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14話【カウントダウン】

 地下3階へと降りて行く。


 このダンジョンは、10階まであると、謎の声は言っていた。

 戦闘より探索とガチャアイテムやポイント割り振りで時間がかかっているが、誰かが怪我をしてしまうよりはいい。


 戦力はどう考えても、現時点では過剰なくらいだと思う。

 3階はボス攻略までは速度をある程度重視して、ガチャやポイントは温存しても良いかもしれない。


 そんなことを考えながら階段を降りきると、アナウンスが響いた。



『ダンジョンクリアまでの制限時間、カウントダウンを開始します』



 僕らは顔を見合わせて、スマホを見る。

 そこには『残り時間10:00』と表示されていた。



「焦る必要はありません。落ち着いて」

 表示を見ていた全員が、声を上げた原国さんを見る。


「私達の戦力なら、何の問題もなく時間内でクリア出来るでしょうから」

 そう言って、微笑む。


「索敵出来る人間が3人もいますから、進みながら話しましょう。見つけた正面にいるモンスターは弓などで狩ります」

 滑らかに話しながら進む原国さんの後を全員が追う。


 原国さんが言葉を切ったところで弓を連撃した。暗がりの奥で何かが倒れ、コインが落ちる音がした。


「この通り、この階のモンスターも一撃で倒せる。まずは小部屋に人がいない場合は一度スルーして道を進み、要救助者あるいは他パーティーがいないかを確認し、ボス部屋までの順路をマップで見られるようにしましょう。それでいいですか?」

 

 まずは他の人間がいるかどうかの確認を優先する。うん、賛成だ。

 小部屋で立ち往生しているパーティーがいるなら救出したい。



 制限時間が課せられた。

 この制限時間は一体何を示しているのか、不明だ。

 時間内にクリア出来なかった際に何がどうなるのか、告げられていない。

 それ自体が不穏で嫌な感じがする。


 目覚めないのか、それとも――。


「人命救助最優先、了解だ。んで、何でそれ2階で言わなかったんだ?」


「急かすと事故が起きやすい。特に回復したとは言え、死に掛けた子供を信頼関係すらなしに、すぐに急かすほど私は鬼ではないよ。制限時間もなかったからね」


 原国さんは正面を見ながら柔らかい声音で告げる。歩む足は止めない。


「制限時間が何を指すかはわからない。が、10時間丁度から始まっている。私達より先に攻略を始めたパーティーの残り時間は、もっと短くなっているはずだ」


 言葉を区切り、弓を連撃すると、足元の先ほど倒したモンスターコインを2枚拾い、また前へと進む。

 小部屋を2つ通り過ぎるが、武藤さんは何も言わない。人がいないのだろう。


「ダンジョンは全部で10階。私達より前のパーティーは、あと何パーティーいて、残り時間はどのくらいか? 私達には知りようがない。が、前にパーティーがいることは確かだ」


 3階もまた、床も壁も血にまみれている。死体もなく、スマホや、使っていた装備も落ちてはいない。


 宗次郎くんの死亡したパーティーメンバー2人の姿も、なかった。

 死んでどのくらいで遺体や装備が消えるのかはわからない。


「制限時間がある以上、割り振りに今までのように時間を費やしてはいられない。レベルが上がったら、一度ボスまで温存。状況に合わせつつ、可能な限り全て回復師のレベルに注ぎ込むことを私は提案するがどうだろうか」


 進み、モンスターコインを拾い、索敵に引っかかったモンスターを弓で倒しきる。それを繰り返しながら、僕らは原国さんの後に続く。



「回復師の最大レベルであるレベル25で得る蘇生スキル、そして多分ですがその後がある。初期職はスキルや伸ばした能力により派生職があると、白い部屋で聞いたでしょう? その派生職によっては、攻略難易度は更に下がる筈です」



 原国さんはモンスターを屠りながら、歩みを止めない。



「このダンジョンは資産共有協力型パーティーでいれば、勝てる作りなんでしょう。その代わり、パーティーを組みつつも、コインなどの資産を共有化せず、個人個人でどうにかしようとすると苦戦するように出来ているのでは、と推測しました」

 

 分かれ道を右に曲がり、氷の矢を放つ。ゆったりとした歩調であるけれど、武藤さんに目で確認をしながら原国さんは歩き続ける。


「1階で言った通り、我々が苦戦をせず最初から楽に進めたのは真瀬くんがパーティー全体を1つの戦力として考え、武器や防具をメンバーに譲渡し、ガチャスキルを独り占めすることなく、全員で分担が組めたことが大きい」


 また氷の矢を放つ。言葉も歩みも止めないまま。


「他のメンバーについても『全体効率』に対する理解が早く、コインの共有もスムーズに進んだ。もしも真瀬くんが強力なスキルを持ったことでパーティーを私物化し、全てを独り占めしていたら。我々の中に彼の能力を我が物のしようとするものがいたのなら、こうはいかなかった。真瀬くんの職業が【共有者】という強力なものになることもなかったでしょう」



 突き当たりになり、武藤さんが首を横に振る。

 引き返して、進まなかった左の道を進む。武藤さんが淡々とモンスターを弓で狩り、武藤さんが時折斬撃を放つ。

 息ぴったりに、モンスターを屠る。


 レベルアップの通知も今のところは無視して進む。


「宗次郎君たちのパーティーでは、全員、自分のポイントを話し合うことなく、割り振っていた」

 突然自パーティーに言及されて宗次郎くんの肩がびくりとはねる。


 彼らがそうしていたことは、2階で雑談する中で聞いたことだった。

 そういえば原国さんは2階では要所以外では殆ど会話に加わらず、何か考えている顔をしていた。


 今説明していることは、多分今まで考えてくれていたことなのだろう。


「自分が使いたいスキルに向けて、自分のポイントだけを使っていた。モンスターコインはモンスターを倒した人の物として扱って、共有化するものは何もなかった。唯一手に入ったアイテムは共有ストレージに入れたが、ボス戦で一番重症を追った白木青年に使った。ボス部屋の宝箱にはパーティースキル《マップ》が入っていた。1階は全ての部屋は回る余裕がなく、苦戦を強いられた」


 宗次郎くんたちの話してくれた、攻略の流れを原国さんが淡々と語る。


「地下2階、通路と小部屋で苦戦したが辛勝し、レベルを上げたが、ここでも情報共有はしたものの、ツリー解放は個々の判断で行った。そして、宝箱の罠が作動、モンスターが出現し――……私達が部屋に辿り着いた」


 左の通路のある部屋にも人の気配はないらしく、武藤さんと原国さんがモンスターを狩り、コインを拾い、淡々と進んで行く。

 元からコンビを組んでいたように、息がぴったりで、その後ろ姿は頼もしかった。


「無論、真瀬くんのスキルあればこそのこの楽な道行きではある。が、このダンジョンで最も早く楽に攻略するには、武藤くんの言った通り、共有化が一番だ、と思うんだよ。ただね……」


 左の通路からまた道が分かれた。

 言いかけた原国さんを制して、武藤さんが口を開く。


「あの部屋、人がいる。1人だ」

 武藤さんがそう、声を上げた。

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