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日のあたる場所で 4/ミリヤムとラウラ

 雪解けの水が河川を大きく膨らませ、曇りひとつない水面がキラキラと柔らかい陽の光を反射する。

 青臭い匂いの若草が一面に生い茂り、色とりどりの花が咲き誇る。まさに赤、黄、白、桃とまさに千紫万紅の景色。

 ――春。ようやく訪れた厳しい冬の終わり。

 新しい季節を祝うように、アルサスの村は活気に満ちていた。


「さあ! 今日はミルカの家の蔵を綺麗にするよ! 皆んな頑張ってね」

「「はーい」」


 漆喰の白色に黒色の材木、自然石を積み上げた壁面が見事な一軒家。

 色彩や様式は近隣の家屋と変わることなく調和がとられているが、所々の細部に装飾が施されていた。流石は職人であるナータンが住む家屋であった。

 そのコンッティネン家宅の蔵前で、少女を含めた五名の女性と一人の男児が輪になってお互いの顔を見やる。

 各々が三角巾やエプロンを身につけて掃除の準備は万端。これから大掃除の開始である。


 アルサス村は農村であるが故に冬の間は食料事情が厳しい。

 城塞都市ロゴスの港より時折運ばれてくる生の海産物を楽しみに、各家庭で作る干し肉や魚、貯蔵した野菜、そして酢漬けなど長期保存ができる食料を細々と食しながら冬の終わりを待つ。

 やがてようやく春が訪れると、その冬を耐え抜くための保存食を入れていた蔵を掃除し、新たな季節への準備を始めるのだ。

 村の古くからの慣しとして、各家庭の蔵は隣人が協力して掃除や手入れをする。

 それは蔵掃除だけではなく、様々なことを協力し力を合わせて生活をしている。

 小さな村だからこその、厳しい自然と戦うための術であった。


「集まってくれてありがとう。少しは出したんだけど物が多くてね。ごめんねー」

 

 蔵の主人であるミルカは、底抜けに明るい笑顔でカラカラと笑いながら皆を出迎える。

 ミルカ・コンッティネン。ナータンの嫁で三人の子供の母親。

 旦那に似てというより、この一家は全員がふくよかでおっとりとしている。

 血の繋がりを強く感じるほど、子供たちの見た目は似ており、更には夫に似たのか嫁に似たのか分からないほど夫婦でそっくりとした雰囲気であった。

 そのミルカの足元には次男のオッレと長女のリータが、皆の来るのを楽しみに待っていた。


「いらっしゃーい」

「ラウラちゃん、ミリヤムちゃん、いらっしゃい」


 オッレは今年で十二歳、リータは二つ下十歳。

 二人とも淡い色の栗毛で、やはりぽっちゃりとした体型だ。

 リータはラウラの元へ駆け出して抱きつく。

 ラウラとミリヤムは二人を実の弟妹のように可愛がっており、二人も大層と懐いていた。


「おはよー。今日は頑張ろうね」


 フワフワと柔らかい手触りの髪をしたオッレの頭を優しく撫でるのは、アルベルトの娘で今年十七歳になるミリヤム・クルキネンであった。

 ラウラより一つ年上の活発な少女であるミリヤムは、オレンジのように赤い髪と白い肌の可愛らしい外見をしている。

 肌があまりにも白くてソバカスもが目立つが、本人も周りも気にすることのない、いや、そのソバカスが彼女のチャームポイントとなっていた。

 アルベルトの大きな体格に似たのか、ミリヤムは女性陣の中では身長は高い方であり、女性らしい体つきはグラマラス、幼い顔とはギャップがあった。

 ラウラとは歳が近いこともあり、ラウラが村で生活するようになるとヴィートと共に世話を手伝っていた。

 女性ならではの気遣いで、ヴィートにできないことを細々と面倒を見た。

 いつしか二人の仲は、姉妹と言うより親友と言ったところであった。


「はいはい、あんた達、戯れてないで始めるよ!」


 子供たちが(はしゃ)いでいるところを嗜めるように、音頭を取る最年長の女性。ヘレナ・クルキネン。

 アルベルトの嫁のヘレナは手をパンパンと叩いて皆への指示を出す。このハキハキとした性格で誰からの信頼も厚く村の女性陣のリーダー的存在である。

 ミリヤムと同じオレンジのような赤い髪をまとめあげているので、一見キツそうに見えるが情に厚く涙脆い心優しい女性であった。

 ヘレナも大柄な女性で、この一家もミルカたち同様に外見も性格も似ている家族であった。

 アルベルトのクルキネン家とナータンのコンッティネン家共に家族仲もよく、グスタフたちリーグ家も合わせて大家族のような間柄であった。

 


「まずはここにある瓶や樽を一回外に出して、お日様に当てるわよ。オッレとリータは空いたところからホウキをかけて行ってちょうだい」

「えー、これ全部外に出すの?」

「あんたはまた文句ばっかり言って! ラウラを見習いな。ほら、さっさと動きなさい」


 文句を言うミリヤムの横を、涼しい顔をしたラウラが大きな瓶を抱えて通り過ぎる。


「……相変わらず力持ちね。惚れるわ」

「そうかな。馬鹿なこと言ってないで運ばないとヘレナおばさんに怒られる」

「はいはい。 って重い〜〜〜〜」


 四時間ほどかかりはしたが、冬の間に溜まった埃は拭き取られ、蔵の中はだいぶ綺麗になった。

 通常の家より多くの保存食を入れた瓶や樽の数であったが、ナータンの家の蔵ということでラウラは納得していた。

 掃除も終わり綺麗に洗われた瓶やたるが蔵の中に収まると、ちょうど昼食の時間となった。


「皆んな、今日はありがとう〜」

「何言ってんのよ、明後日はウチも手伝ってもらうし、お互い様でしょ」

「でも、ウチはとにかく量が多いし……」

「確かにね―― 痛い!」


 ミリヤムが軽口を叩くと、その後頭部にヘレナの容赦のない張り手が良い音を立てた。

 そのやりとりをオッレとリータがケラケラと笑いながら転げ、ラウラも思わず吹き出したが――。


「――グゥ――――」

 

 笑い声ではなく、腹の虫が大きく響いた。

 オッレとリータは驚き目を丸くして、ヘレナは吹き出し、ミリヤムは呆れた表情でラウラを見つめた。


「……ラウラ、あんたお腹で笑わなくても」

「うっ、うるさい!」

「女子力ゼロね……」

「うう……」


 お腹を抑えてミリヤムを睨むラウラに皆が笑うと、ミルカがフォローするように提案をする。


「私もお腹減っちゃったわ〜。お昼にしましょ。大したものは無いけど、用意してあるから食べていって」

「ええ、遠慮なくいただくわ。ほら、あんたたちは手を洗ってらっしゃい」

「そんな暇わないわ! 今すぐ食べないとラウラが倒れちゃう!」

「ミリヤム!」


 ラウラの声に本気の怒りを感じたミリヤムは、駆け出して逃げるが、呆気なく捕まる。

 その膨よかなお尻を勢いよく蹴り飛ばされた。


「痛い! っううう…… 女の子がお尻を蹴るなんて」

「あら? 女子力ゼロなんでしょ」

 

 形の良い尻をさすり痛みに涙を浮かべて抗議をするミリヤムに、意地の悪い笑みをたたえて答える。


「ほら、馬鹿なことやってないでサッサと洗ってきな! オッレとリータはもう行ったよ。全く…… あの子たちの方が年上みたいだね」


 二人は顔を見合わせ、ばつが悪そうに手を洗いに行くのであった。


 

 ナータンが手掛けた大きなダイニングテーブルの上には、ミルカの用意した料理が温かな湯気と、鼻をくすぐる芳醇な香りを漂わせて大量に並べられていた。

 食べることが大好きな一家の台所を預かる者として、そして自分も美味しい物が好きなミルカは料理の研究を日々欠かさない。

 村に唯一ある宿屋の主人をもってして『プロの自分より格段に上手い』と言わせるほど。名実ともに村で一番の料理の腕前であった。

 高価な食材など無く、ありふれた材料で日常的に食べている料理であるにもかかわらず感動するほどの旨さに驚き、一口一口と満足感に浸りつつ舌鼓を打つ。


「美味しい……」

「ラウラは本当に美味しそうに食べるわね」


 ラウラの食べっぷりにミリヤムはやや呆れたように呟く。


「ミルカおばさん、この料理の作り方を教えて欲しい」


 ラウラはおかわりをしながら料理の作り方をミルカに尋ねた。


「あら? 気に入った? 簡単だから後で教えてあげるわ」

「うん、ありがとう」


 二人のやり取りをミリヤムはなんとも言えない顔で眺めながら、温かい野菜スープを飲み込んだ。

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