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繋がる因縁 10/絶望

 ヴィートとニコラウスは、しばらく山中を歩き続けると、馬を繋いで置いた場所へようやくたどり着いた。


「やはり、ここも襲われていたか……」

「うっ…… 酷い……」


 馬番として残してきた衛士たち五名は、見るも無残な姿で地面に転がっていた。

 首が半分もげている者、全身の骨が砕かれて有り得ない方向に体が曲がっている者などは、まだ人間としての原型を保っているだけでも良いかもしれない。

 後の三名は、どれだ誰の部位かわからないほど無残に肉塊にとされていたのだ。

 ニコラウスが哀れな姿となった衛士たちを調べ、弔いの祈りを捧げる。

 直視できなかったヴィートも後に続いて祈った。

 殺されていた衛士たちとは違い、繋がれていた馬は怯えて興奮していたが無事であった。

 それでも何頭かは逃げ出したのか、出発した時よりその数は大いに減っていた。


「……馬には危害が加えられなかったのは幸いであったな」

「そうですね。では私が前に乗るので後ろで休んでいてください」

「すまないが、そうさせてもらうよ」

「行き先はどうしますか?」

「ああ、君たちの村へ帰ろう。アンもいるし。それに……」


 ヴィートは二頭の馬を繋がれている木から解放する。一頭は馬具を外してから解放して、未だ興奮しているもう一頭の馬を落ち着かせるとニコラウスを後ろに乗せた。

 馬具をうまく使い自分とニコラウスを縛って体を固定させる。

 ニコラウスの最後の言葉は、準備に勤しむヴィートには聞こえなかったようで準備を終えると馬を回す。


「任せてください。じゃぁ飛ばして行きますよ」


 力強く手綱を引いて馬を操り、鬱蒼(うっそう)と緑生い茂る山中を切り裂くように村へ向けて全速で駆けさせた。


    ◇


「はあ、はあ、はあ―― ニーロ、付いてきてるか⁈」

「うんー! いるよ〜。はあ、はあ―― オリヴェルー。切られた傷は大丈夫?」

「ああ、そんなに深く切られてなかったからな。血も止まったー」

「良かったよ〜。じゃぁ、先を急ごう〜」

「おう! 早くアンさんに俺たちが見たことを伝えなきゃ……」

「……ヴィトは大丈夫かな〜?」

「ヴィト……」


 オリヴェルとニーロも、アルサスの村へ向けて必死に馬上にて駆けていた。

 無我夢中に逃げ出した先、三隊が合流し最後の休憩を取った場所に戻っていた。

 無残に殺されている衛士たちに腰を抜かしそうになったが、繋いであった馬を見つけると二人は馬上に飛び乗り逃走を再開した。

 しばらく走ると、その馬上でオリヴェルはヴィートとのやり取りを思い出していた。



「オリヴェル、ニーロ。二人とも。ここから逃げるぞ」

「でもどうやって〜?」

「大丈夫! 俺に考えがある」


 そう言うと、ヴィートは自分の背負っていたバックを急いで下ろし、中から油紙に包まれた大きめの荷物を引き出す。包装されている油紙を手早く破ると、数個の爆薬が現れた。


「お前、それ爆薬じゃねーか!」

「ああ、朝イチで倉庫から持ってきたんだ」

「ええ、マジ……?」


 爆薬を見てギョッと驚く二人に対して、ヴィートはサラリと言ってのける。


「今、魔物たちはニコラウスさんの方に気を取られて、俺たちのことは眼中に入っていない。いつでも殺せると思ってるんだ。相手の気が逸れている時に、思いもしないところから攻撃すれば…… 倒せないかもしれないけど、逃げることはできると思う」


 ヴィートに爆薬を手渡され、動けずにいるオリヴェルとニーロをヴィートは叱咤する。


「大丈夫! きっと上手くいく‼︎」

「わ、分かった!」

「うんー、やるよ!」


 ヴィートの力強い言葉にオリヴェルとニーロは決意を固め、いざ動き出そうとした時にヴィートが信じられないことを言った。

 お陰で二人はまた混乱することとなる。


「俺はいま魔物が向かっている先…… ハンスさんの所に爆薬を放り込む。その爆発に紛れてニコラウスさんのところまで一気に走るから、オリヴェルとニーロはもう一度、ハンスさんのところに爆薬を投げた後で逃げてくれ。その後、追手が通れなくするようにこの道を崩すんだ」


 思いもしないヴィートの作戦に、驚愕ではすまない二人は動揺する。


「ちょ、ちょっと待てよヴィト! 一緒に逃げるんじゃねーのかよ?」

「爆薬を投げて、その隙に逃げるっていうのは分かるけど〜、何でヴィトがニコラウスさんのところへ……」

「そうだ! 何でそんな危険なことを! そんなの駄――」


 動揺して興奮する二人にヴィートはそれぞれの肩に手をやり、落ち着かせるよう冷静に語りかける。


「落ち着いて聞いてくれ。このままだとニコラウスさんは殺される。そして俺たちだけ逃げても、村を襲撃する奴らを止めることはできない。奴らから村を守るためにはニコラウスさんの力が必要なんだ。だから助けなきゃいけないんだ。……それ以前に助けられる人がいるのに見過ごすことはできないよ」

「だからって――」

「頼む! 時間がないんだ。俺もニコラウスさんを連れて村に急いで戻るから、二人は村に残っているアンさんに一刻でも早く知らせてくれ」


 ヴィートは二人の肩に置いた手を力強く掴むと、オリヴェル、ニーロと視線をかわし大きく頷く。

 そして相手の答えを待つ前に、爆薬を数個手に取ると、腰につけている熊除けの火で着火し、勢いよく駆け出したのだ。


「そんな! ヴィート、お前……」

「ダメだよー、ヴィート。俺たちと――」

「みんなが助かるにはこれしか無いんだ!」



 ヴィートとの会話を思い出した馬上のオリヴェルは大きく首を振ると、ニーロに力強く声を投げる。


「ヴィトの奴なら大丈夫だ! あいつはいつも俺たちが考え付かないことをやってのける男だ! 今回だってニコラウスさんを連れて帰ってくるさ。ボロボロになりながらでも笑顔でな! お前もそう思うだろ、ニーロ?」

「……うん、うん! そうだね〜。いつもーヴィトは無茶するけど、必ず助けてくれた〜」

「だろー! ヴィトならきっとやってくれるさ!」

「じゃぁ〜、俺たちも〜、ヴィトの期待に応えなきゃね〜」


 一抹の不安を振り払い、二人はさらに騎乗している馬へ鞭を入れる。

 やがて村の入り口へと差し掛かる場所まで到達すると、やっと緊張感も和らぎ少しだけ余裕も取り戻してきた。


「オリヴェル〜、村の標識が見えたよ〜」

「おお! ここまで来れば後少しだー。最後まで気張れよ!」

「うん〜!」


 気張れといったオリヴェルであるが、何かを思い出したのか笑い出したのをニーロが不思議がって尋ねた。


「どーしたのー?」

「ん? いやヴィトの奴がさ、何であんなに荷物持ってるのか不思議だったんだけどな。まさか爆薬を持ってきてるなんて思いもしなかったからさ」

「確かに〜。俺はてっきり食べ物を持ってきたのかと思ってたよ〜」

「ニーロ…… お前じゃないんだから……」


 オリヴェルはニーロらしい想像にガックリと項垂れる。

 そうこういっているうちに村の入り口である南の門が視界に入った。

 門といってもロゴスにあるような大層な扉がある訳ではなく、簡素な物見櫓(ものみやぐら)で、さして大きくはない両開きの木製扉が作られているだけであるが。

 門は余程のことでない限り閉められることはない。いままさに、その開いている門をくぐりオリヴェルとニーロは村へと生還したのである。


「つ、着いた…… 着いたぞ、ニーロ‼︎」

「う、うん〜、生きて帰ってこれたね〜 でも疲れた……」

「そんなこと言ってる場合じゃないぞ。後少しだ、とりあえず広場まで行くぞ」

「うん〜、分かった〜」


 二人は馬を回頭させ、走り出そうとするが、そこで先ほどから感じていた違和感を口に出す。


「ねえ、誰もいないね〜」

「ああ…… こりゃぁ一体どうなってんだ?」


「おや? お早いお着きでした。まあ私供も先ほど着いたのですがね」


 オリヴェルとニーロの背後からいきなり声が掛かる。

 その声を思い出し、驚き後ろを振り返った二人は心臓が止まるほど驚いた。

 アンダーサージと名乗った魔物が、細い目の奥を輝かせて笑顔で立っていたのだ。


「うわああああああああああ――」


 大絶叫に馬も驚き暴れると、二人は落馬してしまう。


「……いてぇ、ちくしょう」

「なっ、なんでここに……」


 驚愕する二人にアンダーサージは、さも愉快そうに身振りを添えて答える。


「追えないよう道を崩したのに! と言うことですよね。ええ、貴方たちのお陰で随分と回り道をしましたよ」

「じゃぁ何で俺たちより早く……」

「騎士の骸を使ってアンデッドを作ったのですがね。これが素晴らしい能力でして。やはり死んでも王宮に仕えるだけの騎士なのですね。普通の人間の体では耐えられないスピードでもって移動ができました。……まあ、その反動で色々と捥げちゃったりもしましたが」

「そんな……」


 オリヴェルは膝から崩れ落ち、ニーロはぺたりと尻をついて座り込んでしまった。


「必死に駆けてきたのに無駄になってしまいましたね。ああ、可哀想に」


 言葉とは裏腹に、その顔は愉悦に満ちた笑顔であった。


「さあ、更なる絶望にその顔を歪めてください」


 アンダーサージが両手を広げて声高に叫ぶと、宿屋の裏から鈍い爆発音が聞こえ、すぐに炎の柱が立ち昇った。

 そして、今まで全く聞こえていなかった村人たちの悲痛な叫び声がそこかしこから響いてくる。

 男も女も老人も子供も、喉が裂けるほど叫んでいるようであった。

 呆然となる二人の耳にはその叫び声が、まさに阿鼻叫喚の様相を想像させる。


 今までオリヴェルとニーロには聞こえていなかったのは、アンダーサージが二人の周りにサイレントの魔法をかけていたからであった。


「うああああー」

「あああー、なんで――」


 頭を抱え、炎が立ち昇る方向に大声で叫ぶオリヴェルとニーロ。

 その眼前に回り込み、その顔をまじまじと凝視め、アンダーサージは満足したのか腹に手を当て大きくのけぞった。


「あはははははははは―― 良いですね! 最高の顔じゃないですか――‼︎」

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