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19話【ダンジョン地下5階の洗礼】

「んなもん、わかるまで殴るさ」

 宗次郎くんの問いかけに、ニカリと笑って拳を作った武藤さんが言う。


「回復魔術もあることだしな」

 冗談めかして、何でもないことのように言う。

 物事を単純化して、からりとした空気に持っていくのが武藤さんだ。


「やっぱり僕、武藤さんみたいなお兄さん欲しかったなぁ……」

 僕は思わず、その空気に絆されてポロリとこぼした。


「そうかそうか。そんならよ、お兄ちゃんって呼んでもいいぞ」

 そう冗談めかして、笑う。どんよりとした空気が、そのやりとりで和んだのか、宗次郎くんが「俺も」と言って、少し笑った。



「武藤くん助かるよ。私はどうも人を和ませるのは苦手でね」

 ふふ、と原国さんが笑って言う。


 その間も僕らは通路を歩んで、モンスターを次々に屠る。


 血痕はあれど、人はいない。


 武藤さんの気配察知はレベル3になり、察知範囲が広がった。原国さんと宗次郎くんもレベルが上がり、人の気配も気付けるようになっている。

 3人もいるので、察知を逃すことはない。



 途中背後でモンスターが湧いたけれど、僕の槍を使うまでもなく風魔術で倒せた。共有者によるパーティーメンバーのボーナスが効いているから風魔術を成長させていないのにも関わらず、威力が高い。



 結局、4階には人は誰もいなかった。

 先に進んだのか、全滅してしまったのかは僕らにはわからない。



 小部屋も探索して、ボスも撃破した。

 ボスモンスターはグールとレイス、スケルトンナイトだった。通路や小部屋にはゾンビとスケルトンが大量にいたが、特に何の問題もなく進めた。


 モンスターとの戦闘は、何の問題もない。


 宝箱を開け、ガチャを回し、職業レベルを上げる。

 有坂さんの回復師を最大レベルに上げることが出来、蘇生魔術を得た。



「……やはり上級職に上げないと」



 有坂さんが残念そうに首を横に振る。

 覚えた蘇生魔術は死亡から5分以内の蘇生。蘇生の珠《下級》と多分同等の魔術だろう。


 ガチャアイテムから蘇生《中級》も出たが、死亡者のステータス画面に近づけても、蘇生のアナウンスはでなかった。


 有坂さんの回復師はそのまま《中級回復師》になり最大レベルは50で、レベルは引き継いでいて1からではなく、25のままだ。

 レベル上げの要求ポイントが倍に跳ね上がっている。


 「さてこのスキルだが……」

 武藤さんが口をへの字に曲げて、言う。



 ガチャから出た星8スキルは『スキル封印』だった。



 モンスター人間問わず、1人のスキルを全て封印する。魔術も武術もその他スキルも全て。レベルが上がる毎に効果時間が延びる。


 スキル持ちのモンスターとは出会っていない。もしかしたらいたかも知れないが、パーティー戦力が高過ぎてわからなかった。


 だけど多分これは


 ――対人用スキルだ。


 話の流れで気配遮断を持つ僕が、スキル封印を得ることになった。


 レベルは順調に上がり、宝箱やガチャで全体の強化は進んでいる。


 とにかく進むしかない。

 僕たちは地下5階の階段を下り始めた。


「待て」

 武藤さんが、全員を小声で止める。


「下に人がいる。数が多い」

「階下で人が留まっているってことですか?」


「そのようだ。10人以上たまってる。多分何かのアナウンスがあって、進むのを躊躇してるのかもしれねえ。警戒を解かずに下りよう」

 僕たちは武藤さんの言う通り、ゆっくりと階段を下りていく。


 しばらく下りると階下が明るい。誰かがライトを使って照らしているのだろう。人の姿がみえる。学生やスーツを着た人、私服、制服、年齢も性別もバラバラの、いろんな人が下りて来る僕らを見上げた。


「どうした? 何があった?」

 武藤さんが声を張って階下の人たちに問いかける。

 すすり泣く声が聞こえる。どうやら座り込んで泣いている人が多いみたいだ。


「アナウンスでとんでもねえこと言われたんだよ!」

 救急隊の隊服を着たおじさんが、大声で返した。


「ここで死んだら、現実でも死ぬってな!」

 その言葉に、僕らはここでそれを攻略者全員に伝えるのか、と愕然とした。


 階下に降り立つ。

 暗い顔で泣いている人が多い。顔色も悪く、血で汚れている人がたくさんいた。



『ダンジョンについて1つ情報を開示します。この夢の中で死んだ者は、現実でも同様に死にます。頑張って生き残り、クリアを目指してください』



「……性格悪すぎるだろうがよ」

 ぽつりと武藤さんが言う。

 僕らは、それを知っていた。知っていたから、警戒していられた。


 だけど、ここにいる人たちは、そうじゃなかったんだ。

 ボロボロな人も多い。

 パーティーメンバーを失った人もいるのだろう。


 苦戦してここまで来て、そして、心が折れた。

 ただの夢だからと進めていた足が、止まった。



「あんたらもアナウンス聞いただろ」

 返事をしてくれたおじさんが言う。隊服は血で汚れている。多分、いろんな人を、助けたのだろう。現実と同じように。


「おっさんも回復師か?」

 武藤さんが訊くと頷く。


「そうだ。MPがもうないがな」

「パーティーメンバーは?」


「そこに固まってる。怖くて動けないとよ。まあそうだろうよ、いくらスキルがあろうと女子供だ。俺も動きが取れん。ここにはいないが、現実には妻も子供もいるからな、帰りたいところだが」


 おじさんが指差す方向には、女性が1人と学生の男女がいる。皆おびえて、泣いている。


「家に帰りたい……」

「怖いよ……」

 そんな弱弱しい声があちこちから聞こえる。


「5分以内に亡くなった人はいますか」

 有坂さんが小声で訊く。


「いいや、しばらく前に1人で下りてきたヤツが回復出来なくて死んだ。5分経ったら死体もスマホも消えちまった。それを見てパニックを起こしたのをようやく沈静化したところだ」


 パーティーメンバーが他に残っていたら、蘇生が出来たかもしれない。でも、それは叶わなかった。

 有坂さんがきゅ、と目を閉じ「そうですか……」と呟いた。


「ここにいる人で、人を殺した人はいますか」

 小声でおじさんに原国さんが訊ねる。


「あっちにいる大学生がざまぁ展開がどうのって錯乱したあと動かなくなってる。喚いてた言葉から、多分やっちまったんだろう。夢だからと気にいらねえ相手を」


 小声で返したおじさんの指差す方向には、人の集まっている場所から離れて、1人膝を抱えて動かない青年がいる。


 夢だと信じ来って、何も疑わず、力を暴力にしてしまった。

 目が覚めれば、なかったことになると信じて。


 でもそうではないことを知り、絶望した。自分の行いに。


「あんたらはどうするつもりだ?」


「少しパーティーで話合いをしてきます」


 僕たちは嘆く人たちから離れ、輪になって小声で相談を始めた。



「あの人たちをどうやってクリアまで導きましょうか」

 僕の言葉に、みんなが僕を見る。


「前衛と後衛に分かれて、真ん中に集団で置いて進む感じかね」

「残り時間も心配ですね」


「問題は、パニック起こして瓦解しないか、ですね」


「なあ、俺思ったんだけど、いつもボス部屋手前までモンスターを一掃してから戻ってるだろ。戻ってもモンスターは湧いてない。そんな感じで、俺たちでボス部屋の前まで先に進んでボス以外のモンスター片付けて、ここの人たち迎えに来るのは?」

 ぽつりと宗次郎くんがいう。


「それだ」

 武藤さんが、笑顔で言う。


「その間ここに誰か残って護衛した方がいいかもしれませんね。下りて来る人間が人を経験点としかみなしてない、という最悪の想定が必要かと」

 原国さんが言う。


「それに、パーティーメンバーが残ることで見捨てられるのではないか、という危惧も少しは払拭出来るでしょう。気配察知がある者が1人は残るべきかと」


「あの、多分皆さんモンスターコイン持ってると思うんですけど……ガチャスキルで強化してあげられませんか。防具や武器、ポーション。護符もあれば、なんとか進めると思うんです」


「ワンチャン蘇生の珠で蘇生出来る人間がいるかもしれねえな……」


「それ、争いの種になりませんか? 友達や身内亡くした人が1人とは限りませんよ」


「そういう降って湧くような希望で混乱した人たちが暴動みたいなことになった際の鎮圧はどうしますか。絶望からの希望って強烈ですよ。へたり込んでてもここまで進んだってことは戦闘力がかなりあるはずですし」

 森脇さんが囁く。


 議題が多すぎる。ある程度、整理して、ここの人たちが落ち着ける状態を作りたい。


「鎮圧系スキル、1人1つは欲しいところですね」

「ガチャ、今ある分全部回して見ます。それで対応しましょう」

 100連近く、モンスターコインを温存している。モンスターが多く、戦力は充分以上だったので、温存をしていたコインだ。銀も金も充分な量がある。


「でもアイテムストレージが足りないですよ。今まで出たアイテムもかなりの量ありますから」

「そうだ……どうしましょう」



 僕らが悩んでいると、武藤さんが口を開いて


「上から誰か下りて来てる。1人だ」


 そう、囁いた。

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