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そしてまた、この地へ  作者: 朱殷


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フェスティバルフェスティバル2


 とあるカフェにて。二人は密談を交わしていた。


「ここからじゃ話し声は聞こえないね。もう少し近くの席へ座った方が良かったかも」


「これくらいが丁度良い。近付きすぎて感づかれては困るからな」


「いつ飛び出すことにする?こんな静かなカフェじゃ他にお客さんもいないし、待っても同じことだよ」


「そうだな――いや、もう少し待て。せめてそこの道に通行人がいるときにしよう。目撃者を増やさないと」


 二人の視界の先には、怪しい二人組がいた。落ち着きなく辺りを見回して、優雅にコーヒーを嗜む。


「あの、お客様――?」


「ちょっと待って、今良いとこなの。後でコーヒーでも何でも頼むから」


 ノクターナは店員を軽くあしらう。二人の目には二人しか入っていないのだ。


 そんなルドルフとノクターナを見つめる二つの影があるとも知らずに。


◇◆◇


 数時間前。


 お祭りモードは留まるところを知らず。


 渾身の怪談は眼中になかったもう一組の参加者に敵わなず金一封を逃した二人だったが、チャンスは塵のように転がっていた。


 本来は出し物を眺め屋台を楽しむだけのつもりだったが、一度掴みかけたものに再び手を伸ばせるとなってはもう関係ない。面白そうなイベントを探すのではなく、無意識の内に賞金と勝率が定規になっていた。


 勿論二人は旅人だから、興味が湧くかどうかは根底にあるけれど。


「あれとか、どう?」


「参加者が多いな。それよりはあっちしか良さそうじゃないか?」


「うーん、僕たちに勝てるかな?」


 とまあそんな具合に。


 いやむしろ、それこそが本来の楽しみ方なのかもしれない。


 考えれば考えるほど、わからなく欲深くなっていくもので、冬こそ怪談選手権くらいので妥協しようかと思い始めた頃。様々な音が入り乱れる辺りに、ひときわ目立つ爆発音が鳴り響いた。


「聞こえた?」


「俺の耳はそこまで遠くない」


 どんちゃん騒ぎをしている人々だろうと一度は静まる音。スピーカーから流れるBGMと耳鳴りだけが静寂に鎮座していて、すぐさま状況はどんちゃん騒ぎに戻る。


 少しして、離れたところで土埃が舞っているのに気づいた。どうやらそこが爆発の発生場所らしい。


 ルドルフはノクターナに目配せをして、現場に走る。


「俺が、俺こそが最っ強だっ!」


「レギュレーション違反が発生しました。該当選手は直ちに本部へ出頭してください」


「あえ?」


 男の咆哮をアナウンスは整然と断罪した。男の情けない声がマイクに拾われた。


「えっと――?」


「大変申し訳ございません。只今レギュレーション違反が確認されましたので、力自慢大会腕相撲部門の進行を一時中断しております。再開は十分後を予定しています」


 力自慢大会、会場。いくつかのブースに別れ今も男たちの熱い戦いが繰り広げられている。その一部分にあたる場所で、地面に伏せって悶絶している人がいた。彼が多分、咆哮男の対戦相手だった方だろう。


 十分かそこらで何とかなりそうな悶絶具合ではないのだが、スタッフが脇から出て来て担架に乗せられ連れ去られて行った。一体何があったのやら。


「今一度皆様にご連絡いたします。本大会は肉体本来の力を競うものですので、魔法の使用は禁止しています。違反した場合はきっつーいペナルティがありますこと、ご了承ください」


 なるほど、魔法を使ったのか。


「きついペナルティって、大量の罰金とかかな――」


「そんなちゃちなもんじゃあねえぜお嬢ちゃん。聞いて驚きな。――三年間のイベント出禁処分だ。参加だけじゃねえぞ、見るのもだめだ。実質死刑宣告だな」


 ノクターナの呟きを拾った解説おじさんは、がっはっはと盛大に笑いながら去って行った。なるほど、国民性が少し理解できた。


 一瞬は大きな騒動になっていた現場だったが、手慣れたスタッフの手腕によって次第に事態は収縮していく。


 しかしながらどんな場所にも混乱に乗じようとする不届き者はいるもので。


「今がチャンスよお姉さま。誰も賞金を見ていないわ」


「良くやったわ妹ちゃん。彼には感謝しましょ」


 彼女たちには五年のイベント出禁処分が言い渡されるのだろうか?


「ね、ルドルフ、あれ」


「少し泳がせてみないか」


 もしかしたら賞金と褒賞の両方がゲットできるかもしれないし。


 他の誰にも気づかれないと言う見事な手腕を披露した姉妹を、二人は物陰からこっそりと覗き見た。


◇◆◇


「やりましたわお姉さま。しかも誰にも気づかれないだなんて」


「やったわ妹ちゃん。栄養が筋肉に吸われておつむが弱いのかしら」


 姉妹は勝ち誇った様子で、喧噪が遠くなったカフェにてコーヒーを楽しんでいた。同じ店内で旅人が二人、姉妹を見ていることも知らず。


「簡単だったわね姉さま」


「これで賞金もお給金も私たちのものよ妹ちゃん」


 ルドルフたちは知らないのだが、姉妹は盗人ではない。


 これは力自慢大会の部門の一つだ。ルールは簡単。会場の中心に配置された賞金を盗み出すこと、又は盗み出された賞金を取り返すこと。後者は早い者勝ちだ。力自慢が脳まで筋肉に侵食されてはならないと言う理念のもと開催された。


 しかしながら力自慢たちは盗みよりも取り返すことでこそ己を証明がるようで誰も賞金に手を出さず、解決策として姉妹が雇われたのだ。最終日まで、あと三日盗み続けられれば賞金は姉妹のものになる。


「日没まであと四時間と言ったところねお姉さま」


「日が暮れたらお給金を受け取って、賞金を持ったまま隣町まで逃げましょう妹ちゃん」


 姉妹は盗人でなかったが、決して善人でもなかった。姉妹は勝ちを確信した。そんなときだった。


「賞金は僕たちのものだ!」


 ルドルフの静止虚しく、杖を構えたノクターナが飛び出す。


「きゃっ――」


 突然のことで姉妹は反応できず、ノクターナによって簡単に捕縛される。


 ノクターナは勝ちを確信した。


「おめでとございまーす!」


 隠れてこの時を待ち侘びていた大会運営スタッフがノクターナを祝福する。


「ひゃっ――」


 他に人がいるなんて考えもしていなかったノクターナが、空気の抜けるような変な声で驚く。


「力自慢大会頭使う部門優勝です!」


 大会運営スタッフは頭の悪そうな部門名と一緒に現状を簡潔に説明し、ノクターナが握っている杖を一瞥する。


「レギュレーション違反ですね」


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