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異世界からの帰り方 答え合わせ編  作者: たかなしことり
5/12

5日前 飛ばされる


 朝、時間を取って支度し、昼食の為の獲物も下処理した後、かなりのんびり出発した。それでも多分、エルフが言った「昼頃」よりはかなり早く昨日の場所に着くだろう。

 無視してくれればいいんだけどな、と思いながらマーシェはヒロキをちらりと見る。


 何かあればこいつは馬車に乗せて走るしかない。男であんな足弱、見たことない。たった半日歩いて豆が潰れるなんて、どこの深窓のお姫様かと疑う。

 しかしそれより心配なのは、サラの存在がエルフに知られる事だ。いつも淡々としているサラだが、だからといって傷つかない訳ではない。

 出来ればもう少しゆっくりの出立の方が安全だろうが、それだと明日にはファーツェ到着の予定が大幅に狂う。それも困る。


「そろそろフード被っとけ。」

マーシェの指摘にサラは頷いてすっぽりと頭を隠した。

「このまま行けそうだな。」

ファラが声を掛けてくる。

「なんでそんな楽観的なんだ。やめろ。」

「はいはい。」


 後はほぼ無言で歩を進める。

 昨日引き返した所を通り過ぎた。特に何もない。内心ホッとしつつ、警戒は解かない。

 峠まで後少しという所まで来て、気が緩みかけた時だった。

 急にアティスがパッと振り向いた。

「兄さん、急ごう。」

 やっぱりか。

 ヒロキに馬車に乗れと合図して、馬を急がせる。峠を越えればすぐレケトの村だ。そこまでは追って来ないだろう。


「ヒトども。昼までは通れぬと言っただろう。」

鳥のような声が上から降ってきた。

「だから昼まで待っただろうよ。」

ファラが負けじと言い返す。

「昼にはまだ早い。」

「時計を持ち合わせてなくてすまんね。」

「引き返せ。」

「お宅の王様は、そんなに足が遅いのかい?」

 エルフは枝から枝へ、ふわりふわりと飛び移りながら着いて来る。


 どうせエルフの王とやらは、もうとっくに通り過ぎたに違いないのに、ただ昼まで通るなと禁じたのを破られた事に対して、言い掛かりを付けているだけなのだろう。

「下らぬ事を。わきまえよ。」

「こっちは引き返したせいで、怪我人が出たんだ。もう十分だろ。」

 怪我人ってヒロキの足のマメのことか?と思うと、マーシェは馬車を押しながらつい笑いそうになる。そこをぐっと堪えて、しかつめらしい顔で頷いて見せる。

「それがどうした。ヒトはいつも争って怪我をしておるではないか。」

「エルフのせいで怪我をすることもその勘定に入れといてくれ。」


 馬車を押しながら全力で山道を急ぐ。エルフはしつこくついてくる。

 アティスが振り向いて、その不毛なやり取りに口を挟んだ。

「君、王様と大分離れちゃったんじゃない?」


 エルフが動きを止めた。みるみる馬車と距離が開く。

「今のうちに。」

サラが言った。

峠に差し掛かる。傾斜が緩くなって、馬車の速度が上がる。車輪が石を跳ねてガタガタ揺れる。

荷台でヒロキがギャッとかウッとか言っているが、仕方ない。


 やがてゆっくり下り坂になってきた。不意に押していた馬車が軽くなる。

 下り坂ががきついのかと、前を見てびっくりする。

 マーシェはいつの間にか、一人で森の中を走っていた。


 やられた。あのエルフに吹っ飛ばされたらしい。

 他の仲間の気配を探るが、鳥の鳴き声しか聞こえない。

「おーい!誰がいるか!」

 叫んだが、返事がない。どうもバラバラに飛ばされたようだ。


 空を見上げる。木の枝が茂って、ほとんど空が見えない。

 しかし幸運なことに、ちらっと天山山脈が見えた。やれやれ。この感じだと元居た場所から三十レルは西に飛ばされたらしい。


 アティスはどうしただろう。

 少し迷ったが、背に腹は代えられない。力を込めて、空に向かって叫んだ。

「アティス!どこだ!」

 これをやると、兄にも声が届いてしまう。自分がアティスを見失ったことがばれてしまう。

 後で相当叱られるだろうが、仕方ない。


 しばらく待つ。遠い。

 マーシェの声に驚いた鳥が、また戻ってきてさえずり始めた頃、声が聞こえた。

「ここにいるよ!」

 遠い。方角からすると、尾根をはさんで向こう側に飛ばされたらしい。しかしそれならむしろ目的地に近い。

「ファーツェに向かえ!」

 もう一回叫ぶ。

 装備を一通り確認し終わった後、返事が聞こえた。

「わかった!」


 峠を越える道は、天山山脈は限られている。人が通れるのは、さっきの中央街道しかない。エルフやドワーフの領域と境を接しているので、往来には気を遣うが、そこしかないから仕方ない。

 ぶちぶち愚痴りながら、森を進む。


 歩きやすいし、見通しもいい。ヒトが薪を取りに来られる範囲なのだろう。大きく外さなければ人里に出るはずだ。

 思った通り、すぐ林道に出た。急いで駆け降りる。

 まずは場所の確認。そしてなるべく早くアティスと合流する。

 ただ、場所によっては兄が待ち構えているだろう。少し気が重い。


 しばらく行くと、小さい村にいた。

 井戸端でおしゃべり中のおばちゃんを見かけ、リアムの町に向かう街道はどこかと尋ねる。

この道を南へまっすぐ2レルほどで合流する、と聞いてホッとする。

 今日中には無理だが、なんとかなりそうだ。


 そうなると、他の仲間がどうなったか気になる。まあ、ファラは平気だろう。サラもおそらく。

 やっぱりリズベルが心配だな。女の子だし。

 あー、あとヒロキがいた。どーすんだ、あれ。


 歩きながら少し考えたが、すぐやめた。あれを助ける義理はない。

 そもそも天山山脈のどの辺に飛ばされたか全然分からないし、自分が他の仲間と合流できるかも分からない。運が良かったら、誰かに助けられているだろう。


 そこまで考えて、何か引っかかる。

あー、あいつ兄貴の毛布持ってたな。

 げんなりする。

まあ、無くしたと言えば、兄には深く詮索されないだろう。

むしろヒロキがやばい。

鞄にでも隠していてくれればいいのだが。


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