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風の君臨 「王はわたしよ!!」予知能力こそ神々の頂点です  作者: 竹宮 潤


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展開

 叫ぶように伝えるなり、皇子さまはトトラナと従者をつないでいた糸のようなものを断ち切った。

― 何をするの、ハーミオン!

― こいつがしていたのは、たぶん盗み聞きです。

 従者を包んでいた赤い光がぼんやりと薄くなり、浮かんでいた体が落下した。床にぶつかる寸前で私が止める。

― 大丈夫、まだ息はありますわ、トトラナ。それにしてもよくわかりましたね、皇子さま。

― おかしいと思ったんです。エネルギーを転送するならこんな少量では意味がない。かといって母上が消耗するほど大量なら、こいつの方が死んでしまう。だったらこの転送は見せかけで他に目的があるのではないかと思って。

 皇子さまは視線で射殺すような勢いで、従者を見つめている。

― だったら、いっそ目的は母上ではないとしたら、と考えました。おそらく相手が目的としているのはリゼア連邦大公たるアルシノエではないかと。あなたがどこまで自分たちのことを知っていて、この先どう仕掛けてくるのか、情報を送るのがこいつの役目だったとしたら、話が合います。

― 死にかかっているように見せかければ、トトラナ様はこの結合を断ち切ったりはしない。そして、皇子さまは必ずどこかの時点でミトラ王に相談されるはず。うまく考えましたね。

 ウロンドロスがそう言いながら従者の体に触れようとした途端、私たちの知らない低い帯域のテレパシーがつぶやいた。

― ヨク ワカッタネ

― ニニ!?

 トトラナが従者に駆け寄ろうとした瞬間、ポスっという小さな音がして、従者は体をひくっと痙攣させると息絶えた。

― 脳が破壊されています。おそらく外科的に埋め込まれたものが爆発したのでしょう。

従者の身体を床に横たえながら、ウロンドロスが言った。

― まずはこの幕間まくあいを棚上げして、協奏者の報告を全て聞いてしまいましょう、王。罠をかけた側の情報がつかめるかもしれません。


 協奏者の報告は私の予知能力が示唆していたものを裏付けた。彼らの根城はオーフ系第4惑星。「支配する者」は諜報員として適性のある者をあちこちの星系で生み出してはここへ集めていたようだった。

 ここでもうあの人を蚊帳の外にはしておけず、事情を説明してセレタスの協奏者も動かしてもらう。目的はオーフ系第4惑星の調査である。

― あんな小さな星系に隠れていたとは。

― 社会構築実験をやっていたチームですもの。帰還していないメンバーがいたとしても不思議はないです。神になる体験をした人々が「支配する者」を名のるのはおかしなことじゃありません。帰還して当初の目的を果たしたことに喜びを感じるものの他に、世界を支配する神としての生き方を続けることを望んだものがいたのかも。

― では、社会構築実験チームの一部が、「支配する者」であり、一連の罠を仕掛けたと、アルシノエ?

― それなら納得できませんか、セレタス王。

 わたしは絶対あの人の名前なんか、呼んでやらない。

― 彼らが生き残っていられるはずがないでしょう。アルシノエ、冷静に考えてみてください。

 コーグレス王も言う。確かにそうだ。私はミトラの第27代めの王。初代王である聖アルトアニザこそが、帰還してきた社会構築実験チームのリーダーなのだ。リゼア暦で六千年以上前の人間が生きていられるはずはない。

― では彼らの子孫とか。

― 近親婚による遺伝的な劣化で消滅しないためには、数百人規模の人数が必要です。ありえませんよ。仮にできたとして六千年もの長きにわたり、祖先の意思を守り続けることができるでしょうか。

 そうなのだ。あてにならない子孫に計画をゆだねるくらいなら、いっそタイムマシンで未来に干渉しているという方がよっぽどあり得る仮定である。だが、実際にはタイムマシンはお話の世界の産物なのだ。私たちは未来を垣間見できても、過去へ戻ることはできない。

 皆、同じ袋小路に突っ込んで黙り込んだ。方法はわからなくても、オーフ系第4惑星を根城にしている「誰か」が、マティを傀儡に仕立てて私たちに戦争を仕掛けてこようとしている事実に変わりはない。

― 理不尽ですね。わたしたちは関わる者全て、一人の命も失われないようにしているというのに。相手は我々はもとより、目的のためなら味方を殺すことも厭わない。

 誰にともなくわたしがこぼすと、あの人が返す。

― 戦争をしようという連中ですからね。

― ねえ、戦争と言えば…

 突然皇子さまが、割り込んできた。

― お二人はどうして仲たがいなさったんですか。アルシノエが即位されたからではないような気がするんですけど。

 突拍子もないタイミングでそのものずばりを聞く。皇子さまにはそういうところがある。わざとなのか、天然なのかよくわからない。ところがどうせまた笑ってごまかすだろうと思っていたあの人が、なぜか真剣になる。

― 実はわたしもそれを知りたいと思っているのですよ、アルシノエ。わたしは何か、あなたを怒らせるようなことをしましたか。

はぁ!?それを自分で言うって、どれだけ自覚がないの?

― …まる一日、待たされたのですけど。

― え? いつのことですか。

― は?

 私がひどく怒っているのは十分伝わったらしいが、本当にわからない? そのとき、あわてふためいた様子でもうひとり割り込んでくる者がいた。

― すみません、すみませんっ、王、ミトラ王。全部俺です。俺が悪いんです。勝手して申し訳ありませんっ。

― だれっ!!?

― ひぃぃー、すみません。

 よほど私は相手に自分の怒りをぶつけたらしい。恐縮を通り越してさっきの従者ほども縮こまった様子のこいつは、ひたすら謝り続ける。

― カルティバ、もういいから、わかるように言ってくれないか。

あっけにとられた様子で、あの人が言う。

― カルティバはセレタス王の副官ですわ、王。

 エルクリーズが耳打ちした。いつぞや交易都市ディクラの防衛の時に見かけたなれなれしい態度の男だとわかった。


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