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風の君臨 「王はわたしよ!!」予知能力こそ神々の頂点です  作者: 竹宮 潤


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事故

― 来たぞ、速い‼

 出現点は私の示した座標より、若干ずれた場所だった。だが予想以上にスピードが出ている。みるみる目視できるほどの所までやってきた。セレタス王以下全員が障壁の内側に入って、全力で障壁の維持だけをしている。

 私は障壁の厚みを作ることに注力しつつ、片手間に船内に意識を向けた。乗員は全員一つの部屋に集まっていて、みな気絶しているようだった。5人か。いいわね、この程度なら楽勝。密閉されているコクピット全体を筐化して交易都市内のゲート地区に送り込むのと、宇宙船の先端部分が障壁に触れるのがほぼ同時だった。

 すさまじい爆発と衝撃を、私たちの障壁は受け止めた。ただし交易都市は全くの無傷では済まなかったらしい。まず私が宇宙船のコクピットを「投げ込んだ」衝撃があったこと。人の少ない倉庫街の大型ゲート地区を選んだつもりだったんだけど、逆にそれがモノの被害を大きくしたらしい。ついで直撃したわけではなかったものの振動波の影響は大きく、交易都市は物理的に大きく「ずれた」こと。言ってみれば大きな地震にあったような状態になったようだ。人命の被害はなかったものの物的被害は相当額に及んだ。

― 皆、無事ですか。

 共感応を一緒に障壁を築いてくれたセレタスの人々に、ついで、交易都市内のリゼア人たちに広げた。よかった、当然のこととはいえ疲れ切った様子だけど、大役を果たした満足の笑顔が見える。

 事故を起こした、いや巻き込まれたというべき宇宙船は全損としか言いようのない状態で、私たちが作った障壁の向こう側で散らばっていた。

―王、乗員が見当たりません…

誰かがあの人に報告している。

―ああ、乗員は交易都市に送りました。無事なはずです。

―え! あの短い時間に、ですか?

 あの人までが驚いたように私を見た。時間を超えられる者には刹那も一日も体感が好きなように変えられる。ただそれを実体験できるのは私だけ。あの人もおそらくは想像がつくだけ。

― では、都市の中はお任せしましょう。ここの片づけは我々が担当します。

 あの人の命令で人が動き始める。慣れてる。なんかうらやましいような気になる。

― ではお任せしました。行きますよ、イクセザリア。

― はい、王。もうサグももどっているかと。


 出たのは都市責任者の個人住居だった。交易都市ディクラの中心軸の中ほどに位置する、リゼア人だけしか出入りできないようにしつらえられた居宅を兼ねた仕事場だ。

― ミトラ王、この度は我が交易都市ディクラを守っていただきありがとうございました。心より御礼申し上げます。

 恭順の礼をするこの人はミトラの王族である。後ろで神妙にしているサグが内心にやにやしているのがわかる。普段何かと権力を笠に着る彼が、私の前では膝をつく姿に留飲を下げているのだ。

― 被害はどのくらいになりそうですか?

― 調査が済まないと厳密にはわかりかねますが、おそらく都市の年商の1割もかかるまいかと。まあこの時とばかりにふっかける者もあるかと思いますので。

― 私の名前を出して惜しみなく復興費を出してあげなさい。あとで追加分は内院へ請求して。

 はめていた左腕のリングをはずして、テーブルにのせる。都市責任者の目に少し驚きの色が浮かぶ。

― 大盤振る舞いしすぎですよ、王。

突然ウロンドロスが割り込む。リゼアの通貨は生物的エネルギーだから、装着して私のエネルギーをため込んだリングは、さしずめ金貨の詰まった特大の宝箱か、札束ぎっしりのスーツケースのようなものだ。

― 今回は非常時ゆえ、そのままとっておきなさい。あとで使い道の報告書を上げるように。

― だそうよ。

― はい、ありがたく、王。

 サグのにやにやは会心の笑みになった。あとでここでの彼の暮らしぶりを見せてもらおう。さて、もう一つの仕事がある。

― ところで、事故を起こした宇宙船の乗員は?

― 都市の医療区に運んでおきました。みな命に別状ありませんが、ひどい重力酔いを起こしています。それに船と積み荷を失くしたことで相当ショックを受けています。

― どこの星系の者です。

 聞かなくていいことをわざと聞いている。答えはもう知っている。

― ナ星区にあるソル系の者だと言っております。

― 比較的最近開かれた星系ですね。

― さようで。

― 話を聞きたいから、回復したら連絡を。

― 仰せのままに、王。

 表向きの会見の終わりを表すべく立ち上がる。サグが目で合図をする。

― わしが使っている部屋があります。とりあえずそこへ。



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