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114話【call of ■■■】

「いやー助かった~。ありがとね~」


 意識の戻った楓さんは、そう笑って、頭を掻きながらのんびりと言った。


「緊張感のない姉ですまん」

 武藤さんががっくりと肩を落としている。


「変に深刻な空気になるよりは全然いいですよ」

「あるじあるじ~わえにもっとおににり下さいぴ~」


 原国さんの執務室に戻った僕たちは、小休憩をしている。光るひよこが空腹を訴えたので、おにぎりをひとつあげたらぺろりと食べてしまった。

 おかわりをあげると、ぴよぴよ嬉しそうに食べている。かわいい。名付けもしないと。


「あ、いいなおいしそう」

「俺の分やるから大人しくしててくれ」

 楓さんに武藤さんがおにぎりを差し出す。ポットに入れたお味噌汁をそっとストレージから出して渡すと、にこりと笑って楓さんがお礼を言った。


「ありがとありがと! いやあ、おなかぺこぺこでさ」

 味噌汁を啜ってから、おにぎりをぱくりぱくりと食べる。

 無事彼女を取り戻せてよかった。


 僕と有坂さん、武藤さんと星格(オルビス・テッラエ)は原国さんの用意してくれた珈琲を飲んでいる。クッキーつき。

 バイト先を思い出しながら、温かい珈琲を飲む。


「あるじのごはんおいしいですぴ~」

 ご機嫌な光るひよこはおにぎりふたつめを食べきって、テーブルにころんと転がって満足したみたいだ。よかった。

 名前どうしよう。


 脅威のひとつはなんとかできたとは言え、まだ大型地下迷宮(ラストダンジョン)問題が残っている。

 あと4日。のんびり休憩していてもいいものだろうか。


 そんなことを考えていると、ノックが響いた。

 入室してきたのは根岸くん、八尾くん、それから紅葉さんだ。

 3人とも少し緊張した面持ちで、原国さんに勧められてソファに座る。


「お疲れ様でした。珈琲は飲めますか?」

 原国さんが微笑んで珈琲を勧めると、3人は頷く。テーブルの上に転がる光るひよこに3人の視線が集まる。


「ぴっ! わえのお仲間いるですね!」


「は!? 喋った!?」

「こ、これが、精……霊……?」

「かわいい……」


 ぴょこりと起き上がって3人に話しかけた光るひよこの言葉に驚く。


「うん。精霊。まだ名前はつけられてないんだけど」


 ぴょこぴょこと動いて光るひよこが僕の膝に飛び跳ねて乗った。ふわふわの頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 ひとしきりひよこへの感想が飛び交い、根岸くんが意を決したようにしてから、口を開く。


「あー……ええと。あの、俺たちについた新しいスキル、これ何なんですか」

 根岸くんが光るひよこから原国さんへと視線を動かして問う。新しいスキル。

 光るひよこがお仲間、と言ったということは。


「運命固有スキルが発現しましたか」

 原国さんが頷いて、言う。

 そういえば、運命固有スキルが発現する人物が出てくることは示唆されていた。


 話を聞いてみると、根岸くんには『豊穣』、八尾くんには『神の鉄槌』、紅葉さんには『神託』の運命固有スキルが告解を受けた後に発現したということだった。


 『豊穣』は土地が肥えていて作物がよく実るスキル、『神の鉄槌』は破壊不能オブジェクトを含む悪しき万物への破壊、『神託』は星格(オルビス・テッラエ)のするアナウンス同様、全ての人間へのお告げを成すという。


 彼らは告解の影響で、個体レベルも職業レベルも1となり、奪ったスキルも全て返却がなされていた。復活しなかった相手のスキルも、全て償いに差し出したらしい。

 彼らが持っているのは初期スキルと生産スキルのみ。それもレベルが1まで下がっている。

 肉体の欠損までには至らず、僕たちはほっとしていた。


 全世界に彼らの告解が中継され、かつ最弱の状態。

 彼らは狙われればひとたまりもないだろうということで、原国さんの指示で保護を続行していた。


 その彼らに『運命固有スキル』が生えた、という。


「主と関係指数が高いから生えたっぴ。主に感謝するといいっぴ」

「関係指数?」


 僕が問うと、光るひよこはもふもふもちもちしながら答える。


「主に魂を救われた者たちですぴ」

 もふん、と光るひよこが何故か自慢げに胸を張って言い、膝の上でころりと転がった。落ちないように慌てて手で支える。


「どういうこと?」

「主がいなければ死んでいた者と言い換えてもいいですぴ」


「僕ひとりで彼らを助けたわけじゃないよ?」

「ぴぴ? 主はまだ自覚がないですぴょ~」


「自覚って何の?」

 支えている僕の手によりかかり、すりすりと自分で撫でられに行くひよこ。ふわふわでとてもかわいい。


「主はいろんな相手に言われたはずですぴ~? 神様になって欲しい(・・・・・・・・・)というお願いされてきたっぴ?」

「確かに……言われたけど……そういえば、異星の神にも……?」


 あの時の楓さんは乗っ取られていた。異星の神は敵対していたはずなのに何故?

 何かの罠ではなかったのだろうか。


「主はわえたちの本体にとても近いですぴ」

「異星の神の本体?」


「ですぴょ」

 こくりとひよこが頷く。


「主には我欲があんまりないですぴ。人を憎まないですぴ。自身を過信しないですぴ。星格(オルビス・テッラエ)は主を神にしようと作ったわけではないですぴ?」

 謎に高い評価を得てしまった。


「僕の機能はランダムに魂の複製して配布することだった。特にこうであれという願いなんてものは、昔はなかったよ。僕が星格を得たのは15年前だ。彼が生まれた後だよ」

「ぴ~? そでしたか。ぴよ。わえは主が神様になったら万事解決という気持ちはわかるですぴょ」

「確かに、真瀬敬命が不老不死スキルを使用して、尚且つ全ての運命固有スキルとガチャスキルを持っていてくれた方が、僕としても安心だ。それなら大型地下迷宮(ラストダンジョン)の攻略を彼ひとりに任せられるし、僕の運営も彼に任せればいい」


「またそうやって真瀬くんひとりに背負わせようとする……ダメですからね」

 めっと有坂さんがひよこに言う。有坂さんもひよこもかわいい。


「僕ひとりじゃダメだよ。みんながいたから僕はここにいるんだし、多分これからもそう。僕じゃ力をいくら持ってても使いこなせないし、厳しい判断が下せないのもダメだと思う」

 ひよこをなでながら言う。


 僕ひとりでは、きっと誰も助けられなかった。

 僕自身ですら、生き残れていたか疑問だ。

 みんなが助けてくれたから、僕は今ここにいられる。


「そですか~ぴょ~ぴょわ~」

 ひよこは気にしたふうでもなく僕の手のひらに自ら埋まりに行く。


「とにかく、今後のことです。彼ら3人と楓さんを含め、話合いましょう」

 原国さんが仕切りなおす。



 そこに電話のコール音が鳴り響いた。




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