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30話【最後の悪意】

本日はもう1本お昼頃に更新します。

 探索パーティーは、通路のモンスター掃討を武藤さん、森脇さん、僕、有坂さん、木村さん、夜桜さん、葉山さんで行うことになった。


 モンスターより人を殺すことに躊躇いのない人間に出会う方が、恐ろしいと身に沁みて理解した僕らは別働するのをやめた。


 全員いてもスキル封印がなければ殺される可能性が高い。それがわかったから、バラけることなく全員で動く。


 そうして、僕らは9階の残り部分の攻略は気を引き締めて、ほぼ無言で警戒をしながら進む。

 小部屋を全員で警戒して開けて進むと、あっけないほど早く攻略は終わった。



 9階ボス部屋以外の全ての通路と小部屋を安全な状態にしても、モンスターと違い、PKをする人には強いスキルがある。


 索敵が効かないなどの事態もあり得るので、戻る時も警戒だけは怠らず、階段部屋に戻った。


 一息ついて、みんなを連れて行く。


 ボス部屋は広く、奥が異様に暗い。光魔術で照らしても奥までは明かりが届かない。

 保護している人たちを含めて全員がボス部屋に入り、扉を閉めると、暗がりから現れたのは9階ボスは大型のトロール。そしてスライムだった。


 4メートルはあるだろう巨体を持つトロールは巨大な棍棒を手にしていて、スライムは非定型の体をうぞうぞと動かしながら近づいてくる。

 攻略サイトスキルで見た情報のままだが、情報で見るのと実物を見るのは違っていて威圧感と不気味さがある。


 それでも勝負は一瞬でつく。

 トロールを武術スキルで倒し、毒を持つスライムは魔術スキルで瞬殺した。



 9階攻略完了。僕らのダンジョン攻略は大詰めを迎えた。



 そして階段を降りると、10階到達のアナウンスが響いた。



『10階への到達おめでとうございます。ボス討伐後、ダンジョン出口から出るとダンジョンショップが出現し、各種コインによって持ち帰れるスキルを購入可能です。是非お楽しみ下さい』



 その情報に僕たちは顔を顰める。

 こんな殺傷能力の高いスキルを現実に持ち出す?


 殺傷性がなくとも、悪用出来てしまうものも少なくない。

 みんなで話し合う必要があるのでは、と思ったけれどまずは有坂さんの職業レベルを上げることにした。


 ここで有坂さんは9階の攻略分で回復師から蘇生師にクラスアップが出来た。


 あとは10階攻略分で、パーティー画面からの蘇生が可能になるのも、職業スキルツリーで確認している。


 よかった。これで、みんなのパーティーメンバーを蘇生することが出来るんだ。

 



 そして、彼女の蘇生師の職業ツリーには、もう1つ、蘇生呪文が在った。

 攻略サイトではまだ不明だった、最後の蘇生術。

 それは、



 このダンジョンでの確定死亡者をランダムに蘇生させることが出来る、僕らが知る限りの最上級蘇生術だ。



「これ、とりてえな。血の蘇生術、か」


 僕たちは話合って、保護した人全員にもう1つの蘇生術について話をした。

 大きく反応したのは、根岸くんたちを含むここで人を殺めてしまった人たちだ。


 ただ、すべてのコインを使用しても届くかは怪しい。

 そういうと、彼らは僕たちに所持している全てのコインを渡してくれた。この場の、既に渡し終わった人以外の全員がそれに続く。


 ここで死んだのは、隣人たちだ。


 自分の身内や友人、知人がいることをみんな危惧していて、もしも彼らが助かるのなら、とショップの案内があったのにも関わらず、全ての人が所有するコインを僕らへと渡してくれた。

 共に最後の攻略を進めてくれている木村さんたちも、全てのコインを僕らに託してくれた。



 その分でパーティー画面からの蘇生可能な、蘇生術がとれる分が集まった。

 あとは、この最後の10階の攻略で得られるコインを集められたのなら、血の蘇生術にも届くだろう。

 ほっと息を吐いて、有坂さんを見ると、微笑んで頷く。



 まずはここで、1パーティーずつ、死亡メンバーの蘇生を行う。



 9階の掃討が終えてみれば早かったのと、蘇生可能残り時間がわずかな人がいたためだ。

 ギリギリで間に合うだろうけど、イレギュラーがあれば間に合わなくなる可能性があった。


 なので、ここで一度制限時間が残り少ない人の蘇生を行うことにした。



 10階のボス部屋までの攻略をしている間に、パーティーメンバーから蘇生された人に事情を説明して貰うことにして、有坂さんが各パーティーの代表者のスマホ画面から、蘇生を開始する。


 階段の、床の血が、蘇生に応えて人の形を成す。


 一番取り乱していた、弓の少女の友人から蘇生をした。

 友人に抱きついて、泣く彼女を横目に、残り時間が少ない人から順番に。


 有坂さんがMPポーションを飲みながらほぼ全ての人を蘇生させた。

 みんながその様子を固唾を呑んで見守る。


 死者の蘇生。遺体のない死からの復活。

 それは現実ではありえない光景で、神々しくもあった。


 蘇生された人は最初は唖然としていたが、自分が殺されたことを思い出すと恐怖で声を上げたり、震えたり、泣き出したりした。

 殺されかけただけでも恐ろしかったのに、本当に殺されてしまった人はどれだけ恐ろしかっただろう。

 それを田村さんが順番に精神回復スキルで癒していき、浄化魔術を使える人が彼らの血まみれの服を綺麗にしていく。



 蘇生したメンバーが全員ではなく、ほぼ全て、だったのは問題行動の多かった人物をボス戦後に回したためだ。

 宗次郎くんのパーティーの2人も話を聞いたら、どうもそういう人らしい。



 それと、根岸くんたちと、もう1人の男性。自分が殺してしまった人や恐怖で激しく錯乱して死亡したであろう人がいるパーティーも、遺恨や強い恐怖を持ったまま、10階を走り抜けるのは難しいので、こちらもあとに回す。


 幸い彼らには残り時間はまだ充分にあった。


 後の問題は、10階ボス部屋までに、誰か他の……PKをしてきた人が存在するかどうかだ。

 また誰かが死にかけるかもしれないと思うと、恐怖に足がすくみそうになる。


 それでも正体不明の敵対者に出会うことがないよう祈りながら、僕らは長い暗い、血に染まった廊下に足を踏み入れた。

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