25話【出会ったものたち/武藤視点】
坊主たちに行って来ると挨拶をして、俺たちは8階を進む。
何の問題もなく、半ば駆け足で8階を走破している。これだけ延々動き回っても息が切れず、大して汗もかかない。
ステータスの恩恵だろう。
モンスターも相変わらず一撃で倒せている。これなら、最後の10階くらいは小部屋を探索してもよさそうだ。
6階、7階と他パーティーとの接触は今のところない。
進めている奴らは多分俺たちほど有利ではなくとも、それなりに強化して進んでいるんだろう。
特に、PKをやった奴は強いはずだ。他人から武器も装備もアイテムも全部奪い取り強化しているのだから、ソロでも攻略可能な奴がいてもおかしくはない。
本能的にダンジョンのアナウンスは真実だとわかる。嘘ではないと。
だけどそれでも信じない奴は信じない。
特に自分を正義だと思い込んでる奴なんかは厄介だ。そういう手合いは言葉は通じても、会話にはならない。
思い込みで全てを塗りつぶしてこようとする。
そんな奴が、でかい力を持って、自分が正しいからと他プレイヤーを殺して回っていたりしたら。
悪役のキャラ立てとしてはいいかもしれんが、今この場で出会う展開はボツにして欲しいところだ。
気配察知で小部屋の探知もして来たが、6階、7階の小部屋は攻略されてなかった。
いままでの攻略を考えると、ボス部屋に人が入る、もしくはボス討伐がされると階層リセットがされるんだろう。
攻略中のパーティーがいる階層では何もない小部屋がいくつかあったし、その部屋に入ったことも聞いた。
モンスターを屠り、思考を切り替える。
5階で動けなくなっていた人間は真っ当な感性を持った一般的な人間が多かった。夢だと思ってゲーム感覚で進めていたら、ガツンと真実をぶつけられて怖くなったんだろう。
パーティー同士で協力してのが大半だったようだが、人数に欠けが出ている話も聞いた。
中にはゲーム感覚だけで進んでPvPをしかけたりするヤツだっていたはずだ。
坊主の友人もそうだったんだろうし、告白しなかった人間の中にもPvPをやらかしたヤツもいるだろうが、そこら辺は原国のおっさんや真瀬の坊主たちに任しゃいいだろう。
俺たちには既に、その程度の信頼関係は、ある。
何より、誰が誰を殺したかなんて、ここじゃ証明ができない。
待機している保護した連中のステータスに、PvPについての表示はなかった。つまり、プレイヤーハント、PK自体もこのダンジョンでは容認されていて、今のところはデメリットがない。
そして、俺たちは駆け足で小部屋も無視して攻略している分、先発しただろう他パーティーとぶつかる可能性は大きい。
この8階には、いくつか何もない小部屋があった。
この先で多分ぶつかる。まともな人間のパーティーであることを祈るしかない。
森脇さんはともかく、宗次郎と雛実ちゃんの2人は中学生だってのに、真実はどうあれ、折れない。
強い子たちだと思う。
だからこそ護ってやりたい。
俺が中坊の頃、俺と姉貴を護ってくれる大人なんてもんは殆どいなかった。
だから、俺は子供を護れる大人になろうと思った。
俺があの頃に欲してやまなかった、頼れる大人になりたいと願い続けていた。
少しは護れてるといい。
力になれているなら、嬉しい限りだが。
「待った」
俺が止めると同時に、宗次郎が俺を見る。
宗次郎も気配察知で気付いたんだろう。
「奥に4人、人だ」
宗次郎がぽつりと言う。
防御結界は働いている。雛実ちゃんの敏捷バフと、真瀬の坊主の筋力バフもかかっている。
ヤバイ相手で、戦力的に拘束が出来ず、殺さなきゃならねえ時は――俺が殺ろう。
中学生2人や警察官を人殺しにするわけにはいかねえんだ。蘇生だってある。
この4人が徒党を組んだPK集団なら、俺が命を張って、斬り殺す。
再び腹を決めて、宗次郎たちを下がらせる。
俺と森脇さんで少し前に出て、声を張った。
「こっちは攻撃の意志はない!! あんたらはどうだ!」
すると若い男の声が返ってきた。
「こちらもない! 今そちらに向かう」
森脇さんの魔術ライトで照らされた道の奥、薄暗がりから4人の男女がゆっくりと両手を挙げて歩いてくる。
「俺は木村、自衛官だ」
一番前を歩いてくる男が言った。
「僕は森脇と言います。警察官です」
森脇さんの言葉に、向こうのパーティー4人がほっとした顔をして手を下ろす。
時間はないが、合流して会話をすることにした。
どうやらこの4人は、5階のアナウンスに折れずに進んだらしい。制限時間があることを危惧したのだろう。
聞くと5階に人が溜まる前のことだったようだ。こちらの事情を話すと、協力してくれることになった。
4人とも、真っ当な人間らしい。
人を殺す羽目にならずに済んでほっとした。
それに何より戦力が増え、攻略がしやすくなった。
彼らに小部屋を攻略して貰い、俺たちが通路を掃除することにした。
マップを開けば彼らの位置はわかる。彼らにも気配察知を持つメンバーがいたが、マップリンクがあるレベルではないらしい。
それでも人間を感知は出来るとのことなので、こっちから合流の際に俺がまた声をかけることにした。
そうして、短時間で8階は全ての小部屋を含む、ボス部屋以外の攻略が完了し、待機所になっている階段部屋へと8人で到着した。
到着してすぐに出会った自衛官パーティーを紹介した。自衛官と主婦、そして坊主たちとは違う制服の女子高校生2人。
彼らは6階7階もしっかり探索して先に進んでいた。
蘇生の珠の上級を手に入れていたのだ。
上級はステータス画面上で時間切れになっていない者1人を蘇生復活させるアイテムだった。
これで有坂の嬢ちゃんの蘇生師で得られるであろう効果が、ほぼ確定したと言ってもいいだろう。
彼らはもし、死亡者がいるなら使って欲しいと言ってくれた。が、今はこのアイテムの存在を秘匿して貰うことにした。
揉め事の種になりかねないからだ。
ステータスが開けるパーティーメンバーが生存していて、パーティー解散をしていない死亡者が誰でも蘇生出来る可能性が、蘇生師にはある。
今1回こっきりの蘇生で話し合ったり、争って時間を無為に消費するわけにはいかねぇからな、と言うと全員が理解を示してくれた。
希望の芽が出てきた。
無論9階や10階が無人、あるいは彼らのような善人だけとは限らない。
だからまだ気は緩められない。
俺を慕ってくれる子供共が生きて帰れるために。
あいつらが護りたいものを護れるように。
俺は出来ることをしよう。