17話【ダンジョン地下3階攻略と真実の深遠】
森脇さんの光魔術、ライトのお陰で、薄暗い通路が見通せるようになった。
僕らは、通路を戻って小部屋のモンスターを狩り、宝箱を開けて行った。
特筆すべきなのは隠し部屋の宝箱で、蘇生の珠《下級》が入っていた。
森脇さんのパーティーメンバーを蘇生出来るかもしれないと、一瞬湧いたが、それは出来なかった。
雛実ちゃんの時のようなアナウンスは流れず、僕らは肩を落としたが、武藤さんがからりと笑って「上級のとか見つけようや」と言って、落ち込むみんなを励ました。
レベルも上がり、モンスターコインも稼げたが今のところ割り振りはしていない。
森脇さんは好青年で、原国さんを上司としてとても慕っているらしい。
その信頼感が滲み出ているやりとりに、僕もいつか就職したら、職場にこんな上司がいてくれたらいいなと思う。
何の苦戦もなく、またボス部屋へ辿り着く。2階から下りてくる人もいなかった。
制限時間は残り9時間とちょっと。
ダンジョンのサイズとしては、1階から3階まで大して変わらない。このまま順調に進んで行けば、時間に余裕があるまま進めるだろう。
3階のモンスターは2階ボスで出てきたホブゴブリンだった。正直、捕捉と同時に瞬殺されすぎてて、あまり姿は見ていない。
ボスもゴブリン種の何かだろう、と僕らは当たりをつけて、扉を開けた。
中にいる3体に、原国さんが範囲魔術をぶつけ、有坂さんが弓矢を撃ち、森脇さんが光弾を撃つ。武藤さんが剣聖スキルで薙ぎ払い、ボスは何一つ出来ずにモンスターコインと化した。
部屋には宝箱が2つと、地下への階段があり、ボス部屋入り口の扉はやはり開かなかった。
もう完全に無双と化している。
これなら、誰も欠けずに済みそうでよかったと心底思う。
宝箱を宗次郎くんが開けると中身はスキルスクロールだった。
小部屋もいくつかアイテムを手に入れたけれど、ガチャアイテムの下位の武器だったり、ポーションだったりして当たりだったのは敏捷のイヤリングくらいで、それは宗次郎くんが装備している。
ボスドロップは相変わらず魔石で、僕らパーティーと森脇さん、宗次郎くんと雛実ちゃんコンビで1つずつに分配した。
「そろそろ職業レベルとかの割り振りした方がいいかね。ガチャも引いとくか?」
武藤さんが魔石を拾い、配りながら、僕に向かって言う。
「既にだいぶオーバーキルですけどやっておきましょうか。とりあえず20連くらい」
ボス討伐で全員のレベルが上がっている。
ガチャの後で全員で話し合いポイントを振ることにした。
ガチャ結果は武器で更新出来るものは星6の杖。光魔法を持つ森脇さんに譲渡し、装備してもらう。
防具は全員で分け、レアリティの高いものを防御の薄い森脇さんへ。アイテムもポーション類と身代わりの護符が出たので護符は回復役の有坂さんへ。
ポーション類はある程度満遍なく全員が扱えるように配る。
スキルも出たので、宝箱から出たスキルと並べて相談をする。
「スキルどうしますかね。槍術、石化、水魔術とありますが」
「死蔵状態の星7槍、ツリーで誰か解放して装備出来ませんか?」
有坂さんが言う。そういえば強い槍をガチャで引いていたんだった。
全員で、スマホを出してツリーなどを確認する。
現状のステータスでは僕らのパーティーは僕の職業、共有者があるので全員が筋力技力をクリアしていて、後は槍術のスキルレベルを上げればいいという状態だった。
魔術はあるが、武力スキルがない僕が槍術をとり、星7槍を装備することになった。
けど、あんまり出番はなさそうかな、と大人たちを見る。
水魔術は水球を放ち、敵に窒息ダメージを与える魔術。
対人を予測した上で、無力化に使用出来るため、これは大人がとった方がよさそうだ、となり原国さんが得る。
残る石化は同様に森脇さんが習得。レベルが上がるごとに石化時間が延びる。石化状態で破壊すると、戻った際にダメージが入る。想像すると水魔法も石化も恐ろしい。
スキルポイントは原国さんと武藤さんが職業レベルを1つずつ上げて、僕と有坂さんが5ずつ上げた。
それによって有坂さんが石化解除の魔術を覚え、僕たちの共有ストレージの容量とボーナスステータスが上がる。
僕は槍術のスキルレベルも上げ、星7槍を装備して終了。
宗次郎くんと雛実ちゃんは職業レベルを2ずつ上げ、森脇さんは職業レベルを1と、光魔術のツリーを広げ《浄化魔術》を習得した。
浄化魔術は体や衣服の汚れを落とすことも出来て、アンデットモンスターの特効魔術にもなる。森脇さんは早速それを使って全員についた血糊や汚れを落としてくれた。
凄くさっぱりする。
「そういや、割と長いことここにいるが、喉も渇かないし、腹も減らないな」
ぽつりと武藤さんが言う。
「トイレに行きたいとも感じないですね」
「夢だからじゃねえかな…?」
宗次郎くんが言う。夢だから、感じないものもあるのだろうか。
「時間もあるし、そろそろ行きましょうか」
一通り、やることを終えたので、階下へ進む。
「次のアナウンスこえーな……」
階段を下りるたび、何かアナウンスによる情報開示がされるのを思い出して、宗次郎くんがぼやく。
「大丈夫、何とかなりますよ」
有坂さんが微笑んで言う。元気付けられて、「そうだよな」と宗次郎くんが頷いた。
僕らは、警戒しながら、階段を下りる。
地下4階に降り立った瞬間、アナウンスと共にポケットのスマホが、振動した。
『パーティークエストの条件が達成されました。真実クエストクリア項目を更新します』
クエストのクリア表示がいくつも、画面でポップアップしている。
パーティークエストが『真実の深遠』というクリア表示でナンバリングされた状態でいくつも。
「性格わりぃな、これじゃ何が条件だったのかわかったもんじゃねえ」
武藤さんが吐き捨てるように言う。真実シリーズのパーティークエストについて説明をしてない森脇さんや宗次郎くんたちは僕らを見てぽかんとしている。
クエスト報酬をとりあえずは受け取る。
原国さんが渋い表情をしているが、特に何も言わない。
開示された真実はこうだった。
『ボス部屋に侵入したら出ることは出来ない』
『上階に戻ることは出来ない』
『一部壁以外のオブジェクト破壊不可』
『制限時間内にクリア出来なかった者は目覚めない』
『モンスターはプレイヤーの魂の銀貨である血液から発生する』
『蘇生にはタイムリミットがある』
『死亡者の死体、携帯端末は死亡後5分で消える』
『パーティー解散をした場合、パーティー内の死亡者は確定死亡者となる』
『配置されたプレイヤーが1階を踏破あるいは全滅した際、新たなプレイヤーが初期位置に配置される』
検証した物もあれば、話に上がった物もあった。
それでも開放されていない項目の方が圧倒的に数が多い。
報酬が共有ストレージに送られる。
「今のアナウンス……パーティークエスト……? 条件って……真実クエストってどういうことですか」
森脇さんが訊く。森脇さんのパーティーは仲間割れで、彼以外は全員死んでいる。
これが現実でも死亡する、と知ったら……。
「進みながら話そう。3階でそうしたように」
原国さんが、言う。森脇さんが頷いて、ライトの魔術で通路の奥を照らし出す。
何をどう、説明するのだろう。
3人のことを思うと、胸が痛かった。