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22話【時間との戦い】

 僕たちは、この場の全員でのダンジョンクリアのために手短に打ち合わせをした。

 僕と有坂さんはここで残留する。大人は原国さんが残り、あとのメンバーで攻略を進める。


 原国さんの気配察知で降りてくる人間がいないか確認をし、武藤さんたちが攻略をしている間、階下にいる人たちの話を聞き取る。


 動けなくなっていた人たちの中に、警察官もいたので原国さんの指示で聞き取りなど、動いて貰うことになった。


 聞き取る内容は彼らのパーティー構成、ステータス、氏名、残り時間など。死亡したメンバーがいれば、その情報も。


 最も残り時間の短い人を軸に、攻略の道筋を模索することを決めた。


攻略組の武藤さん、森脇さん、宗次郎くん、雛実ちゃんの4人でまずはボス部屋までの通路の確保だけして戻ってくるという手はずになった。


 このダンジョンはボス部屋に入ったら、一方通行で戻れない。


 どれだけの人間がこのダンジョンにいるかわからないが、せめてここにいる人たちだけでも助けたい。


 とにかく生存能力を上げることを考えなければいけないが、ここにいる多くの人が殺傷力の高い能力を持っているだけに、道筋を間違えると作戦はいくら立てても瓦解してしまうだろう。


 今のところ、落ち着いて話を1人ずつに聞けている。根岸くんたちも少し落ち着きを取り戻したようで、2人で話し込んでいるようだ。


 浄化が使える人がいたので、MPポーションを渡し、全員の衣服の血や汚れを落としてもらった。

 こざっぱりすれば、気持ちが少しは落ち着き上向くからね、と原国さんが言う。


 ちょっとした役目を頼めそうな人に頼んでいく。

 役割があることで、人は落ち着きを取り戻せる。それも原国さんが微笑んで教えてくれた。


 僕らは手分けして、全員から情報を得る。


 今のところ、アイテムとモンスターコインで物々交換をしていて、ガチャスキルを伏せている。モンスターからのドロップアイテムや宝箱から入手したものだと説明をして。


 有坂さんも、蘇生が使えるが、MP消費が大きいことも説明をした。

 5分以内の制限時間もある。

 今蘇生出来る人はいない。


 本当はないが、「他にも蘇生には制限があるので安易に蘇生出来るなら殺してもいい、死んでもいい、という考えは持たないように。そういった行動は攻略の成功度を下げることになります」と、原国さんがみんなに言った。



 簡単に取り戻せるなら、そうしてしまおう。逃げてしまおう。そうやって他人や自分に残酷なことをする人間もいる。

 都合が悪いから、自分の得になるから。苦しいから。辛いから。

 そういう弱さを、僕の母は悲しいという。そういう人に育てられた僕もまた、その弱さを悲しいと感じるようになった。



 階段を下りてくる人間はいない。



 30分程で、マップ通路がボス部屋まで開いたからと、一度武藤さんたちが戻ってくる。



 残り時間が最も短い人で4時間半

 1階層につき、1時間も取れない。小部屋はスルーして、とにかく先を急ぐことにした。


「全員動けるか?」

 周囲を見渡す。全員、既に立ち上がっている。


「1階層に1時間はかけられない。階層が深くなっても階層全体の大きさはそうかわらないから、ボス部屋までの通路探しとモンスターの一掃なら往復30分で片がつくのがわかった。通路は全員で走る。ボスの討伐は俺たちでやる。階下に下りたらすぐ俺たちで探索に出る。約30分の休憩だと思って休んでてくれ」

 武藤さんが簡潔に言う。


「前衛は俺たちだ。後衛が坊主、嬢ちゃん、原国のおっさん。3人ずつで隊列を組んで、走る。誰も死なせない。助け合うんだ」

 武藤さんの声に、全員が頷く。


 そして、僕らは並んで、走り出した。小部屋の攻略を全て諦め、血にまみれた道を走り抜ける。

 ボス部屋には10分程度で辿り着いた。5階層まで辿り着いた猛者たちだ。レベルが上がっているので体力面で問題のある人はいなかった。


 全員でボス部屋に入り、ボスをさくりと前衛チームが倒した。宗次郎くんが宝箱を開ける間、皆を下の階へと誘導する。後衛の僕らは宝箱の中身を得て、宗次郎くんと下へ降りた。


 武藤さんが、苦虫を噛み潰した表情をしている。


 アナウンスが流れて、その理由を知る。



『ダンジョンについての真実を1つ、お知らせします。制限時間内にダンジョンをクリアできなかったプレイヤーは、現実で目覚めることはできません。焦らず急いでダンジョンを時間内にクリアしまししょう』



 僕らには既知の情報でも、初めて知る人には衝撃だろう。

 ざわつく中、武藤さんが「大丈夫だ。このペースなら何の問題もない」とみんなに声をかける。


「割り振ってる時間が惜しい。俺の職業レベルを1上げたら、すぐに出る。森脇さん、宗次郎、雛実ちゃんもレベル上げといてくれ。坊主たちのレベルはそっちで好きに割り振ってくれていい。モンスターコインの使い道も任せる」

 武藤さんがそう言って、攻略チームが短い準備を終えて、6階層を進む。


 僕たちはパーティー資産の割り振りに5分皆から時間を貰い、残りの時間を聞き取りや会話をして過ごす。根岸くんたちは、「俺たちより、不安がっている傷ついた人の方のフォローをして欲しい。俺たちには、出来ないことだから」と僕に言った。


 彼らは、やはりいい人たちなのだ。間違えて過ちを犯したけれど、本当の悪人なわけじゃない。寂しい悲しい辛いの伝え方を、知らないだけで、少しこんがらがってしまって傷ついていただけだ。


 いろんな人がいた。コンビニの店員、小学校の先生、主婦、学生。みんな誰かの親で、誰かの子供だ。失えば、家族が悲しむ。友人や同僚、同級生。



 彼らを生きて帰したい。



 スマホでマップで武藤さんたちの進みを皆で見ながら、階上にも気を配る。


 小部屋を無視する分、レベルの上がりは悪い。

 それに通路や小部屋に誰か人がいた場合の話も出来てない。



 何かを決めるのに、保護した人たちを含めた多数決をとるのはやめたほうがいい、と原国さんから言われている。


 余裕のない、恐慌状態に陥りやすい人たちで多数決を取ると、少数側は意見を切り捨てられると感じ、それを不服に思う人が出てくる。


 強い不公平感を持たせてしまい、諍いの元になる。


 警視庁の刑事さんである原国さん、その部下の森脇さん、そしてレア職業の剣聖で先頭に立って道を切り開く武藤さん。スキル封印を使え、知らせてはいないが、ガチャスキルを持つ僕、蘇生魔術持ちの有坂さんで、不満が出ない程度に決めたことを伝え、とにかく最短攻略をしていることがわかるようにしようという方針だ。



 こうして現実の死と繋がってしまった現状、権威というのも使いようで人を楽に出来るものだからと原国さんは言う。



 とにかくクリアまでに、可能なら上級蘇生魔術や上級蘇生アイテムを複数、どうにかして手に入れたい。

 回復師中級のレベルを優先で上げる。だが小部屋攻略がないので、中級を上げきれるかどうか、わからない。


 ガチャも回し、防具を18人に配る。ボス部屋の宝箱から出たものだと言って、渡し、コインを受け取った。



 これは時間との勝負であり、このダンジョンの悪意との勝負でもあった。


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