきましたよ。

「あなたがた、初めて見たのね。まあ、私も今は見慣れちゃったけれど、最初はびっくりするわよね。」

「あそこにあった機械なんかはどこへ行ったんだい?」

「さあ。どっかで戦争をやってるそうで、そこへ運んでいくらしいってことしか知らないわ。」 

「俺、あんなの初めて見たよ。ひゃーびっくりしたー。」

 AIのお気楽な会話が終わると、私たちはまたゲート本体を目指した。ゲート本体は厳重な警備をされていた。というか警備されているように見せかけられていた。主要な星区の文字で「危険・近づくな」と書かれた看板が立ち並び、警備用ロボットが2台配置されているが、ロボットは見掛け倒しの代物だ。試しに立ち入り禁止区域の中に一、二歩踏み込んでみたが、両腕を振り上げて追いかけて来ただけで、禁止区域を出たら戻っていった。防犯カメラはやたらについていたが、一度に半分ぐらいしか監視されてないしくみだ。

 カメラの死角の立ち入り禁止区域外から転がした小石と機械部品は、ゲート内部へ転がり込んだ瞬間見えなくなったばかりでなく、反対側に出てくることもなかった。おまけにいろんな方法で測定していたにも関わらず、すべてが「ゲートの面に当たった瞬間に対象物が消えた」ということを表していた。

― どうします、普通に入りますか? それとも荷物と一緒に送られてみますか?

と、あの人が聞く。

― 荷物と一緒の方が安全だと思います。多少乱暴な移動をかけられても、私たち自身が自分の身を守ればいいだけのことですし。

と私が答える。

― 念のために成人体の2体使用モードにしておくのは?

― 意識の乖離が起こる危険性があります。やめておいたほうがいいです。

まかりまちがえば数年間の人格障害を被る可能性がある。3人ともまだ王位を手放せないので、この方法はすぐ却下となった。

 空っぽになった白線内にトラックや重機でまた荷物がどんどん運び込まれている。私たちは大きな宇宙船の部品と思われる耐熱シートで包まれた荷物に目をつけた。梱包材が荒っぽく突っ込まれているのをはずせば、この幻術体アバターなら3人ぐらい潜り込めそうだ。いつゲートが動き出すかわからないので、急いで余分なものをテレキネシスで放り出し、テレポートでもぐりこむ。王族アオのやることだから、ものの数秒で終わってしまったのだけど。少しわくわくした気分でいると、2人はもっぱらこの部品が何なのかを調べていた。相当大きい宇宙船用の部品だということだったが、わざわざ筐を使って宇宙船の部品を送り、マティで組み立てて何に使うんだろうと思う。

 待っている時間にひまつぶしとして、周囲の荷物を探る。武器弾薬の類は、大小に関わらずなるべく小さな部品を壊して使えなくする。火薬を使ったものは水を入れる。数キロ離れたところにある川の水だ。少しくらい使っても気づかれる恐れはない。

― 案外とまめな性格ですね、アルシノエ。

コーグレス王がからかう。

― そうでもないです。全部ダメにはしていません。全体の4割くらいですね。このくらい不良品があれば、士気に影響が出ますから。

― 来ますよ、二人とも。

 あの人の一言でおしゃべりは終わりになった。例の静かな波動がやってきた。白線内の荷物はまだまばらだ。運んでいた荷を乱暴に落としたヘリコプターが慌ただしく上昇していく。急発進したトラックが、必死に白線の外を目指してスピードを上げている。その間に私たちは外で観測を続ける影たちと接触を取る。

― ドームはセンサーがついているようですね。外へ出るものがいるところは上昇が遅れています。

― 王、まだ聞こえてます? 内部の気圧とか空気の割合とかに変化ありませんか? あ、今…

 ドームが締まり切っても届いていたテレパシーは、おそらくゲートからの光線が届いたと思われる時点で切れた。どのくらいの時間がかかるかと身構えていた私たちは、一瞬で空気の流れが復活したことに気づいた。外からガタガタと物音がする。私たちは用心してゆっくりと外へ知覚を伸ばす。

広くて薄暗い、巨大な倉庫のようなところだった。遠くの方で誰かの話す声がする。遠見で音声を拾って解析する。ここはどこだろう。


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