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4.それは詐欺では?


その後、教室に戻ると一斉に好奇心たっぷりの視線を浴びたけれど、クラスメイトたちには『実はわたしが幼い頃に遊んだ相手がゼストだった。彼はこっそり龍族国を抜け出して遊びに来ていて、わたしも龍族だなんて知らなかった。偶然の再会にお互い驚いた』という作り話で通した。


人族の同級生たちはともかく、龍の王子様であるユリウス殿下には嘘が見抜かれるのではないかと冷や冷やしたけれど、幸い、殿下は何もいってこなかった。刺すような視線は感じたけれど、それだけだった。


そもそも、神の化身ともいわれる龍族だ。留学生にはやたらな質問をしてはいけないことになっている。龍族国や家族について尋ねるのも失礼なこととされている。それは魔法学園に伝わる不文律であり、先生からも念押しされていたので、ゼストやわたしが質問責めにされることもなかった。


もちろん、物言いたげな視線は山のように感じたのだけど、わたしはそれに気づかないふりで、授業が終わるとゼストとともにそそくさと教室を出た。





二人で向かった先は、わたしのお気に入りのパンケーキのお店だ。


童話風の可愛らしい外観と、魔法が使われた綺羅星パンケーキが有名なお店だ。学園からはやや距離があるので、同級生に遭遇してしまう可能性も低いだろう。


女性客が大半を占める店内で、ゼストは少し居心地が悪そうにしていたけれど、店員さんからメニューをもらうと真剣に読み始めた。


ゼストは昔から手引き書にきちんと眼を通すタイプだった。古代遺跡でマジックアイテムを見つけたときも、周辺の壁画に取り扱いの方法が記載されていないか丁寧に探していた。わたしが『とりあえず弄ってみたら何とかなるって』という適当さだったのとは正反対である。


ちなみにこの適当さは功を奏したこともあれば、せっかくのマジックアイテムが消し炭になったこともある。売れば大金になったはずなのにと、わたしがなくしたお金を思って泣いていると、ゼストは「あなたに怪我がなくてよかったです」と慰めてくれた。優しい。


わたしはそこでハッと気づいた。何も考えずに好きなカフェに連れてきてしまったけど、ゼストのお財布状況を確認していなかったことに。


千年来の友としてなんという失態だろう。お金のことはゼストだって自分からはいい出しにくいだろうに。


わたしはメニューを見る振りをしながら、テーブルを挟んだ向かい側に座る黒髪の美形に、ひそひそ声で尋ねた。


「ゼストさん、つかぬことをお伺いしますが」


「なんですか、その突然の敬語」


「今のゼストの収入源ってどうなっているの? 千年前は魔物退治で謝礼金を貰ったり、襲い掛かってきた龍族を返り討ちにして身包み剥いだりしていたけど」


ゼストは思い出すように眼を閉じて、しみじみいった。


「懐かしいですね。あなたが鱗衣まで剥ぎ取ろうとして、俺がそれだけは後生だからやめてあげましょうと追いすがっていましたよね」


鱗衣というのは龍族が自分の魔力と鱗で生成する長服だ。

自分の鱗と同じ色をした裾の長い服で、千年前の龍族はほぼこれを着ていた。


防御性能が高いというのもあるけれど、鱗衣の最大の利点は龍の姿になったときは鱗に戻り、人の姿に戻ったときには再び長服に変わることだ。龍化によって服が破けてしまうこともないし、人化したときに全裸になることもない。龍族にしか作れない便利な魔法の服だ。


わたしの記憶にある限り、龍族といえば鱗衣を誇らしげに纏っているものだったけれど、留学生の王子様はちゃんと学園の制服を着ていた。鱗衣は魔力と鱗で作っているだけあってシンプルな服だったから、さすがに千年も経つと人気がなくなったんだろう。きっと昨今ではもっとお洒落な服が流行っているにちがいない。いいことだ。


ゼストは鱗衣が好きじゃなかった。あれはどうやっても鱗と同じ色になってしまうから。


わたしは思い出したことをそっと心の片隅において、ふふんと不敵に笑ってみせた。


「人間、追い詰められたら追い剥ぎにもなるのよ。鱗衣は珍品として高く売れたから嬉しかったな~。鱗衣を剥ぐと全裸の龍族が出現してしまうのも些細なことだったわ」


「それが最大の問題だったじゃないですか……」


ゼストが頭を抱える。


わたしは「そんなことよりも」と尋ねた。


「今も魔物退治で稼いでいるの? それとも冒険者みたいに希少な素材集めとか?」


「もしかして俺の財布を心配してくれています?」


わたしが言葉に詰まると、ゼストは破顔した。


「大丈夫ですよ、ルーナちゃん。俺はこう見えてもお金持ちなんです」


「まさか実はS級冒険者のゼストさんだったりする……!?」


「しませんけど」


「なんだ」


「あっ、今ガッカリしましたね? 俺だってやろうと思ったらできますよ! 今からでもS級冒険者になってきましょうか!?」


ゼストがなぜか突然ムキになっていう。わたしは笑ってしまった。


ゼストはわたしよりはるかに穏やかで怒らない性格なのだけど、たまに謎なところで意地になったりするのだ。本人にいったら拗ねそうだからいったことはないけれど、こういうときのゼストはちょっと可愛い。


わたしは軽く手を振っていった。


「いいよ。ゼストならできるのはわかっているけど、悪目立ちしちゃうでしょ? それより、収入源は?」


「ふっ、ご存じですか、ルーナちゃん? 今は家にいながらスキマ時間で稼げる時代なんですよ」


「それは詐欺のうたい文句じゃない!?」


「詐欺じゃありません。俺にはちゃんと信頼できる取引相手がいるんです」


「騙されているひとがいうやつだ!!」





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