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20話【不良少年】

 僕たちは、武藤さんの言葉に、階下まで移動する。

 下りてくるのは、1人。

 嫌な予感がするのは、僕だけじゃないようで、みんなが階段を緊迫した表情で見上げる。


 雛実ちゃんが防御結界を張り、僕たちグループ全員にバフをかける。

 僕は気配遮断を発動させて、階段に近づく。


 目線を上げると、ゆっくりと階段を下りながら、


「おおーエサだらけじゃん、ラッキー」


 男が、そういった。


 僕らと同じ高校の制服を着ている。


 瞬間背筋がゾワりとした。


 笑う男が手をかざしたままピタリと止まる。

 一手早く、スキル封印をかけたのが効いたようで、ほっとする。


 安堵と共に、よく顔を見た。金髪に染めて、ピアスをしている。

 よく知った顔。



 それは、僕のクラスメイトで友人、だった。



「根岸くん……」

「あれ、何だ、お前もいたのかよ、敬」


「今、エサって……」

 唖然として、口から零れる。


 今彼は、何をしようとした?

 人を見て、エサと言った、僕の友人の……、根岸くんは。


 僕ら以外の人たちも、僕らの会話を固唾を呑んで聞いている。


「バッカ何やってんの」

 軽薄な笑い声が更に上から響き、攻撃魔術が僕たちに向けて放たれた。

 炎の矢が、結界に弾かれる。


 かけ続けてもらって、レベルを引き上げていて良かった。

 スキル封印をすると、「マジかよ弾かれたわ」といってストレージから剣を出す。が、重さにたたらを踏んだ。


「え、何。なんか重いんだけど」

「おいバカやめろ、俺のダチだ!!」


 もう1人に根岸くんが叫ぶ。

 別の制服を着た高校生だ。学校の外で根岸くんとつるんでいるのを何度か見かけたことがある。彼もきっと気配遮断スキル持ちだ。気付いていたら武藤さんたちが声を上げたはずだから。


「君たちはゲームのつもりかもしれないが、ここで死んだ人間は、現実でも死ぬんだ。それを知っているのか!?」

 森脇さんが叫ぶ。


「は? 夢だろ? 冗談キツイぜおっさん」

「下へ下りればわかる。進みなさい。君たちは今スキルを封印されている。スマホでステータスを見るといい。我々に攻撃することは出来ない。我々も攻撃はする気はない」



 スマホを確認して、「マジかよ」といいながら、他校生は階段をゆっくりと下りる。その後に続く根岸くんの顔は蒼白になっている。


 階下までついた他校生は、「ふざけんなよ……」と天井を見上げて呟いた。

「敬、これ、嘘だよな?」

 根岸くんが僕の両腕を掴んで、懇願するように言う。


 僕は首を横に振る。

 それ以外に、出来なかった。

 腕を掴む、根岸くんの体温を感じる。その同じ体温を持つ人間を、彼らはゲーム感覚で……。


「嘘だろ、俺らって捕まんのかよ? 冗談じゃねえよ、無双する夢じゃねえのかよ!」


 他校生が地団太を踏む。

 根岸くんは、所謂不良少年だった。だけど、別に極悪人というわけじゃない。

 僕を友達だと言ってくれたし、好きな物の話だって普通にする。少し乱暴なところはあるけど、別に酷い人間じゃない。


 喧嘩をしたり、学校をサボったりなんかはする。先生に反抗したりも。

 だけど万引きとか、カツアゲ、イジメはしない。ダセーじゃんよ、と言って。

 友達思いなところもたくさんあるのを僕は知ってる。


 だから当然、彼らは現実で人を殺したりは、しなかった。

 そうしなかった彼らが、殺人者になったのは、ここが夢だと信じたからだ。


 夢だから、好きにしていい。思うままに、と唆され、何かの弾みで他人からの略奪を実行してしまった。


 原国さんの危惧が現実になった、その実例が彼らであり、奥でうずくまる青年だった。


「君たちは今、この中で最弱だ。あまり我々から離れないほうがいい」

「は? なんでだよ。命令すんなし。つか誰だよおっさん」


 原国さんの忠告に、最弱と言われて腹を立てた他校生が噛み付く。


「周囲の人の目を見ても、そう言えるか? 他人に攻撃魔法をノータイムで打ち込んだ、君たちのような不穏分子を、排除したいと考える人間がいない、とでも?」

 森脇さんが鋭く忠告をする。


 びくりとして、周囲を見た彼は、「マジかよ……」と言った後、何も言えなくなった。

 視線に気付いたのだ。


 睨む者、蔑む者、憎む者……それらの視線に。


「俺らどうなるんだよ……敬……俺……どうすれば」

 根岸くんが哀願するように言う。僕は何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからなくて、何も言えない。


「知るかよ人殺し! そのまま先行って死ね!」


 根岸くんの弱音に、座り込んで泣いていた少女が立ち上がってキレた。

 彼らのような夢だからと言って暴虐をした人間に、酷い目に合わされたのだろうか。弓を構えている。


「やめなさい。君が彼らを裁くことは出来ないし、してはいけない」

 森脇さんが不良少年たちの前に出て、庇う。


「なんで!? 殺されかけたんだよ、もう何人も殺してるでしょ!? こんな奴ら居ないほうがいい!!」

 少女は興奮しているようで、涙をぼろぼろと流している。


「友達をこいつらみたいなのに殺された! だから、殺したんだそいつを! 私を人殺しにして、友達を殺した!! 同類だよ、殺さなきゃ……!!」


 がくん、と弓が下がる。

 僕が彼女にもスキル封印をかけた。


「何で……!?」

「人を殺したことに苦しんでいる、君がもっと傷つくのが嫌だから、ごめんね」



 僕たちは運が良かった。

 とても、運が良かったのだ。

 そう実感してしまった。



 森脇さんが少女に近づく。

「うちのパーティーはレア職業スクロールを巡って仲間割れをして、みんな死んでしまった。争う仲間を止め切れなくて、重症を負って動けなくなったところを助けられたんだ。現職の警察官でも、そうだった。助けられたとき、止め切れなかったことを悔やんで、僕も泣いた」


 優しい声だった。

 激情に、寄りそう声。


「大の男で警察官でもこれなんだ。君が辛くて仕方ないのは、全然悪いことじゃない。これからどうするか、みんなで生きてここから出るためのことを考えよう。蘇生魔術だってあるんだ、友達を生き返らせる方法があるかもしれない。殺してしまった相手もだ。諦めないでいいんだよ。よく頑張ったね。辛かっただろうに」


 少女が泣き崩れ、森脇さんにすがり付く。大声で泣いて、怖かった悲しかった苦しかった許せなかったと口にする。

 胸を貸しながら、森脇さんは言う。


「これから、全員でここから生きて戻るため、我々の半数で5階の通路、小部屋を全て攻略し、ボス部屋までの通路のモンスターを一掃して戻ってきます。その後安全になった通路を最短で進み、全員を連れて我々がボスを撃破し、6階へ降ります」


 力強い声だった。


「誰1人、置いては行きません。皆、連れて行きます。蘇生出来る人は蘇生を行います。ご協力下さい」


 それを引き継いで、原国さんが手を上げて言う。

「この中で、最初にここに辿り着いた人は、残り時間を教えてください」

 座り込んでいる女性が、手を上げて残り時間を告げた。



「わかりました。ありがとう。これから10分だけ質問を受け付けますので聞きたいことがある人は挙手をお願いします」


 こうして僕らは済し崩すように、説明をして、質問を受け付けた。


 僕らパーティーは無傷でモンスターをオーバーキルしながらここまで来たこと。

 攻略人数が半数になっても、対モンスターの戦闘、対人においても余裕があること。

 怪我人がいれば回復が出来ること。

 回復師である有坂さんはここに残ること。

 攻略に出る武藤さんはレア職業の剣聖であること。

 様々な質問に答える。


 救急隊のおじさんにはMPポーションを渡し、後で全員の職業とスキルを確認して必要なアイテムで渡せるものは譲渡することも伝えた。


 少しずつ、周囲の人たちから怯えと諦めの表情が解け、助かるかもしれない、という希望に変わる。


「もしこの中に、自分も人を殺してしまったという人がいたら、目覚めた後ニュースを確認して下さい。もし、本当に、現実でそうなっていたら警視庁刑事部特殊事案13課、課長原国から自首を勧められた旨伝え、自首をして、この夢の説明をして下さい。現行法でどうにかなる事案ではないでしょうが、私が出来る限り対応をします」


「警視庁刑事部特殊事案13課の森脇の名でも結構です。自暴自棄にならず、自殺などを考えないよう、お願いいたします」


 そういって、頭を下げる。

 ここで殺しをした人を司法で裁くことが出来るのか、出来ないのか。まず出来ないだろう。

 それでも、目覚めて自首をする時に、同じ場所にいた警察官がいたとすれば。

 状況を知っている相手なら。


 人は、わかってもらいたい生き物だから、安心が出来る。

 気持ちや立場、感情が伝わる相手に安堵する。


 まず生き残らせるのであれば、今に目線を合わせさせるのが重要だ。

 この後どうしていいかわからない、と考え続ける限り前に進むことはできないから。


 顔を伏せていた青年が、顔を上げて、涙をこぼし、声を殺して泣いた。

 森脇さんか原国さんが、あとで彼にも事情を聞きに行くだろう。


 僕も根岸くんたちを隅の方に誘導して、声をかける。

 2人も泣いていた。自分の罪に、行いに。


 こうして僕らは立ち往生をしている、16人と、根岸くんたちをどうにか助けて進むことにした。

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