121話【アポカリプスサウンドⅤ】
『一定の魂の銀貨を得ました。オンラインでのやりとり、その全ての匿名性の廃絶を行います。入力者名には、端末所有者ではなく、端末使用者の名前が表示されます。偽装系スキルの使用不可。本人の意志ではなく、他人の介入による書き込み発言等にはその旨の注釈が入ります』
以前あった武藤さんの提案通りのルールが敷かれた。
これでオンライン上での会話に責任が課せられる。
言葉は力だ。人を癒しもすれば、傷つけ、殺すこともできる強い道具。
特に、言語の壁が取り払われた今、誰にでも通じ、届くもの。
これまでの歴史の中、人類は道具を悪用もしてきた。
言葉は人の心を殺せる道具にもなる。
それにブレーキをかける。自身の名の元にしか、使えなくする。
それでも悪意は消えないことは武藤さんもわかってる。
無自覚の言葉。無自覚の差別。無自覚に集団化してしまう、言葉の群れ。
ひとりひとりは自分の意見を告げただけと思うそれは、集中してしまえばその意図がなくても、言われた相手にとっては集団攻撃になる。
数は力になる。善くも悪くも、人に力を与える。活力、暴力。その区別はつけられない。
励ましたつまりで殴っていたなんてこともある。
正しいことを言ったつもりでも、傷つけていたなんてことも。
その逆もある。
無為の集団。人類は徒党を組み、進化も退化もしてきた。
僕たちは、群れを成す。
どんな悪人も、人から、人の作った文化から離れては生きていけない。
言葉から離れて生きることも、とても、難しい。
「真瀬零次の復活。それを行う、本当にそれでいいのか」
戻った星格が問う。父さんの復活に必要な条件は、全て揃った。
有坂さんが得た神の権能。運命固有スキル『魂の復元』、僕の赤銀コイン、そして星格の保有する父さんの魂。
散逸しているそれは、星格の命で集められる。
「何が起きるかは、わかりません。ですが、彼の復活。それは、異星の在り方を正確に知るためには不可欠です」
「でも父さんは神ではなく、異世界人ですよね」
「いいや、神の記憶もあるはずだ。最古の堕ちた神、魔王の魂そして勇者の魂を持つんだろう? なら、八尾くんを攫ったオールドヴェールの女についても何かわかるはずだ」
そうだった。父さんは、異世界転生をした。魂は異星のもの。そして、そこには神と人双方の記憶を持つ。
「危惧があるとすれば……真瀬くんのお父さんが魔王化してしまう、ってことはないですか?」
「ないですぴ。肉体はこの世界の人間の器。直接介入や魔族化しない限りはありえないですぴよ?」
「八尾くんみたいに攫われることは?」
「無理だと思うよ。僕の敷いた法はそう何度も破れるものじゃない。それが可能なら、既に紅葉が攫われていただろう」
名前のあがった紅葉さんがびくりとして、震える。
楓さんが大丈夫、とその背に触れる。
「父さんの魂、全部集め切れるんですか」
「集めてはあるんだ。夢で彼の一部と会っただろう? ただ僕に異世界人の魂の復元し肉体に戻すことそのものはできない。肉体はこの星のものだけれど、彼の魂は構造がこの星の人間とは違う。僕は万能ではないんだ」
「神性なら坊主の親父さんにもあるんじゃないか?」
「ある。あるが、神としての在り方が全く異なるんだ。人も人としての在り方が全く違う。構造も素材も違うものだ。どれほど細かくなったとしても、一片残らず、集めることはできる。それでも設計図も何もなく、正しく組み立て直すことは出来ない。組み立てが間違えば別のものになったり欠けたりしてしまう。それは完全な復活とは呼ばない。君たちに塔型のダンジョン攻略を課そうとしたのも、その中で魂の復元関連の運命固有スキルが得られれば、と考えたからだ」
とはいえ、その辺りの説明はすでに原国左京にはしてあったけれど、と星格は言う。
原国さんは星格といる時間が、僕たちよりも長い。
僕たちの知らない、星格の持つ情報。そして過去周回による知識。それらを総合してあらゆることを、行っている。
主に治安の維持。国内情勢、外交も含め、あらゆる人類に対して必要な指示を緊急内閣へと降ろしている。
15年の間、ダンジョンアポカリプスを乗り越えるために下地の人間関係も構築して、戦ってきた。
星格の言葉は、世界の仕組みの言葉だ。
その言葉を一番上手く活用できるのは、2000を越える死に戻りを経験した原国さんだと僕も思う。
既に『魂の収集復元』の運命固有スキルを有坂さんは得た。
能力だけ見れば、彼女もまた神様。女神に類すると僕は思う。青いひよこには「アニマ」という名前を有坂さんがつけた。
「では行こう。真瀬零次を、復活させる」
僕たちは、父さんと、母さんのいる場所へと、転移する。
そこで父さんが復活をする。その影響で、どんなことになるか。何が起きるか。
それは僕にも、誰にもわからない。