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75話【原国左京の振り返り/原国左京視点】

 世界同時に起きるダンジョンアポカリプス現象の1日目を、乗り越えられた。



 幾度も周回した世界。1日目で世界すべてが滅亡を迎えることは少なくなかった。


 突然得た力。それが何であるか、どう扱うもので、危険はないのか。

 それを考えて理性的に行動できる人間は少ない。


 このアポカリプスは、人類から奪うことで、成立するものではない。

 与えられすぎた力による崩壊。


 人類の望みを叶えるパンドラの箱が開けば、無秩序に皆それを扱い、人は皆滅んでいった。


 それを法整備で制御できたのは日本国内だけだ。

 何度繰り返しても、他国とは連携することが出来なかった。


 2024回の死に戻り。


 あらゆることを試し、ようやくスタートラインに立てた。


 夜景。そのビルの明かりも、今日は少ない。経済も商業システムも今までの形を保つことはできない世界だ。


 搾取はスキルという暴力でしか成り立たない。世界の法は塗り変えられた。


 血の蘇生術は夢現ダンジョンでしか得られない特殊スキルだった。派生の反魂。


 聖女スキルの告解は、有坂さんひとりですべての人間を裁くことはできず、調停者の力を使えば使うほど、真瀬くんは魂を削っていった。

 彼にあの力を使わせてはいけない。


 告解、調停者。そのスキルの本質は『裁き』であって、救いではない。

 人間の欲望は際限がない。

 善悪の境は曖昧模糊(あいまいもこ)で、人は真理を求める。


 自らの、心地よい世界という真理を欲し続ける。

 

「原国さんもそろそろ休まれては」

 三鷹くんの言葉に微笑む。


「先に仮眠をとってください。わたしはもう少ししてから休みます」

「いえ、原国さんは放置していると絶対休みません。貴方が休まないなら私も同様に」


 彼女はきっぱりといい放つ。どれだけ周回を重ねても、変わらない彼女の言葉に微笑む。


「私はいいんですよ。鍛えてますからね。貴女は仮眠をとりなさい。これは命令です」


 何度かのやりとりを経て渋々退出する三鷹くんを見送り、一冊の手帳を開く。


 2024の周回で、この日のためにしてきたのは法整備などだけではない。

 心身を鍛えた。どうすれば、不眠不休でも体を余すことなく扱えるか。いくつかの周回をその方策に費やして、以降は個人でその訓練を行った。


 いくつかの周回では、キーとなる人間をアポカリプス以前から、集めて訓練したこともある。


 そのことごとくが失敗だった。


 彼らから日常を奪ってはならないと、失敗を繰り返して気がついた。


 愛する日常があればこそ、力を発揮できる。

 それを奪ってしまっては、力を十全に振るうことができないのが運命固有スキルを持つ者。


 日々を愛するもの。生を謳歌するもの。人を信じるもの。よりよくあろうとするもの。

 彼らには、強制力は不要だった。


 今回もそうだった。殺すように命じても、彼らはそれを良しとしない。


 わかっていた。


 だからこそ、非日常に叩き込まれた彼らには休息と睡眠が必要だ。

 今頃は皆、夢も見ずに眠っていることだろう。


 冷めたコーヒーを口にして、砂糖菓子を口に入れる。


 情報をさらい直し、今回初めて到達したもの、知りえたことをまとめる。

 節制(テンペランティア)からの情報、そしてこのアポカリプスゲームの攻略。


 PC、無線、方々から入る報告、出すべき命令を下し、行うべきことを事前整理する。

 丑三つ時、海面の下降が始まった。


 世界の形が変わる。地政も、このアポカリプスは塗り変えていく。


 土地が増え、水路も増える。海面が減った分だけ、地上に湖や水路が増え、潮の結晶が岩塩のような形で、各地で発生する。

 どれも、ここにそうあればよいと人が望む地域で起こることだ。


 大陸と繋がった、法治がまだ成立している日本には、侵略を求める者と難民が押し寄せてくる。

 その防衛ラインを自衛隊が敷く。


 日本だけがよければよい、という話でこうしているのではない。

 このアポカリプスの基点は日本の東京にある。


 札の辻交差点。あの場所で起きた事故。


 最初の周回では、あの場所に歩道橋はなく、渋谷同様のスクランブル交差点だった。

 それが2周目からは歩道橋となっていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして真瀬零次(はじめ)の消失と共に事実は置き換わる。

 トラック運転手の過失による玉突き事故。


 事故以前に遡ることはできず、いつも衝突の衝撃で目を覚ました。

 最初は混乱して取り乱しもしたが、誰もがそんな私の言葉を事故の影響として対応する。


 真瀬親子に近づくことをした周回もあった。武藤少年に近づくことした周回もあった。武藤くんたちを引き取って育てたことすらあった。

 他の運命固有スキルを持つ人たちと事前に交流を持った周回。それらを無数に重ねた。


 そのどれもが上手く行かなかった。


 私は彼らの日常になれないことを悟ったのは千を越える周回の果てだった。

 

 私の役割は彼らの司令塔であること、それを自覚したのその後500回を越えて悟った。

 そして東京を戦地にしないこと。


 それでも7日目には、すべてが崩壊した。


 目覚める地点は更新され続け、修正が効かなくなっていく。その焦燥感を持たなくなったのは、いつからだっただろうか。

 私は最早、人の心を持たないのではないかと懊悩(おうのう)することがなくなったのは、いつからだっただろうか。


 すでに死に戻りの力は失われた。


 今死ねば、情報を抱えたまま消えることになる。それだけは避けなければならない。


 私は一冊の手帳に記す。これまでの周回で得た知識を。情報を。


 私に与えられた、死に戻り、そして不撓不屈のスキル。

 それと同時に与えられたアイテム。


 一冊の手帳。いくら書いてもページが尽きず、劣化もしない。

 そして一番の特徴は、()()()()()()()使えること。

 今までの周回のすべてを記してきた手帳。



 それは私の死後も残る、私の成果のすべて。

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