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93話【意外な条件】

「救世の英雄とか、ガラじゃなさすぎて一周まわって笑えるね」


 一通りの情報共有が終わって、赤い髪の男が皮肉げに笑いながら言う。

 彼らの両手には血の紋。きっと服の下、腕にも伸びているであろうそれは、それだけ多くの人たちを傷つけ、殺してきたということでもある。


 彼らが何故そうしたのか、僕には理解ができない。


 僕たちは無言で差し出される手記やメモを読んだ。


 異星の神による、ダンジョンという悪意のバグを組み込まれて、ループの中で星格(オルビス・テッラエ)が滅亡を回避するために行ったのは、ひとつ、オブジェクトの破壊不可。


 建物が倒壊、破壊されることで死者の数は増える。それを防ぎ、安全地帯の確保をさせるためのルール。


 ひとつは夢現ダンジョンによるスキルの現実化。αテストダンジョンでは、武器となるものを携帯しているものだけがダンジョンへ侵入できた。

 はじめは彼らに現実に使えるスキルを配布したが、それにより混乱が生じ、破滅が前倒しして起きてしまった。


 武器を携帯している、無法者、ならずもの。そういったひとたちにスキルが渡ってしまったことで、虐殺、多くの血が流れた。この国が滅んだことすらあった。


 一度設置されてしまったダンジョンは、周回を繰り返しても同じ場所に出現してしまう。

 原国さんはαテストダンジョンを数十回のループで全て突き止め、それと同時にアポカリプスに向けた準備をし続けた。


 星格(オルビス・テッラエ)はαダンジョン内からスキルの持ち出しを不可にルールを変更、βテストとして夢現ダンジョンを使った。


 異星の神の悪意。ダンジョンに内包されたそれを極力押さえるために星格(オルビス・テッラエ)は力を使った。

 設置された罠の無効化。モンスターの弱体化。人類へのスキルの配布。レベルシステム。

 ダンジョンから連想し、ゲームの概念からそれを学び取り、人へと力を付与した。


 協力をすれば、踏破できるだけの形に。


 そして僕たちを同じダンジョンへ配置すること。


 星格(オルビス・テッラエ)とて、最初から存在したわけではなく、善意もあり悪意も持つ。

 そのコントロールはとても、難しいものだっただろう。


 けれどそこから数多の周回で彼もまた生きた人間を学んだ。


 その後のダンジョン世界同時出現、それが始まってしまえば7日の間でどう足掻いても滅ぶ。

 その回避をするために、原国さんと星格(オルビス・テッラエ)はループの中で足掻き続けた。


 互いの存在を知りながらも、意志を通わせることが出来ぬままに。


 僕たちが目指すのは、世界の滅亡の、その決定打が打たれる前に、原国さんのループ停止を解く。


 そのためにはまず、この6人で、パーティーを組むこと。


 6人でパーティーを組み、星格(オルビス・テッラエ)による追加スキルを付与、パーティー念話スキルを得る。

 異星の神による傍受不能の会話。いつまでも紙の上で会話をするわけにはいかない。


 問題は、目の前の彼ら。多くの周回で、魔族化したのちに魔王となり、人類を滅ぼすほどの悪性を持ったふたり。

 彼の言う通り、救世がガラではない、という言葉通りの人たちであることは読んだ記録でわかる。


 彼らを星格(オルビス・テッラエ)と武藤さん、原国さんがここに連れてきたのは、異星の神に取り込まれるのを防ぐため。

 運命固有スキルは、この6人以外にも持つ者がいる。


 けれど、条件を踏まなければ覚醒をしない。

 僕たちが存在を知るまで、持っていることを知らなかったのと同様に。


 赤い髪の男、徳川の持つ運命固有スキルは同じように運命固有スキルを持つ者には効かない。

 だけど、持たない者には絶大な効力を発揮する。


『信奉崇拝』


 主に徳川本人、そして運命固有スキルを持つ者への、強い信仰心を付与する。神への畏怖。畏敬。人の持つそれを与え、増大させる力。

 今はいくつかの手順が必要だが、ランクアップしてしまえば一目見るだけで効果が発揮されてしまう。


 そして伏見宗旦の持つ運命固有スキルは情報処理。膨大な情報をひとつの解へと導く能力。そして


『アカシックレコード』


 すべての情報にアクセスすることが可能な能力。

 今はモンスターコイン、スキルポイントコインを必要とするが、ランクアップすればそれも不要となる。


 このふたりの能力は、とても強い。

 それだけではなく、自得のために他人を害することに躊躇がない。


 敵対すれば負けるのも頷ける。一体そんな彼らをどう説得するのだろう、と思ったけれど少し考え込んでいた伏見さんが口を開いた。


「俺は協力する。星格(オルビス・テッラエ)に敵対しても勝ち目はないからね」

 紳士然として笑みを浮かべて、言う。


 彼がしていたことを知っていても、人のよさそうに見える表情。

 本当の悪人は、笑顔が魅力的だとも言う。


 だけど知っているのは与えられた情報だけだ。彼がどうして書かれて来たようなことをしてきたのかは、わからない。


「ただ俺たちに善性を期待するのはやめておいた方がいい。特に真瀬敬命くん。協力はする。死にたくはないし、これを見て人間をやめる必要もないとわかった」


 彼は指先で手帳の写しをトントンとタップする。


「ソロ魔王も楽しそうだけどな……」


 そう言った彼の隣で、ぽつりと呟いて、腕を組み、赤い頭を振って考え込む。


「まあいいか、協力するにあたって、条件を出す。それを叶えてくれるなら君たちの側につこう」


 徳川多聞は、蠱惑的に微笑んで、言う。

 悪魔との契約を連想してしまうほどに、その表情は魅力的で恐ろしい。


「俺の運命固有スキル、これを使えなくすること。あるいは他の奴に移すこと」


 彼の出した条件。それは、余りに意外なものだった。

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