119話【必罰返礼】
「双方動くな!!!」
武藤さんを先頭に走り、僕たちはその場に辿り着いた。
血塗れで倒れている人に、有坂さんが回復魔術を飛ばした。既に死亡している人もいる。
その場には男女半々の6人の傷ついた人たちと、3人のほぼ無傷の男たちがいる。
「誰だテメェら」
「邪魔すんじゃねえよ!」
血の気の多そうな見た目の3人の手には、血の紋。それを見た有坂さんは迷わず告解スキルを使った。
男たちが膝をついて、苦悶の表情を浮かべ悲鳴を上げる。
そして、死亡している人への蘇生。
6人には血の紋はない。襲われたのだろうか。
「あなたたちは、テレビに出ていた……勇者パーティーの」
「勇者パーティーを名乗った覚えはないが……まあそういう言い方をされることもある。何がどうなって戦闘になった?」
有坂さんから回復を受けながら、驚いた表情で僕らを見る彼らに、武藤さんが問う。
「いきなり襲われて、回復職から殺されました。私たちは彼らが誰なのかも知らないんです」
戸惑いながら首を横に振り、女性が答える。
全員の回復が終わった。話を聞いてみれば、彼らは国営ギルドのダンジョン探索者らしい。
武藤さんが僕たちを見て頷いた。彼らは嘘をついていない。
正体不明者は、残り5人。
彼らを襲ったような、人たちでなければいいけれど……。
僕たちは苦痛にのたうつ3人の右腕に、スキル封印の腕輪をつける。
さっきまでと違い、彼らの表情には怯えと苦痛、恐怖が浮かんでいる。自分たちのしてきたことが、返ってきたのだ。
与えた暴力、恐怖、そしてそれによるトラウマ。
「レベルも1まで落ちた。もうこいつらには危険はない」
武藤さんが言う。3人の男たちはそれぞれ、左手首から下、肘から下、そして左腕全てが肩から欠損している。
告解は、自分の罪を罪として認めない者、認めたとしてもそれを開き直る者や責任転嫁をする者に対して強く罰を与える。
必罰。
星格の敷いた法による、因果の応報、罪と罰。
それの存在を、彼らは信じなかったのだろうか。この後に及んでPK……殺人に手を染めるだなんて。
きっと信じない人は信じないのだろう。
自身の過ちを認めず、我欲のために力を振るうことをよしとする人たち。
分け与えることをせず、他人から奪うことを選択し続けることはもうできない。
告解スキルがあり、それを行使できる人が多数いるのだ。
この世界から悪人はいなくなるのだろうか。こんなに強制的な力でねじ伏せる形で。そのことを、全ての人で議論することもなく。
いや、議論自体は、ずっとされてきた。善と悪について。悪に対する刑罰について。
そうやって僕たち人類は法を作り、判例を積み上げ、人が人を裁いてきたのだ。
それが塗りかわった。人は人を裁くことをせずに済む。確かに、因果の応報で、やったことが自身に返ることは正しいように思う。
だけど、考えないといけないんじゃないだろうか。
本当にそれが正しいのか。僕らに神性があるというのなら、尚更に。考え続けなければいけないのではないだろうか。
僕はこの3人が、どんな人生を歩んできたのか知らない。
問答無用で裁かれた彼ら。
反省の余地は本当になかったのかすら、僕らは知らないのだ。
安全を脅かし、人を襲い、殺した。
彼らかそうしなくてよかった方法を、彼らがそうならなくていい理由があったのかもしれない。何がどうして、彼らを凶行に走らせたのか。
ここに至るまでのことを僕は知らない。
悪事にのみ働く、告解の力。誰も罪を、過ちを考えることなく、許さなくなってしまえば、この先、人はどうなってしまうのだろうか。
スキルの力も。何もかも人の世界は変わってしまったから、考えて議論を尽くさないと危険なのではないだろうか。
「攻略は、続けられるか?」
武藤さんが6人の国営ギルド探索者に問う。
僕たちはガチャで引き当てた、ダンジョンからプレイヤーを離脱させるスキルも得ている。
怯えて小さくなっている襲撃者3人はダンジョンから離脱させて、ダンジョンゲート前で原国さんの部下に保護をしてもらう予定だ。既に原国さんが部下を手配している。
「続けます。大型ダンジョンは超高難易度だと政府から通達されているので、レベルをあげないと」
彼らもまた、戦っている。
世界の滅びを回避するためには、僕たちだけではダメだ。みんなで、協力していかなければ。夢現ダンジョンの時のように。
先頭に立つ役割は僕たちが引き受ける。だけどそれだけでは、救いきれない。世界も人も。
夢現ダンジョンで血の蘇生術を得られたように。
解決策が僕たちにあるとするのなら、協力者があの時のように必要なんだ。
僕は彼らに防御系、補助系のスキルカードを渡し、蘇生限界がある可能性も告げた。
たくさんのお礼を言う彼らと別れ、更にダンジョンを下っていく。
正体不明者は、残り5人。
正規のギルド探索者ではない彼らとの出会いが、どんなものになるのか、僕らはまだ知らない。