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34話【警視庁刑事部特殊ダンジョン事案特別捜査13課】

本日2本目です

「我々の部署の正式名称は警視庁刑事部特殊ダンジョン事案特別捜査13課です」


 原国さんが言う。


「10年程前から、日本各地に謎の失踪と異様な死亡事件が多発するようになりました。捜査の結果、ダンジョンによる被害であると確認され、警察庁で組織されたのが特殊ダンジョン事案特別捜査課です。特別捜査員を動員、各都道府県警の刑事部に特殊ダンジョン事案特別捜査課を創設し、日夜ダンジョン事案に我々は対抗してきました」


 その言葉に驚きが隠せない。


 だから、原国さんはあの夢の中のダンジョンでも、あんなに冷静……冷徹と言ってもいいほどの立ち回りと思考が出来たんだ。

 驚きと納得がないまぜになったまま、僕は話を聞いた。


「私は、最初期からの捜査員であり、この10年間、ダンジョン事案に関わってきました。森脇はうちの課に入ったばかりなのでいろいろと気付かなかったようですが、先ほどまで我々が見ていた、現実に割り込んだダンジョンの夢、仮称として夢現ダンジョンとしましょう。アレは、今まで我々が対応してきたダンジョンとは違う、言わば別格のダンジョンでした」



 サイレンの音、警察無線の音、外の混乱。

 外では、多くの警察車両と救急車、慌しく動く人々の姿が見えた。

 そして一番異質だったのは黒い渦があちこちに出来ていたことだった。



 災害。



 災害のようだ。どこか現実感がないのは、原国さんの声が冷静で、淡々としているからだろうか。


「10年前に現れ始めたダンジョンゲートは、一部の警察官、そして自衛隊員にしか見えないものでした。ですが、一般人の人の中に見える見えないに関わらず、入れてしまう者がいた。彼らの救出、及びダンジョンゲートを消滅させること。それがダンジョン事案特捜課の主な仕事です。各所に報告を上げ、それら事案を隠蔽して混乱を防いできました。都市伝説や怪談で語られてはいましたがね。何せ発生箇所は廃屋、山林など人が殆ど立ち入らない場所や個人宅の中、倉庫など人目に付きにくい場所が多かった上に、出現条件が曖昧だった」


 神隠し、行方不明、有名人の不審な自殺報道。当たり前にあったそんな噂やニュースの裏に、あのダンジョンがあったのかと思うと、ぞっとする。


 武藤さんも僕も、殺されかけた。宗次郎くんも。

 雛実ちゃんは、一度ダンジョンで死んでいる。


「今までのダンジョンは、ゲートから入り、クリアしなければ現実に戻れない。ダンジョン内での死者は、自宅ベッドでダンジョンの死因同様の遺体の状態で寝かされていた。ダンジョンに入るたび、レベルはリセットされ、構造が変わる。捜査員にも複数名の犠牲が出ています」


 夢現ダンジョンと同じ事と、違う事を原国さんが説明する。


「従来のダンジョンはクリアをしてもゲートが消滅するだけで、現実世界にスキルやレベルの概念を持ち帰ることは出来ませんでした。ですが、与えられる初期スキルは固定で、我々はこれを初期固有スキルとして認識しました。クエストも発生せず、現実世界の武器は役に立たなかった。そのうち、スマホなどの携帯端末以外の、警棒や拳銃などの装備が持ち込み不可となった。天の声の説明はなく、レベルアップ以外でのアナウンスはなし」


 きっと、夢現ダンジョンを知らずにこの話を聞いていたら、それが現実の話だと実感は出来なかったと思う。


 だけど、僕は、あのダンジョンを、はっきりと覚えている。


「今のこの状況を鑑みるに、あれは、わかりやすく言えば、ゲームのβテストのようなものだったのではないかという気がしているのです。パーティーが6人だったのも、我々D事案特捜課、自衛隊のダンジョンD特務部隊でダンジョン攻略の情報を交換し、最も最適な人数として部隊化したのが6名編成。ダンジョン内のスマホの機能性もダンジョンに潜るたび、どんどん上がって行きました。まるでゲームがアップデートされるように」


 単的に説明されるそれは、本当にゲームのようで、あの夢現ダンジョンもそうだった。

 ゲームのようなのに、本当に人が死ぬ。


「そして、あの夢現ダンジョンが、発生した。最初は私も仕事のしすぎで夢にまで見るようになったのかと思いました。ですが余りに、感覚がリアルだった」


 だから気付けた。原国さんだけが、気付けたんだ。

 10年ダンジョンと戦い続けたらからこそ、原国さんは理解した。



 ここは、夢であって、ただの夢ではない。と。



「手馴れている、と思われればこの話をしなければなりませんでした。秘匿事項を話すわけにはいかず、さりとて、自分の部下たちではなく一般人の、それも未成年者を含む4人で10階層ものダンジョンを攻略しなければならない。ダンジョン事案で最も怖いのは、法外な力を得た迷い込んだ一般人です。捜査員の犠牲者の半分はモンスターではなく、彼ら一般の迷い人によるものでした。無論、法的措置はとれません。ダンジョン内で起きたことは全て治外法権として扱われます。それでも我々はその敵対者を確保保護し、ダンジョンから出さねばなりませんでした」


「殺人者を外に出すんですか」


「ええ、そうです。ダンジョンから出れば、迷い人のダンジョン内の記憶は消え、スキルもレベルも消失する。無論監視はつきます。このような非現実的とも言えるダンジョンやスキル、レベル。それらがいつ、現実事象化してもおかしくない。ダンジョンは、空想の話ではなく、実在の存在。故に、今のような混迷を極める事態を事前に想定し、ダンジョン災害による超法規的措置についても、既に草案が重ねられていた。そして、今それが現実のものとなってしまいました」


「その超法規的措置ってのは?」

 武藤さんが訊く。


「スキル、レベルを持つ者、その家族の緊急招集。そして、その彼らを」


 外はサイレンの音があちこちから、鳴り響いている。人の、悲鳴も聞こえた。

 黒い渦、ダンジョンゲートがいくつも見える。



 これは、もう、昨日までの平和と、日常は遠のいて、



「 国家緊急権を使用し、組織的に特務部隊として運用すること、その許可と各個人へのダンジョン探索資格の発行です」



 新しいルールの世界が始まってしまったんだ。



 僕は、そう、自覚した。

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