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異世界からの帰り方 答え合わせ編  作者: たかなしことり
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当日の昼 世界の穴

 

 風防鏡をかけて、アティスとともに飛竜の背中に乗る。

「ヒロキは、俺の後ろに乗せた方がいいんじゃないか?多分乗ったことないだろうし。」

 しかしリオンは大丈夫大丈夫、と笑った。

「僕が後ろで支えているから、平気だよ。ほら、前に乗りたがってるし。」

 やっぱり面白がっているだけだな、と思う。

 リオンはいろんなタイプの竜を使役しているが、どの竜も速いのは速いが乗り物に向いているとは思えない。

 案の定、飛び始めてすぐ、ヒロキは涙目になっていた。

 だろうよ。


 やがてどこかの山の上に到着した。空気が薄くて、草しか生えていない。

「ここだよ。早く早く。ヒロキをくくって。」

 龍神は楽しくて仕方ないらしい。マーシェはややあきれる。

 しかしここは従うしかない。

「ヒロキ、降りろ。」

「ふぇーい。」

 飛竜のうろこに引っかかって宙づりになりかかるヒロキを、なんとか下ろす。

 ロープで脇の下をがっちり括った。

 リオンがニコニコしながらロープの締まり具合を見る。

「百数えたらこっちから引っ張るからさ、元の世界だったらそれまでに急いで抜けるかロープ切ってね。」

「元の世界と違ってたら?」

「とにかく引っ張られるまで生き延びて。」

 可哀そうに。

 全員でロープを握った後、右とか左とか微調整して、リオンが突き飛ばした。


「おおー」

 ロープの先が突然消失したので、ファラが声を上げた。

「これが世界の穴かぁ。」

 ロープは宙空で切れて留まっているように見える。

「一、二、三、四、」

 リオンが数え始める。

 アティスが笑う。

「これで引っ張ったら、胴から下だけになってたりして。」

「気持ち悪い想像しないでよ。」

 リズベルが肩を竦める。

「そうなってるかもしれないし、覚悟は必要だよ。」

 サラは平然。


「四十二、四十三、」

「この後、カースティンに戻ったら、そのまま兄貴と一緒に家に戻るのか?」

 ファラに聞かれて、マーシェは言葉に詰まる。聞き返す。

「お前はどうするんだ?」

「あー、俺はアレス神殿に戻るかな。サラもよかったら一緒に来いよ。」

「うん。」


「六十九、七十、」

「意外に時間あるな。」

 マーシェは呟く。

「楽しかったよな!」

 ファラはうんうんと頷いた。

「楽しくはない。」

 ぶすっとするマーシェに、ファラはハハハと笑った。

「俺は楽しかったよ。」


「九十三、九十四」

 マーシェは手の中のロープに力を入れる。

「とりあえず、こいつに集中しろよ。」

「九十九、百!」

 リオンの声で、ロープをよいしょと引っ張る。その先にヒロキが姿を現して、括られたままごろごろと転がった。呻き声が聞こえた。

「おー、生きてる。」

「よかった。変な死体見ずに済んで。」

 ファラとアティスが、頷きあう。

 戻ってきたという事は、元の世界と違っていたのだろう。別の世界の穴を探さないと。


「やあ、やっぱり違ってたね。じゃあ次行こう!」

 また飛竜に乗って、今度も結構飛んだ。飛竜は行き先が分かっているらしく、勝手に飛んでいく。

 今度はどこかの海の浜辺に降りた。

 そしてまた、えいやと突き飛ばす。


「この後ちょっと休憩する?」

 リズベルが提案した。

「だってお昼を食べてないし。お腹空いたわ。」

「だな!ここから一番近い町ってどこだ?そこで昼にしようぜ。」

「ここから歩いて行った方がいいよ。竜を降ろせない。」

 リオンが小首を傾げる。マーシェが肩を竦める。


「あ、百数えるの、忘れてた。どこまで数えたっけ?」

「さあ。七十六までは聞いた。」

「もうそろそろだと思う?」

「いいんじゃない?早過ぎたら、もう一回放り込んじゃえ。」

 アティスの呑気な声に、それじゃあ、とロープを引っ張った。

 うぎゃっという声と共に、ヒロキが姿を現す。ごろごろと砂浜を転がった。

「生きてるー?元の世界だった?」

 リオンに聞かれて、ヒロキは言葉もない。

「いや、何か、俺、ちょっと心折れそう。」

 息も絶え絶えな様子に、リオンは眉を寄せた。

「それってもうやめたいって事?」

「昼飯食って、体力つけたいって事だろ。」

 マーシェが割って入る。

「とにかく腹減った。一旦飯にしよう。」


 だからうっかりした事を言ったら駄目だというのに。

 近くの町まで移動する時に、少しリオンから離れた場所でもう一度言い聞かせる。

 リオンは、軽口や愚痴が嫌いなのだ。嫌いというか、面白がっている気持ちを削がれるのだろうと思う。今ここでリオンに「やーめた!」と言われたら、おそらく一番困るのはヒロキだろう。

 半べそをかいているヒロキの顔も、見られたらまずいので、リオンから隠すように歩く。

 余程酷い目にあったらしい。

 そこは同情する。


 まもなくメルクの町に着いた。町の中の一膳飯屋に入る。

 中はどこかの商人の一団が、あらかたを占めていた。隅の方にテーブルを見つけて座る。適当に頼んでいくらか食べると、ヒロキも気を取り直したらしい。

「男ばっかりだなぁ。」

 と、店内を見てポツリと言った。確かにそれなりに広い店内は、店員とリズベル以外は男ばかりだ。


 そんなに女の子に会いたいかな。

 マーシェは感心する。

 若い女の子は特に大事にされている。大事にされているという事は、数が少ないという事だ。あまり他の町へ移動することはないが、彼女たちは選びたい放題だ。

 十代になったばかりの頃に、もう相手は大体決まっている。顔のいい男、性格のいい男、金持ちから順に。そしてそのまま結婚。がっちり囲い込まれる。

 残念ながら外からやってきた通りすがりの男に、勝ち目はほぼない。


 マーシェも、女の子に興味がないことはないが、いろいろひどい目にあったので、今のところ間に合っている。

 総じてこの青大陸では、若い女はわがままだ。

 結婚後も嫌なことがあったら、実家が同じ町内だからすぐ帰れるし、あの家はひどいらしい、と噂がたったら再婚も難しいので、婚家だって嫁を大事にする。

 ただ、子供が生めなかった場合は逆に、恐ろしく肩身が狭いらしいので、そこは本当にお互い様と言える。

 女だてらに町の警備隊に入りたい、などと言い出す者もいないわけではないが、そういう場合、まず近くの魔法学校に進学して一定の魔法を覚えつつ、剣や弓の腕を磨かなくてはならないので、中途半端な気持ちではなれない。


 「龍神様は、世界の治安を図らないんですか?」

ヒロキがそんなことを言い出すので、マーシェは慌てた。

だから、リオンが機嫌を損ねそうなことを言うのは、本当にやめてほしい。

足を蹴ったら、ヒロキはさすがに黙った。


 リオンはフォークに肉を差したまま、ちらりとマーシェを見た。

やばい。

「世界の治安かぁ。そういえば十年ぐらい前に、やっぱりどこかからやってきた男がいて、『どうしてもこの世界を人の手に取り戻したい!みんなが幸せに暮らせる世界にしたい!』て熱弁するもんだから、まあ、そこまで言うならと思って、僕の剣を渡したら、その辺の亜人を殺しまくってさー。あちこちから恨まれて大変だった。手に負えないから、ケニフに頼んで殺してもらった。」

やっぱりな。


自分でも殺せるくせに、なんで兄に頼むんだ、と思うと腹が立つ。

「そんなことにうちの兄を使わないでもらいたい。」

マーシェは小さい声で言ったが、聞こえたらしい。

「あーごめんごめん。」

リオンはあっけらかんとしている。

たぶん何かの交換条件だったんだろう。いくら剣の達人と言われる兄でもタダでは動かない。

 サラが何か言いたそうなヒロキの次の質問を遮った。

「次はどのあたり?」


 席を立つ前に、ヒロキは肖像画を取りたいと言い出した。

 皆驚いて、顔を見合わせる。

 絵師に頼んで、何時間もかかる。

 それをいつか見た、あの黒い板を出して、カシャと音がしたらもう終わりだという。

 見せてもらったら凄かった。絵で描いたようではない、見たままを切り取ったような姿が、その板の中にあった。

 ヒロキのいた世界は、やはりここよりずっと文化がすすんでいる。

 その代償として、体力が落ちているとしたら、それもまた仕方のないことなのかもしれない。



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