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69話【アポカリプスサウンドⅢ】

『PKを行ったプレイヤーをアプリから確認できるようになりました。また、PKを行ったプレイヤーの左手の甲に血の紋を形成しました』


 僕たちはそのアナウンスに顔を見合わせた。

 原国さんが左手を皆に見せる。血の紋はない。


「私は今の周回では誰も殺めていませんので、この通り何もありません」

 別周回のものはどうやら形成されないらしい。


「海域のことについても、事前に政府と自衛隊、関連する全ての場所に通達指示は済んでいます」


 海面が下降すると、どうなるのか。

 僕たちに原国さんがざっくりと説明してくれた。


 大陸棚と呼ばれる水深の低い部分が地面となり、日本列島は全て陸続きになること。

 そして、日本は大陸とも陸地で繋がり、日本海は巨大な塩湖となる。


 海の水位が下がるということは陸路が増え、海で隔てられていた土地が、船や飛行機を使わずとも通行ができるということだ。


 日本だけでなく、世界全体で地図が書き変わる。


  国連海洋法条約に定められた『200海里水域』までを、陸路になった後も自国領として運営するという形で日本は声明を出すということ。


 そのための日本の国土防衛についても、既に何をどう行うかは決定が下されていること。


「緊急放送などでの呼びかけも行われます。アプリの方も見てみて下さい」


 スマホのアプリを確認してみると、今まで出会った人たちがリストになっていた。

 PKをしたことがある人のところには、名前の横に黒い星マークがついていた。PK数は表示されない。



「これで、状況はさらに悪化したってことだな?」



 武藤さんが言う。


「そうです。人殺しなら殺していい、人殺しが怖いから先に殺そう。そういった人たちが現れる。こちらも緊急放送で通報の呼びかけ、個人正義や復讐心での殺人をしないよう通達します」


 PKを恐れるのは当然の心理だ。殺人者は経験値やアイテム、スキルを奪う。奪うほどに強くなる。それに対抗するために、それを殺す。


 倫理感。今までと違う世界で、倫理を捻じ曲げてしまう人も出てくる。


 人は復讐を好む。報復も。悪人が罰せられることを望む。

 安心と安全を担保するために、脅威の払拭と完全な排除を望むからだ


 社会システムに任せていたそれを、個人が強力なスキルという力を持ったことでそのバランスが崩壊する。新たな秩序と歯止めを作らなければならない。


「他国からの難民、及び日本への侵略を危惧する声も大きく上がるでしょう。自衛隊はその名の通り、『自衛隊』としての形を維持ができていますので、その辺りの防衛中継が流れれば暴挙に走る人間は減る」


 大陸と繋がり、日本の全てが陸続きになる。

 他に何が起きるのか、僕には想像もつかない。


「名前が表示されていない人もいますね」

 スマホで遭遇者リストを見ていた有坂さんが言う。


 蘇生した人たちの名前を有坂さんは確認しているわけではない。

 蘇生にかかりきりで、氏名やスキルなどの確認は夢現ダンジョンでは原国さんや森脇さんがしていた。レッドゲートでの蘇生者は、担当警察官が確認をしている。


「出会っても、相手の氏名がわからなければ氏名の表示は出ません。故に、この先は出会ったら名乗り合うことになる。偽名は使うことができません」


 名乗りあうことで安全確認を行う必要が出てきた。

 夢現ダンジョンと同じルール。偽名を誰も名乗れなくなった。


 それと同時に、戦国時代の合戦を連想してしまった。


 陸地が増えれば、未開の、誰のものでもない土地が増えるということだ。

 群雄割拠を求める人は一定数、いるだろう。


 武力闘争による支配。人類の歴史。

 それを繰り返すことになるのは、止めなければならない。

 血が流れれば、恨みを生むのも歴史は証明している。


「さっきアナウンスが出たら言えることが増えると言っていたのは……」

 有坂さんが考え込みながら、原国さんに訊ねる。


「その説明の前に、ちょっと聞いてもらっていいかな」

 なりゆきを見守っていた楓さんが挙手する。


「星の輪廻システムと神の役割を前提知識として共有しておくね」


 楓さんはそういうと、僕たちを車から降りるように言い、エレベーターへ向かいながら説明を始めた。



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