四日目 ---2---
狼の数は正面に六。後ろに十匹以上。
挟まれるのはまずいので一旦右へ走る。
「お」
素早さにステータスを割り振ったからだろうか。ここでも大きな変化を感じた。思えば素早さのステータスはオークと戦った時の33から一気に77まで上がっている。流石に実感できるほどの差があるか。
走りながら両手に石を生成。しっかりと握りこんでから振り返って投げる。左手に持っていた石を右手に持ち替えてもう一投。
群れで重なるようにして移動してきていたので2回投げただけなのにレベルアップ音が沢山した。
かなり早くなったとはいえ、移動速度はまだ狼たちの方が早いようで徐々に距離は縮まってきている。体力的にはまだ余裕があるのだが追いつかれるのも時間の問題な気がした。
「じゃあこうするか」
近くにあった玄関の壊れた家に入った。
ここは昨日の泊まる家を探したときに一度入って中の状態を確認したことがある家。
家の中に入ってすぐ二階に駆け上がる。
2秒もしないうちに狼たちが鳴き声を上げながら家の中に入ってきたような声がした。
それから窓を開けて屋根上へと移動。窓はきちんとしめておく。
「ふぅ。ひとまず安心か?」
屋根上で滑らないように気を付けつつゆっくりと移動。
見てみると家の周りをぐるりと囲むように狼がいる。家の中にもいるしすごい数だな。
「よっと」投石して一匹討伐。足元が踏ん張れない形なので威力不足かと思ったのだけど、全然倒せた。
「ではステータス割り振りと行きますかあ」
多分このまま屋根上から投石し続けるだけでも倒せるのだが、念には念を。
狼戦が始まる前のレベルは195だったのだが、既にレベルは279まで上がっていた。実に84レベルアップ。狼ほんと経験値美味しい。
ステータスポイントが84ポイントと、スキルポイントが143ポイント残っている。
「えーと。とりあえず前から目を付けてたあのスキルが使えそうだな」
一つのスキルを習得。スキル名は【受け身】。
転んだときや高いところから飛び降りる時に自動で発動するパッシブスキルである。
必要ポイントは3で、合計21ポイント使って【受け身Lv3】まで上げておく。
「……せっかくだしこれのスキルも上げとくか」
他に使い道も思いつかなかったので64ポイント消費して投石をレベル6にした。
スキルはとりあえずこれだけでいいか。
ステータスポイントは素早さに全振り。素早さは77から161まで倍以上に上がった。
これなら流石に狼達より早いんじゃないか?
ステータスを割り振り終えたので、家の下の方でこちらに向かって吠えている狼達に投石を開始。
が、二匹ほど倒したところで狼たちは建物の中や周りの壁に隠れてしまった。
スキルレベルが上がった投石は更に威力が上がっていた。足場が悪いのでまだ全力では投げられていないのだが。地面に立って投げられるなら壁越しに敵をぶち抜いたりもできそうだ。
「しょうがない。よっと」
索敵スキルで敵がいない位置を確認して屋根から飛び降りる。そしてすぐに離れるように走り出す。
「うっはっこれは早いな!」
素早さのステータスが上がった恩恵。踏めば踏むだけ身体が進む。足が軽い。
気が付いた狼の一匹がこちらに向かって走り出すか、置いてけぼりにする。明らかに狼より早い。
こうなってしまえば一方的なもの。距離を取って石を投げる。これの繰り返しだ。
投げる。走る。投げる。
狼はみるみる数を減らして。
「はい、お前で最後」
建物を使って隠れていた狼を、建物の壁ごと貫通させる投石で倒した。相変わらず投石強すぎる。
せっかくなら色んなスキルを手に入れて使いこなしてみたいものだが。命がかかっていると思うとやはり使い慣れているものに頼ってしまう。
「よし。じゃあエルさん迎えに行こう」
体感ではあるが狼討伐は多分1時間もかからず終わっている。
不安になってるかもしれん。急ごう。
投げては走っては結構な重労働なはずだがまだ体力に余裕がある。多分投石スキルや投擲スキルは投げる動作の疲労軽減の効果もあるんじゃないかと予想。
走って1分もかからずエルさんの待つ家まで到着。移動も早くて走るのが楽しい。
多分今の俺は日本感覚で言うとブレーキをしない下り坂の自転車より早いくらいの速度だ。全然息も切れないし、風を切って走るのがとても気持ちいい。
「ただいま! 狼討伐終わったよエルさん」
報告しながら家に入る。
「あれ? エルさん?」
しかし反応がない。聞こえなかったのかなと思ってもう一度大きめの声で呼びかけてみるのだが反応がない。
少し嫌な予感がして、駆け足でタンスに近寄る。
「開けるよ?」
タンスを開けたそこには、
「……エルさん!?」
明らかに顔色の悪いエルさんが横向きに倒れて浅く呼吸していた。