表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からの帰り方 答え合わせ編  作者: たかなしことり
2/12

7日前 ただの迷子じゃなかった


 空が白んできたので、マーシェは焚火を消して土をかぶせ、馬車の支度をした。気配でファラとアティスが起きてくる。昨日の変な男だけまだぐぅぐぅ寝息を立てて寝ている。

「どうする、こいつ。」

「馬車に乗せよう。」

ファラが言うので、マーシェは嫌そうに舌打ちした。

「まあ・・、山賊の手先ではなさそうだけどな。」

「置いていくか?」

ファラがにやにや笑うと、マーシェはしかめ面のまま、寝ている男の尻を蹴飛ばした。

「起きなかったら、置いていく。」


しかしさすがに男は起きた。痛かったらしく、不満そうな表情ながら、ファラに促されて馬車に乗る。

「お前も徹夜だろ。今のうちに寝ておけよ。」

さすがに眠気も限界で、馬車に乗るとマーシェはすぐに眠りに落ちた。

目が覚めたのは、馬車が止まったからだった。

「ああ。着いたか。」

「おはよー兄さん。リアムに着いたよ。」

アティスが馭者台から振り向いた。


大あくびをしながら、マーシェは馬車から降りる。サラはつまらなさそうに、自分の髪の枝毛を探している。

「他は?」

「ファラが宿探しに行ったよ。リズベルは食べもの屋。」

マーシェは頷いた後、馬車の上の昨日拾った男を見た。

「こいつどうする。」

明るい所でよく見ると、貧相な体つきに低い鼻。まあ愛嬌はある。が明らかにこのあたりのヒトと違う。


ヒト族である事は間違いなさそうだったが、森の中で何をしていたか気になる。

昨夜寝ている間にじっくり観察したが、足元がドロドロに汚れているのは仕方ないとして、服の仕立てがかなり良い。

縫い目は細かいし、そもそも生地がびっくりするほど上等だ。織り糸が細くて均一の織り目だし、ボタンも小さくて揃っている。上着の一番上の飾りボタンなんて、恐ろしく細かい細工物だ。しかし素材はいまいち分からない。


「これでもう少し背が低けりゃ、ドワーフの王子様だろうって感じなんだけどな。」

勝手な感想にアティスは笑い出す。

「ドワーフには見えないよ。名前、ヒロキだって。」

「何だそりゃ。魚の名前じゃねーか。」

拾われた男は、自分の名前が出たので期待して視線を上げたが、マーシェは肩をすくめてそれを無視した。

サラとアティスに馬の世話を頼むと、ヒロキをちょいちょいと指で呼んだ。

「おい、迷子。ついてこい。」


マーシェの仏頂面に、ヒロキはビクビクしながらついて行く。

手近の露店で、この村の役場の場所を聞いて連れていく。

「まったく、なんで俺がこんな事。」

ぶちぶち文句を言いながら村役場を訪ね、そこにいた男に、森の入り口で拾った男について話した。

「こいつの連れがいないか探してるんだが。森で迷子になったらしい。」

しかし相手はかぶりを振った。

「聞かないねえ。」


さっきの広場に戻ると、ファラとリズベルも戻っていて、宿も取れたし料理屋の席も取れたと話していた。ただ二人とも、この辺りで行方不明になった男の方は収穫がなかったらしい。

「こっちもダメだ。手掛かりなし。」

「いい事もあるわよ。魔法屋があったの。意思疎通が図れるかも。」

リズベルが丸めた紙でぽんと手のひらを叩いた。

「効き目あるかな?」

「やってみないと。」

紙に書かれた古代文字を、リズベルが読み上げる。読み終わったと同時に紙は炎を上げて散り散りになっ た。

魔法の場がヒロキを包んだ。


リズベルが話をして、まとめたところによると、この男は異世界から来たとのことだった。

「異世界。」

思わず復唱する。

「冗談も休み休み言ってくれ。俺は面倒なんて見ないぞ。」

マーシェは手持ちの金の算段をして、しかめ面をした。ファラは肩をそびやかす。

「まあまあ。ずっととは言わない。」

「当たり前だ。」

どこの馬の骨ともつかないのに、連れて回るなど危険すぎる。

「そもそも異世界ってどこだ。そんなにあっさり来れるもんなのか?」

「本人はそう信じてるみたいよ。」

リズベルは小首をかしげる。ファラはうんうんとうなずいた。

「拾った物を、その辺に捨てていく訳にいかんだろ。ポイ捨て禁止。」

「・・・もう一回魔法買ってくる?」


 リズベルがもう一度魔法屋に行くと、後の者はとにかく昼飯だ、と馬車を連れて飯屋に移動する。

「それで、何を話す?」

「そうだなぁ、まず俺たちがその異世界の入り口を探せるか、だが。」

ファラに言われてマーシェは眉根を寄せて考える。兄が別の街で待っているから、そんなに無駄な時間はかけられない。

「無理だな。」

「だったらあいつを、この町に置いていくか、ファーツェまで連れて行くかの二択だろう。あそこなら異世界とやらについて、知ってる奴がいるんじゃないかな。」

ファーツェはこの辺りで最大の魔法学校がある街で、古代語研究なども盛んである。リズベルの故郷でもある。


連れて行くなんて、絶対嫌だ。

飯屋に入って、ぶつぶつ文句を言っている間に、リズベルが戻って来た。

「買えた?」

「まあね。これで最後よ。使っちゃうと終わりだから、しばらく待って。覚えるから。」

「覚えられるものなのか?」

「なんとかなるでしょ。」


昼食をとりながら、今後のことを相談する。

「たしかに連れて行く選択肢もありね。ヒロキにはもう少ししっかりしてもらって。」

「どのみち自立は必要だしな。」

「お前ら暢気だなー。あんな細くて武器も使えなくて、言葉も通じなくて、ブサイクで、金もない奴、どーすんだよ。」

荷物持ちにも傭兵にも商人にも役者にもなれない。おまけに足も遅いし言葉も通じないから、使い走りにさえならない。最悪。お荷物。誰がそんな奴の面倒見るんだ。

マーシェが口汚く罵るのを、みなウンウンと聞いている。

「まあヒロキ次第だろ。」

「そうそう。ヒロキのやる気さえあればいいんじゃない?」

「お前らなぁ!」

「じゃあ、置いていくの?」

アティスに言われて、マーシェはぐっと言葉に詰まる。

「絶対大変だぞ。」

「とにかく、どうしたいかヒロキに聞いてみよう。」


1つ。この町に残って自力で森に戻る。

2つ。ファーツェについて来て、異世界の手掛かりを探す。ただしその場合でも、ファーツェ解散になるので、後は自力でなんとかする。


「結局自力じゃねーか。」

マーシェは呆れるが、ファラは悪びれない。

「神は自らを助くる者を助く。俺たちも、出来ない事は出来ない。」

ファラは戦神アレスの神官だから、その点は割と厳しい。

食後、予約した宿に向かいながら、マーシェは魔法少女に尋ねた。

「行けるか?」

リズベルに聞くと、うーんと首を傾げながら、さっきの魔法の巻紙をファラに渡した。

「じゃあやってみるから、それ私の声の届かない所にやってくれる?声届くと、燃えちゃうから。」


「やっぱり連れて行くのか。」

リズベルとヒロキが話をしている間、嫌そうにマーシェはヒロキを睨んだ。

話し終えたリズベルが、連れてってほしいらしい、と伝えた。

「どうせ十日ぐらいの旅でしょ。」

「何とかなるって。」

ファラが、マーシェの肩をポンポン叩いてマーシェはがっくりうなだれた。

「どうせそうなるんだから、最初からそんなに力一杯反対しなきゃいいのに。」

サラがあきれたように言った。

「はいはい。わかったわかった。とにかく俺は責任持たないからな。ファラが何とかしろよ。」

神官戦士は嘯いた。

「言ったろ?出来る事はする。出来ない事は出来ない。」


 宿に着いてヒロキに着替えさせ、着ていた服を「ドワーフの王子様用に作られた服だ」と大嘘をついて、値をつり上げて売ると、ファラが口笛吹くほどの値段がついた。

「さすがだねぇ。」

「やめろ。」

 嘘は気が咎めるが、異世界の服だと言って買ってもらえるか分からない。物は確かに良いんだから、なるべく高く売れたほうが良いに決まっている。

 そこから服と宿代を引いて、ヒロキに返した。

「お釣り、お前が持っててもいいんじゃないか?」

「いつ異世界に帰るかわからないから、渡しておく。」

「律儀だねぇ。」


 ファラがヒロキを連れて、買い物に出て行くと、マーシェはグッタリした。ベッドに寝転がる。

「あーもう、疲れた。仕事が余分に増えた。」

「そーねぇ。後はやっとくから、少し休んだら?」

「夕食まで寝てていいよ。」

年少組二人に言われて、マーシェは「じゃあよろしく。」と目を閉じた。その寝息が聞こえ始めると、サラを含めた三人は、部屋を出て外からドアに魔法で鍵をかけた。

「次の街まで山越えだから、しっかり用意しないとね。」

「あの服、あんなに高く売れたんなら、もう一枚ぐらい金貨取っといてもよかったのに。」

「兄さん、そういうとこ変に律儀なんだよ。」


 この旅はアティスの長兄から旅費が出ているので、さほど心配はないものの、往復で何があるかわからないし、寄り道するなと念を押されているので、無駄遣いは出来ない。

 面白くないので、ここはあの異世界人に期待する所だ。きっと何かやらかしてくれるに違いない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ