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異世界からの帰り方 答え合わせ編  作者: たかなしことり
9/12

1日前 魔法都市ファーツェ


 鍵がかかる二人部屋を用意してもらったので、マーシェは久しぶりにゆっくり眠れた。

 リズベルの知り合いの宿だという事で、到着が遅かったのに、部屋と食事を用意してもらえて本当に助かった。

 目が覚めると夜が明けていたので、アティスを起こさないように、そっと部屋を出たが、階下で宿の主人に挨拶しているとすぐにアティスも降りてきた。


 たっぷり湯をもらって、一緒に風呂に入る。

「極楽~。」

 わざと小汚くしている顔も髪も、石鹸と灰で全部洗い流す。

「今日はどうするの。」

「リズベルの落ち着き先を確認したら、カースティンに戻る準備だな。あー、ここからだとパヴィア周りの方が近いのになぁ。」

「しょーがないよ。兄さんあっちで待ってるし。」

「まあな~」

「ヒロキはどうするの。」

「どうしようかなぁ。」


 湯を換えて、もう一回ざぶざぶ湯に浸かる。そして名残惜しげに風呂から出た。

「あいつどうも怪しいんだよな。あんなひょろひょろなのに。」

「不思議だよねぇ~。魔法学校で引き取ってもらえるかな。」

「ま、なんとかなるだろ。」


 髪が生乾きのまま朝食を食べていると、サラが降りてきた。

「あ、キレイになってる。」

 兄弟を指差すと、僕もお湯使ってくる、と厨房に入って行った。

 人を指差すってどうなんだ、とぶつくさ言っていると、今度はリズベルが降りてきた。

「あ、キレイになってる。」

 はいはい、とマーシェが応じる。


 サラが今風呂を使っているので、リズベルは先に食事にする。

 今日の予定を打ち合わせして、サラが長い髪をぐるぐる巻いた状態で風呂から出て来ると、入れ替わりにリズベルが風呂場に向かう。

 手伝って熱湯を風呂場まで運んで戻ってくると、ファラが起きてきていた。

 とりあえず、今日は帰りの旅の準備をすると伝えると、ファラはやれやれ、という表情を浮かべた。

「もう帰り支度か。忙しない奴らだな。」

「ヒロキの奴についても、なんとかしないとだろ。」

「魔法学校に入れりゃ、寮もあるらしいし、問題無しだろう。」

「素質があればな。」


 サラは髪を丁寧に乾かした後、頼まれて馬の世話をしに外へ出ていく。

 ファラは朝食を食べた後リズベルが出て来るのを待って風呂場へ、マーシェとアティスはリズベルを残して買い物に出た。

「やっぱり魔法学校が一番いいかな。」

 リズベルにつてを頼んでおいたが、まず言葉が通じないのに、さらに古代語覚えるなんて結構大変だろうと思う。しかし怪しい異世界人を、これ以上連れまわすのも勘弁してほしい。


 アティスはニコニコしながら兄を見上げる。

「何だ。」

「兄さんのそーゆーとこ、面白いよね。」

「どんなとこだ。」

「絶対気を許さないのに、ちゃんと世話も焼くところ。」

「お前がアイツを拾えって言ったんだろう。」

「だってそうしないと、兄さん後でずーっと気にするでしょ。帰り道にヒロキの死体とか転がってたら、『あーあの時助けておくんだったー』とかって馬鹿みたいに落ち込むだろうし。」

アティスの指摘にマーシェはぐうの音も出ない。

口の中でうるせぇな、と呟いて、話を変えた。

「武器屋に行くぞ。」


 矢は多めに揃えて、剣は研ぎにだした。傷薬や包帯も少し買い足す。

 その後、馬車の車輪にさす油を買って戻ろうとすると

「何買ったの?」

と声を掛けられた。


 何買おうと知った事か、と言い掛けて、すんでのところで飲み込んだ。

「・・あー、あんたか。」

 十歳くらいの黒髪の少年。

「こんな所で何してんだよ。」

「何買ったの?」

「馬車用の油だよ。」

「ふーん。」

少年はニコニコ笑いかけ、

「また変なの拾ったねぇ!」

と続けた。


「あーえー、変なの?」

なんか拾ったっけと考えて、

「ヒロキの事か?」

「世界の穴から落ちてきたんだよ。」

少年は空を指差した。

「遺跡時代の古代魔法で開いた穴なんだよ。あちこち通じてるの。ひどいよね。」

「ああ・・。あ、もしかしてお前、アイツを戻せんの?」

「穴はどれも移動してるんだ。でも見つけたら放り込むぐらいならできるよ。どの穴か知らないけど。」

 けろけろ笑う龍神様に、マーシェはため息をつきそうになる。そんな一か八か、いくらなんでも可哀そうすぎる。


 「どの穴か見分ける方法はないのか? 色とか音とか。」

「さあ。」

今まで見分ける必要がなかったから、したことない、と少年は答えた。

「ヒロキが落ちてきた穴が分かったら、アイツを戻してやってほしい。」

マーシェの頼みに、龍神はえー、と口を尖らせた。

「面白くなーい。面倒くさーい。」


 マーシェは言葉に詰まる。滅多な事を言うと、ろくな事がない。龍神は言葉を選ぶのだ。

「あー、じゃあ他の方法を探してみようかな。」

「えー、つまんない。」

 どうしろってんだよ、と内心マーシェは思うが、死にもせず年も取らない神様は、ただただ退屈だろうなとも思う。


 アティスが思いついて言った。

「じゃあ、ヒロキに縄を付けて世界の穴に放り込んでー、間違っていたら縄で手繰り寄せて戻す、とか。」

「それ面白いね!」

 目をキラキラさせて龍神様は頷く。

 いやいや、そんな無茶苦茶、ダメだろ。内心突っ込まずにいられないが、駄目だと口に出したが最後、それしか手段がなかった時に、この龍神様は絶対ダメになる方に持っていく。

 何とか逃げを打つ。

「一回ヒロキに聞いてから、考えよう。明日の朝ここで待っててくれ。」


 宿に戻ると、ヒロキはファラとリズベルと一緒に外出していた。

 帰ってくる前に、アティスやサラと話したが、やり方は無茶でも結局それが一番早い、という結論に至った。

 ただそれをヒロキがうんと言うか。


 戻ってきてから説明した。

 リズベルが、簡単で長時間使える翻訳魔法を聞いてきてくれて、助かった。

 しかしこの異世界人、見るからに臆病者でイライラする。やりたいことがあれば、失敗の恐れもついてくるに決まっている。なんでも失敗なしに望みが叶うなんて思うほうがどうかしている。

 なかなか結論が出ない。

「デリク先生が、帰る方法を見つけられない可能性もあるしな。もしそうなった時は、ここで骨を埋めりゃいいさ。」

 ファラは、もう議論に飽きたらしく、そう言った後

「あとはコイツが決める事だ。メシにしようぜ。」

と、部屋を出て行く。

 サラも椅子から立ち上がって後を追いながら言った。

「明日の昼には答えを出さなくちゃね。それを過ぎたら、君は魔法学校に入学だ。」


 マーシェはため息をついて、半ベソをかいているヒロキを見た。

 精神年齢低すぎる。この世界では、決断は常にある。よほど幼い場合以外は、すべて自分で決めて進んでいくしかない。

「リオンが連れてってくれるって言ってるんだから、行けばいいのに。」

 アティスがあっけらかんと言った。

「たぶん、デリク先生が帰る方法を見つける頃には、こっちにいた方が楽になってるよ。それでいいの?」

 ヒロキはプルプルと頭をふった。

「じゃあ決まり。明日、ヒロキは元の世界に戻る。それでいいよね?」

アティスはあっさり言って、お腹空いたーと言いながら部屋を出て行った。

 他人に人生決められて、それでいいのか?とマーシェは思うが、確かにコイツに任せたら埒が開かないな、とも思う。


 ただ、自分の人生は自分のものだ。

 与えられた場所から抜け出したいなら、力の限りあがくしかない。


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