16話【警戒のその先/宗次郎視点】
本日も複数話投稿します。お付き合いいただければ幸いです。
俺、梶原宗次郎はほっとしていた。
最初のパーティーが余りに酷かったから、助けてくれた人たちがマトモで、強くて、優しくて本当にほっとしたのだ。
夢の中とは言え、死人を悪くは言いたくなくて……というより、死人を悪く言う奴だと思われたくなくて、割といろいろと濁しながら話してしまったけれど、最初のパーティーにいた白木という男はクソ野郎だった。
俺たちが全滅しかけたのはあいつのせいでもある。仕切りたがるくせに仕切りが下手だし、何よりヒナをいやらしい目で見てたのが最悪だった。
俺とヒナは幼馴染だ。幼馴染といっても兄妹に近い。
ヒナの母親がうちの母ちゃんと学生時代からの友人で、小さい頃からヒナはよくうちにいた。妹が出来たみたいで俺は嬉しかったし、それをおかしいとも思わなかった。
今思うと、ヒナの家はいつもごたごたしていて、ヒナの母ちゃんはよく怪我をしていたし、幼いヒナは大人の男を見ると怯えて泣いていた。
今ならわかる。ヒナの母親は、旦那からDVを受けていたんだ。
何年かして離婚をしたヒナの母親とヒナは俺の家に住むことになった。爺ちゃんと婆ちゃんが残してくれた家で、元々二世帯住宅だったのが丁度よかったらしい。
結局今もヒナと俺は他人だけど幼馴染で兄妹みたいな生活をしている。
小さいころから成人男性を見れば怖がるヒナを守ってやってと言われ、日曜朝のヒーローモノが好きだった俺は喜んで引き受けた。
うちの母ちゃんもシングルマザーで、父親不在、母親が2人いるような生活で、女ばかりでちょっと肩身が狭い。
だけどヒナはずっと俺を頼れる兄貴みたいに扱ってくれる。それがちょっと誇らしくもある。
今でもヒナは、成人した男を怖がる。だから、ずっと守ってきた。同級生からからかわれても相手をしなかった。
自分のプライドより、大事に守れるものがあればヒーローなんだ。
そう、俺の一番のヒーローが言っていたから。
ヒナを守る。そこに恥ずかしいことなんて、なにもない。
からかわれても、何を言われても、ヒナを守ってきた。妹分として、ずっと。
その妹分をあんな目で見られて、気分がいいわけがない。
OLの三峰綾香と名乗った女性にも、いやらしい目で嘗め回すように見ていたし、あろうことかその目線の対象は俺にも向けられていた。
いちいち体を触ろうとしてくるのも気持ち悪かった。
白木は何の願望があるのかなんなのか、やたら格好よさげな、どこかで聞いた事のあるセリフをいうが、ちっとも中身が全く伴ってなかった。
三峰さんも引いてたし、俺たちも引いてた。
三峰さんもいい人だったけど、強引なところがあった。
「綾姉と呼んで」と言われたので呼んでいたけど、特に何かしらの信頼関係があったかと言われると、なかった。
とんでもない勘違い野郎と組まされて、辟易しながら進んでいた。
三峰さんは愚痴や文句の多い人だった。正直それもしんどかった。
当然連携は全然とれず、俺たちのパーティーは2階であっさり瓦解した。
とはいえ、三峰さんは俺たちを最後まで守ろうとしてくれたマトモな大人だった。
だけど助けられなかった。
……俺たちだけが助かった。
その罪悪感がある。夢の中でも。
だから、今度はちゃんと仲間の役に立とうと思う。俺も誰かを護れる人間になりたい。
真瀬兄たちはすごい。強いし、優しい。俺もあんなふうに出来たらと思う。
そんなことを考えながら、真瀬兄たちと共に扉を開けた。
悪人が罠を張っているかもしれない。
俺は注意深く部屋を見た。罠はない。一瞬、ほっとする。
武藤の兄ちゃんの言う通り、部屋の奥に人がいた。
スーツの男だ。壁にもたれかかり、こっちを見た。瀕死ではないものの重症なようだ。足が変な方向に曲がっている。
「君は……」
原国さんが呟いた。知り合いか?
男は扉を開けて入ってきた俺たちに、驚き、声を上げた。
「原国課長……っ!!?」
スーツの男が怪我で動きが鈍いながらも懸命に、敬礼をする。
原国さんは苦笑して、慣れた動作で敬礼を返す。
「君がいるとは……全く。生きていてくれてよかったよ、森脇くん」
警察で課長って……捜査一課とかの、一番偉い人だ。もしかして、原国のおじさんってすごい人なんじゃ……?
「私の部下の1人で森脇くんだ。大丈夫彼は善人だよ。回復してあげてくれるかい?」
どうやら、みんなが警戒していたような危険人物ではなかったみたいで緊張が解ける。
回復をして事情を聞くと、どうやらパーティーメンバーが諍いを起こして、同士討ちをしたらしい。
その原因はこの部屋の宝箱の中身で、レア職業スクロール、剣聖だったらしい。
それを奪い合い、他のパーティーメンバーが殺し合い、止めに入った森脇さんは重症を負ったという話だ……。
殺されてなくてよかった。マジでそう思う。
「自分がいながら情けない限りです」
森脇さんはそう言って、泣いていた。大の大人が、それも男が泣く姿を初めて見た。それほど、酷い同士討ちだったんだろう。
俺はちょっとわかる気がした。白木みたいなヤツが、何人もいたら、誰がいたって、統制なんかとれるわけがない。
ここは夢の中で、法律だって、警察だって関係がないと思うヤツはいるだろう。
原国のおじさんが背中をさすり、慰める。
「ここはダンジョンの中です。君のせいではない。自分を責めるのはよしなさい。君が生きていてくれて、本当に良かった」
その優しい言葉に、ぼたぼたと森脇さんは更に涙をこぼした。
きっとすごくほっとしたんだろう。
真っ当な自分の上司が窮地に現れて助けてくれたのだ。慰めてもくれる。
俺たちも、救われた気持ちにすごくなった。
だから、わかる。
ここは職場じゃないし、公務中ではない。仕事中のように畏まる必要はないからと言われ、更に泣いていた森脇さんが落ち着いて、俺たちが紹介されると、森脇さんは恥ずかしそうに微笑んで、自己紹介をした。
森脇和則。原国さんの部下で、刑事。
職業は魔術師で、スキルは光魔術。
光魔術は2つ覚えていて、1つは通路や室内を照らすライト。もう1つは攻撃魔術で光の弾を指先から撃ち出すことが出来るらしい。
宝箱の剣聖の職業スキルロールをお礼にと渡してくれて、戦士で剣術スキル持ちの武藤さんが職業を更新した。
真瀬兄のスキルについても話して、ガチャで出た防具などを森脇さんに装備してもらった。
俺たちみたいに驚いていて、何だかすごく親近感が湧いた。
これで俺たちは7人、ちょっと大所帯になった。
不安も、不満も薄れていく。
最初の頃が嘘みたいに、少し楽しいくらいだ。
森脇さんが加わって、ライトの魔術で通路も見渡しやすくなった俺たちは、その後誰とも出会うことはなく、ボス部屋まで辿り着いたのだった。