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異世界からの帰り方 答え合わせ編  作者: たかなしことり
12/12

当日の夕方 それぞれの世界


 もう一度飛竜に乗って、今度は荒れ地に降りた。

 「さー行くよ!」

 ヒロキが括られて、またドンと突き飛ばす。

「ここ、当たりだと思う?」

 ヒロキが消えると、アティスが聞いた。

「最初に会った所に近いよね。」

「近いったって、あれ出てきたの、森の中だったし。入り口どう移動するかわからないんだよね。」

 サラが首を傾げる。

「戻れるといいよねぇ。」

「ていうか、早く元の世界に戻って欲しい。」

 早くも飽きてきたサラは、握ったロープで八の字を作りながら、文句とも願いともつかない事をアティスに言う。


「アティスはこの後、家に帰るの?」

「さぁ。兄さんが帰るっていったら帰るけど。勉強途中だし。」

「学校行ってるんだ?」

「家庭教師。学校は、単位試験の時だけ行って、受けてる。」

 へぇーとサラは感心する。

「それって役に立つ?」

 言われて珍しく、アティスは苦笑いした。

「さぁ。どうなんだろう。」

「勉強、嫌いなんだ?」

「役に立たなくても、勉強は好きだよ。ただ学校の試験は、意味が分かんない。」


「そろそろ引っ張るぞ。」

 マーシェに言われて、皆ロープを握る手に力を入れた。

「百!せーの!」

 ぐいっと引き寄せてロープの先を見ると、今度もヒロキが括ってある。

「また違った?」

「ち、違った・・」

「うーん、なかなか当たらないなあ。」

「そんなに世界の穴ってあるんだ。」

 ファラの突っ込みにリオンはうん、と頷く。

「今日中に行けるとこって、あと二つかな。全部で十五ぐらいあるんだけど。」

「穴だらけだな。ヒロキみたいにどこかから来た奴って、もっといるんじゃねぇ?」

「あー、いるいる。空につながってて、落ちて死んだのもいたよ。それはさすがにかわいそーだった。」 

 リオンはさらっと言うが、ヒロキは青ざめる。

「助けてもらえる異世界人って稀なの。君、幸運なんだよ。自分で思うよりもね。」

「肝に命じます。」

 そりゃそうだ。あの時、もしサラが朝寝坊していなければ、あの街道は誰も通っていないはずだった。

ヒロキはさっくりオオカミに食われていただろう、とマーシェは思う。

 こいつの運がいいのか。あるいは俺の運が悪いのか。


 そしてまた次の穴へ。

 マーシェは皆を見渡す。そろそろリズベルが危なそうだ。

 つい連れてきてしまったが、長距離の移動は、疲労も大きい。日頃偉そうにしているので忘れがちになるが、客観的に見て華奢な女の子なのだ。

 だからって置いてきたら、怒るだろうけども。


 飛竜は今度も結構な時間飛んで、もう日が傾くころに、見渡す限り草原の中に降りた。

「大分来たなぁ。もう少しで猫人の領域だ。」

「寒い・・」

 飛竜から下ろされたヒロキがぶるぶる震えている。何時間もまともに風を食らっているから、仕方ない。

「はいはい、いいから。こっちだよ。早くしないと、穴が移動する。」

リオンに引っ張られて、くくられて、皆がロープを持ったのを確認して、これで四度目、穴らしき方へ突き飛ばされる。


「あと、今日中に行けるとこってどこ?」

「ここから飛竜で北に半刻ちょっとかな。」

「そこで外れだったら、今日はもう終わりにして、どこかに泊まる?」

 リズベルとアティスが、リオンと話している。

「今、三十三ぐらい?」

「四十二!四十三!」

 マーシェが怒鳴る。リオンはうんうんとうなずく。

「助かるー。四十四、四十五」


「しかし何のために、古代人は世界に穴を開けたんだろうな。」

「向こうに行きたかったんじゃない? 滅ぶのが見えていたからさ。」

「行けたのかな?」

「かなりの人数が行ったよ。何千人とか。何万人とか。パヴィアは魔法王国の中心だったから、そこに住んでいた人はほとんど行った。ええと、四十九?」

「五十九!」

マーシェが怒鳴る。


 「だから青大陸はむしろ他種族の勢力が強い。」

「そーなんだ。」

「えー。じゃあさ、ヒロキも魔法王国の人間の末裔の可能性があるって事だ。」

「まあね。可能性はあるよね。」

いらいらしたマーシェが話に割って入る。

「あのさー。ちゃんと数えろよ。」

「えー。マーシェが数えてくれてるんじゃないの?」

「知らねえよ!」

「じゃあ六十、六十一。」

「本当に適当だな。」


 草原には鳥の鳴き声。飛竜を警戒して近づいては来ない。

 マーシェはだだっ広い草原を見て、この先どうしようかと考える。

 とりあえず兄の待つ町へ戻る。

 このままいなくなったら、きっとめちゃめちゃ怒らせるだろうから。

 でもその後は? 家に帰る?

 ヒロキの優柔不断にイライラしたが、自分だって流されていると思う。

 思わず肩を落とすと、その肩をバン、とファラが叩いた。

「パヴィアのアレス神殿にいるからさ、寂しくなったらいつでも会いに来いよ。」

「なんで寂しくなるんだよ。」

 マーシェは手の中のロープを握りしめた。

「それで今、数はいくつなんだ。」


 アティスとくだらない話をしていたリオンは、小首を傾げる。

「あ、七十・・六?七十七、」

「そんなんで、向こうで食われてたらどうするんだ。」

「それならそれで、仕方ないよ。」

「まったく。そろそろ引っ張るぞ。絶対百超えてる。」

 せーの、で引っ張るとあまりの軽さに、皆わっと後ろにひっくり返った。


 「やだもー。」

 「重いよ、ファラ。」

 よいしょと起き上がって、先を見る。

「あ、切れてる!」

「食われた?」

「ヒロキかわいそー!」

「バカ。見ろ。なんか括ってある。」

 素材不明の細長い青い袋。

「あー。ほらなんか書くヤツが入ってた袋だ。」

「という事は、無事元の世界に戻れたって事か。」

「だな!」

 ファラはウンウン頷いた。

 開けてみると、前に見た変なペンが何本か入っている。

「よし、俺はこれで新しいペンを作るぞ!」

 ファラの宣言にマーシェは笑い出す。

 久しぶりに声を立てて笑った。

「儲かったら知らせてくれ。さあ、とりあえずファーツェに戻ろう。腹減った。」


 とにかく一つ懸案事項は片付いた。

 予定よりちょっと遅くなったが、こうなれば二日遅れようが、三日遅れようが、大した違いはない。

 明日は一日、ファーツェでのんびり観光でもしよう。

 街でうまそうな包み焼きの匂いがしていた。それでも食べながら。


【完】

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