3日前 合流する
峠に向かう道をサクサク歩いていると、昼近くになってなんかスープのいい匂いがしてきた。
人がいる、と思って歩き進めると、前に野宿した場所で、髪の長い人影が、しゃがみこんで火の加減を見ていた。
「おい。」
声をかけると、サラは振り向いてマーシェを見た。
「やあ、おはよう。」
「おはようじゃねぇ。もう昼だろう。それは朝飯なのか、昼飯なのか。」
「あー。今起きたとこ。」
「俺もそれ食っていい?」
「いいよ。ずいぶん遅かったね。」
「多分俺が一番遠くに飛ばされた。」
「だろうね。」
マーシェが差出したカップに、サラは自分のカップの半分を注いだ。
「あのエルフを中心に、多分30レルぐらいは飛ばされた。僕はこの南東。君は西か南西だろう。ならあっちとそっちとむこうに一人ずつって推測が成り立つ。」
サラが、北向きに三方向を指さした。
「俺も同感。」
「リズベルがファーツェに着いている可能性がある。」
「確認するまでは、送り届けたことにならない。」
「真面目だなぁ。ヒロキはどうするの。」
「あれは探しようがない。」
「あー。」
「さて、出発しよう。」
火の始末をして、歩き出す。
「探せなくはないんだけどね。」
「合流するのが先だ。まだエルフの集団が近くにいるかもしれないんだぞ。」
サラは黙った。
アティスの事がすべてに優先する。
ひっかかるといえば、ヒロキが持って行った兄の毛布だ。
まあ、捨てるならその方が良い。後生大事に、しかも人から見えるように持っていたら、暗殺者に狙われている兄の巻き添えで、さっくり殺されるだろう。
今頃死んでいるかもしれない。
その後はほぼ無言で歩く。
間もなく峠を越えて、日暮れ前にはレケト村に着いた。
宿屋はないが、峠を越えて来る商人などのため、アーグシィ神殿に大きめの宿坊があり、お布施の名目でいくらか払えば泊まることができる。
「お、来たな。」
夕闇の宿坊の庭で、ファラが剣を振っていた。
それをアティスが階段に座って眺めている。
「あ、兄さん!」
「そろそろ来るかな、と思ってたんだ。」
「この辺りに飛ばされたのか?」
「この東にある谷底に飛ばされた。上がってくるの大変だった。」
谷底をよじ登ってきたらしい。
さすがだ。
ファラがこの東なら、リズベルが西に飛ばされた可能性がある。
しかしこの西は、確かホビットの集落があると聞いたことがある。
温厚な種族だが、急に降ってこられたら揉めるかもしれない。