予言
皇子さまと二人だけで読んでいても埒が明かない。あの人にも来てもらって意見を聞いてみるのがいいのだが、実を言えば話しかけたくはない。というかわたしから呼びかけたくはない。かといってさすがに皇子さまに呼び出してもらうのは申し訳なく、仕方なくセレタス王宮へテレパシーをむけた
― アルシノエ! 何です?
いとも嬉しそうに返事がかえってくる。イラつく気持ちを抑えてなるべく平静に用件だけを伝える。
― あー、ごきげんよう、セレタス王。新生命宮の王の間まで至急来ていただきたく…
― ライラーザ、大至急来て。相談したいことがあります!
皇子さまは遠慮なく割り込んでくる。結局それで通じた。あの人のテレパシーから甘さが消える。
― 行きます。待っていて。
気まずいため息をこっそりつく間もなく、あの人はやってきた。相変わらずの美丈夫ぶりだが、今日は執務室から直行しました的な至極まじめな装いである。取り散らした石板を見るまでもなく、呼ばれたわけは理解したようだ。
わたしは一番まっすぐ表現された予言の一枚を差し出した。
― 戦争?
わたしも皇子さまも、黙っている。予言書に何を読み取るかは王族個々人に任せられるものだから、わたしたち二人も実はまだ何の協議もしていないのだ。
ところが話し合いをするためには四王会議という公式な場を設けなければならないという。だが4人目の王、新生命宮の長、銀海の宮は眠りの中だ。王族の出身で、せいぜい数日しか眠ったことのない銀海の宮だったが、わたしが外宇宙に出た後で眠りに入ってすでに1年以上たっているという。多くの者がもう帰ってこないかもしれないと恐れている。銀海の宮は予知能力者には珍しく成人体を持っていたのだが、それでもとうに賢者の年合いを越しているのだ。
通常、予知能力者は生得的な能力で、多くは成人する前から予知夢の世界に入る。その期間は数日から十数年に及び、本人がコントロールできる場合もそうでない場合もあるとされる。それ故に生まれ持った肉体のまま生きるものがほとんどで、寿命は眠りの期間も含めてせいぜい百数十年という。リゼア人の寿命としては異例の短さであるが、それでも高度に発達した生命維持カプセルの賜物であって、眠りの中で肉体が老い、亡くなることも珍しくないのだ。
イツシンデモオカシクナイ。新生命宮の長は事実上の不在なのだ。
― どうするんですか?このままでは四王会議が成立しません。
― 新生命宮の留守役に代理を立ててもらいましょう。形式だけでも整えなければ先に進みません。
新参者のわたしはそういうものかと黙っているしかない。やることがなくなり、皇子さまは帰ることになった。未成年者は規則正しい休養が必要だ。お見送りをすると二人きり残された。気まずい。わたしもいっしょに帰ってしまえばよかった。
― 急いてはいけない内容ですね。すでに影たちが動いているのでしょうけれど、決して先走ることがないよう。
― 心止めて。
目線を伏せたまま立ち上がった時、手を掴まれた。絶妙に指の先だけ。すり抜けさせてはくれない力加減で、ふりほどくのも無礼なのでそのままにしているしかない。
― 外宇宙でのあなたの調査も報告していただかなければならないでしょう。四王会議の後、専門委員会を招集すべきです。よろしいですね。くれぐれもこの件に関してはお一人で動かないよう。
― そういうものですの。
― ことが動き出せばあなたにはもっと見えることがあるはず。それをわたしたちにも必ず共有させてください。でないと…
アナタノミライハ アナタヒトリノモノニ ナッテシマウ。
これは決まり文句だ。予知能力者とは別のやり方で恣意的に未来を予知する王族に対する戒めの言葉。
― わかりました。次からはわたしの内侍を連絡役にしましょう。では。
さっさと王の間を後にする。見送っているあの人の視線を感じる。お母さま、お父様。誰かを頼ってみたくなったのは久しぶりだった。




