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繋がる因縁 3/捜索

 ヴィートたち三人の若者に先導された騎士団は、整備された街道を約一時間進み、山中へ分け入った。

 そこは、背の高い木が茂り、日の光が届かない鬱蒼とした森の中。

 強烈な草木の香りにむせ返るようだった。

 

 険しい山道を一行は黙々と進む。獣道のように細い山道はとても横に並んでは通れない。

 一列に並んだ隊列は、三班に別れており、先頭を副団長とオリヴェルの隊が進む。

 その少し後に、ニコラウスとヴィートの隊。そしてニーロの隊が続く。


 慎重に、できるだけ音を立てないように進むと、しばらくして木々が少し開けた場所に出る。

 最初に目指した地点へ、予定通りの時間で到着した。


「よし、ここを拠点として見張りを置く。各自、馬に水を飲ませて休ませろ。この後は三隊に分かれて歩いて捜索をする。君たちロゴスの衛兵諸君は、こちらで待機してくれ」


 ハンスは、昨日オリヴェルから聞いた話を参考にし、拠点としてこの場所へ設営を指示した。

 ここから更に奥へ進んだ先、何箇所か目星をつけた地点がある。

 ニコラウスたちはそのどこかに野盗の拠点があると予測をしていた。

 

 今回の目的は捜索がメインであり、三方向に隊を分けて少人数にて動く。

 発見した場合は注意深く監視を行い、その活動内容を調べる。

 制圧するのは十分な情報を得た後、魔法士であるアン=クリスティン・ティレスタムと合流して取り逃しのないように一気に行う予定であった。


「ヴィート、ここから例の滝まではどれくらいだい?」

「はい。ここからですと歩いて二時間かからないで着くと思います」

「ふむ。見張りがいるとしたらギリギリの地点だな。ハンス、分かっていると思うが――」

「はい。細心の注意を払って向かいます」


 今回の捜索地点で一番怪しいとされている地点。

 それが昨日オリヴェルの話した滝を回り込んだ道の先にある場所。

 大きな滝に隠れた場所は、絶好の隠れ家となるだろう。

 最短距離でハンスとオリヴェルの隊が捜索に向かい、ニーロが先導する隊は少し回り込んで行く。

 一方、ニコラウスたちは少し遠回りをして、他の場所も確認しながら大滝まで目指すこととなる。


「オリヴェル。気をつけてな」

「ああ! 任しておけって。絶対見つけてニコラウス様たちのお力になろうぜ!」

「うん〜。いよいよ本番だね〜。俺が一番に見つけるよ〜」


 ヴィートはオリヴェルとニーロに声をかけると、彼らは少し緊張した表情を浮かべながらも、精一杯の強がりを見せる。

 ヴィート自身も緊張していた。

 当然だろう。

 彼らは、戦闘訓練を受けたことのない普通の若者たちだ。

 これから、人を殺すことを躊躇(いと)わない野盗の集団と遭遇することを考えれば、緊張しない方が無理だろう。

 特に、平和な村で育った三人にとって、武器を持った人間を前にするだけでも恐怖を感じる。

 今回は、その武器が自分たちに向けて使われるかもしれないのだ。

 平静を装っていても、心の奥底には恐怖が沸き上がってくる。結果、喉はカラカラだった。

 ヴィートが携帯していた水筒から、ガブガブと水を飲んでいると、ニコラウスが近づいてきた。


「ヴィート。あまり飲みすぎると後が辛くなるぞ」

「――⁈ すみません!」


 ニコラウスは三人のところまでやって来ると、彼らと同じように地面に腰を下ろした。


「すまないな。怖い思いをさせてしまう」


 三人に向かって、ニコラウスは軽く頭を下げ、透き通るような青い瞳を弓なりにし、白い歯を見せた。

 彼は先ほどから三人を見ていたが、段々と彼らが緊張していくのが手に取るように分かった。

 その原因は恐怖である事も。

 彼らの緊張を和らげるために、ニコラウスは三人に敢えて親しげに話しかけたのだ。


 ヴィートたちにとって、ニコラウスは雲の上の存在である。

 そんな男に頭を下げられてしまっては、先ほどまでの恐怖や不安よりも俄然やる気と勇気が溢れ出した。


「そんな⁈ 頭なんか下げないでください!」

「俺たち〜、頑張りますー!」

「俺たちのことは気にしないでください。しっかりと覚悟を決めています」


 ニコラウスは瞳を輝かせながら意気込む三人の顔を一人一人じっくりと見つめた後、大きく頷き、胡座をかいている自分の膝を叩いた。


「よし! その意気だ! 君たちの安全は私たちが保証する。安心して道案内をしてくれ。もし発見したら、すぐに私たちの後ろに隠れるんだぞ」


 ニコラウスは、男らしい笑顔を見せながら立ち上がり、踵を返すとハンスのところまで戻って行った。


「俺、騎士様たちのことを誤解してたよ…… 身分が違うから、あんなに気さくに話してくれるなんて夢にも思わなかったよ」

「ああ、俺もそうだ。失礼かもしれないけど、俺たちと変わらないんだな」

「うん〜。俺もそう思う〜。なんか優しいよね〜」


 三人はニコラウスの心遣いに感激し、先ほどまで感じていた緊張も吹き飛んだようであった。

 気合を入れ直した三人に、ニコラウスと話を終えたハンスが声をかける。


「さあ、出発するぞ! オリヴェル、ニーロ、ヴィート。よろしく頼む」



 馬と見張りの衛兵を残し、騎士六名ずつの小隊に別れ、それぞれヴィート、オリヴェル、ニーロが先導しながら、道なき山中に分け入った。

 野盗に気づかれぬよう、人が歩くように整備されていない正真正銘の獣道と言っていい小道を進んでいく。

 時に腰の高さまで生えている草を掻き分け、時に頭上の邪魔な枝や蔓を切り分けながら進軍する。

 周りを警戒しながら、慎重に、なるべく音を立てずに進む。

 深い森の空気が先ほどまで感じていた温度より更に冷んやりとし、木々の濃い香りが充満していた。


「では、この辺りから別れて進もう。それぞれ発見した場合はこの魔道具で知らせること。くれぐれも油断するなよ」


 拠点とした場所から十分ほど進み、ハンスが三隊に分かれることを命令する。


「オリヴェル、ニーロ。気をつけてな」

「ああ、お前もな」

「後でね〜。ヴィート、オリヴェルも気をつけて〜」


 別れを告げ、オリヴェルがハンス隊を引き連れて目的の滝まで真っ直ぐに突き進むルートを取る。

 ニーロは左側から山の斜面に沿って進むルートを先導する。

 ヴィートはニコラウスたちと右側のルートを取り、沢沿いに移動する崖下からの捜索を行う予定だ。


 他の二隊と別れ、しばらく山道を歩いていると、不意にニコラウスがヴィートのあるものに興味を示す。

 

「ヴィート。その腰にぶら下げている物は何だ? 先ほどまで持ってなかったが……」

「これですか?」


 ニコラウスが先頭を歩くヴィートに問いかけると、腰にぶら下げている物を手に取り掲げて見せる。

 長さ二十センチほどの革紐に鉄製の丸い籠が結ばれている。

 ちょうど掌に収まるほどの大きさで、その隙間から微かに白い煙が立ち昇っていた。


「これは熊除けです。熊が嫌う草を乾燥させたものを燃やして匂いを出しています。人間や馬にはあまり感じないんですけどね」

「なるほど、確かにあまり匂いは感じないな」

「俺たち村の者は、山へ入る時にお守りとして持って入るんですよ。持ってないと熊とばったり、なんてこともありますからね。それに今回は音を出せませんから」

「なるほど、配慮に感謝する。それにしても熊か…… 確かにバッタリとは会いたくない相手だな」

「ははは、そうですね。あっ、この辺りは水が出て滑りやすいので気をつけてください」

「ああ、了解した」


 ヴィートが先導する小さな沢沿いのルートは、斜面もキツく、大きな石がゴロゴロと転がっている。

 苔も生え、濡れた落ち葉などで滑りやすく大変歩きにくいが、ヴィートは苦もなさげにひょいひょいと進んでいく。

 鎧を着て武器を帯刀しているとはいえ、鍛え抜かれ身体能力も桁違いな騎士たちですら四苦八苦しているというのにだ。


「ヴィート、君は凄いな。まるで猫のようだよ。よく山に入るのかい?」


 思わずニコラウスがヴィートの身軽さに感嘆の声を投げかける。

 言葉に反応して後ろを振り返りながらも腰の高さにある岩へ手をかけ、ふわりと超えていく。

 後に続く騎士たちも「おー」と感心したように声を漏らすと、少し照れ臭そうにはにかんだ。


「そうですね、子供の頃は近くの山で遊んでましたが、今ではそんなには山に入ることはありません」

「そうか。しかし身軽で良い動きをしているからね。感心しているんだよ」

「そんな。ありがとうございます。仕事で大工をやっていまして…… こういう不安定な足場は得意なんです」

「なるほど! 大工か。その身軽さも合点がいったな。それにしても大工か…… 家や橋を作ったりするんだろ? 皆の役に立つ素晴らしい仕事だな」

「ありがとうございます! 親父、グスタフに親方として仕事を教えてもらっています。オリヴェルやニーロの親父、アルベルトとナータンも親父と一緒に大工をしていて…… 俺たちの師匠って感じです。でも親父たちは厳しくて、いつも怒鳴られてばっかりです。でも最近やっと俺たち若い衆だけで――」


 嬉々として話すヴィートに、ニコラウスや他の聖騎士たちも心が和み、そして心を引き締めた。

 ヴィートのような純粋な若者たちがこの国を、そして未来の世界を作っていく。彼らが安心して暮らせるよう自分たちが守るのだと。


「ヴィート、君は親父さん、グスタフさんのことを尊敬しているんだね」


 ひとしきり話を終え、話しすぎたと反省しているヴィートに、ニコラウスが問いかけると、直ぐさまに今までとは違った声色で返事が返ってきた。

 それは一人の男として、どこか決意がこもった声であった。


「はい。俺は親父を尊敬しています! 実は俺…… 親父とは血が繋がってないんです。子供の頃に本当の両親を事故で亡くして、親父に引き取られたんです。親父は本当の子供のように育ててくれました。そしてラウラも…… 俺は親父のような一流の職人になって、いつか親父を超えたいと思っています」


 真っ直ぐな目をしてニコラウスに宣言をするヴィート。

 その気概に、ニコラウスはヴィートの唯ならぬ決意を感じる。


「そうか。君の親父さんは素晴らしい人物のようだ。帰ったら是非ともお会いしたいものだ。そしてヴィート。勇気があり頭がよく優しい君なら、自慢の親父さんにも負けない立派な大人になることを私が保証するよ。励みなさい」

「はい! 頑張ります!」


 ニコラウスに自分だけでもなくグスタフも褒められたことで、ヴィートは心から嬉しさが込み上げてきていた。

 先ほどまで微かに覚えていた恐怖もなくなり足取りも軽く、ズンズンと先へ進む。

 歩きながらヴィートは今朝方のことを思い出す。

 それは誇れる親父との誓いと約束であった。

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