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三日目 ---3---

「村……壊滅してる……」


オークの討伐が一段落ついてから村に向かってみたのだが、あの銀髪の女の子以外の生存者が誰一人として見つからない。


最初来た時は雨も降っていたし、落ち着いてみる暇がなかったので気づけなかったが、村は扉が壊されていたり壁が壊れていたりと悲惨な状態の家ばかりだ。


異世界トリップしてチートもあると思っていたら何故か森でサバイバルが始まり、何とか生き延びてやっと村を見つけたと思ったらその村はオークに襲撃されていて壊滅している。自分、泣いていいですか。


俺の戦闘スタイルも石を投げると言う完全に原始人スタイルだし。文明的な暮らしがしたい……。


幸いなのはあの銀髪の女の子だけは無事に逃げられているだろうと言うことだ。後で迎えに行かないと。


「ふー……疲れた」


やっと一息ついて地面に座り込む。索敵スキルに反応もなし。


ステータス画面を開いてみるとレベルが195になっていた。そんなに倒したのか俺。レベルが倍近くなっているじゃん。


スキルポイントも65ポイントも貯まっている。うはうはだ。


「そう言えば投石スキルレベル5になった瞬間段違いに強くなったな」


それまでも強かったが。レベル5になった瞬間一気にオークの防御も貫通するほどの威力になった。これレベル6にしたらどうなるんだろう。


「あの……」


「ん……? あ!」


気がつけば例の助けを求めてきた銀髪の女の子が近くに来ていた。


今はもう雨止んでいるが女の子の髪はべったり濡れている。更にどこかで転んだのか服は泥まみれだった。


それでも十分可愛いと思える容姿なのは元が相当良いんだろう。


まず顔が小さい。パッチリとした瞳と長いまつ毛は思わず見とれる可愛さだった。痩せていて守ってあげたくなる雰囲気のある女の子。


「オークは……倒したんですか?」


「あぁ。目に付いたやつは全部倒した」


「良かった……。でも、皆は……」


「今のところ君以外の生きた人間には遭遇してないな」


「そう、ですか」


女の子は悲しそうな声をして俯いた。


住んでた村が壊滅ってどれほど辛いんだろう。想像すらできない。


俺にとっても初めて見つけた村が壊滅しているというのは衝撃だった。


「とりあえず」


「?」


「【身体浄化】【衣類浄化】」


「え……? わっ服の汚れが落ちた」


「身体と服を綺麗にする魔法を使った」


「な、なるほど。突然だったのでビックリしちゃいました」


「驚かせたかごめん」


「いえ! むしろありがとうございます。服ドロドロだったので助かりました」


俯いていたところから少しだけ声が元気になった気がする。


さて、聞きたいことが沢山ある。


「俺は海崎進って言う。たまたまこの村に通りかかったら悲鳴が聞こえたからオークを討伐した」


「カイザキシンさん……? と言うんですね。私はエルって言います」


「エルさんか。俺のことはシンでいいよ」


「分かりました。シンさんとお呼びしますね。私は行商人をしていて、冒険者の護衛をつけてこの村に来たんですが、気がつけばオークに囲まれていて……」


「行商人さんだったか。災難だったね……」


「はい……。私は冒険者さんがオークと戦っている隙に逃げて隠れていたんですけど、見つかってしまって。もうおしまいかと思ったらシンさんが助けてくれました」


「そういう経緯だったのか。ギリギリで助けられてよかった」


「本当にありがとうございます」


深々と頭を下げられる。


この子は村人なのかと思ったら行商人だったのか。


最初に見た倒れて死んでいた人間はエルさんの護衛をしていた冒険者だろう。


「村人たちは既に避難済みみたいですね。……私馬車を見てきます」


「一緒に行こうか」


「そうしてくださると安心できます」


話しながら馬車までの移動を開始した。




「あぁ……壊れてる……」


馬車は横倒しになっているしボロボロだった。商品らしき服や肉が水溜まりの中に落ちてドロドロになっている。馬はオークの石槍が刺さって殺されているし。


シンプルに言えば酷い有様だ。


ぺたん、とエルさんが膝をついた。


下は普通に地面だ。また服が汚れてしまう。


「エルさん……」


「ぐす……うっ……すみ、ません。急に実感が……私、終わったんだって」


ボロボロと涙を零して泣き始めてしまった。


俺はほっとくことも出来ず、近くにしゃがんで背中をぽんぽんした。


「……ちなみに終わったというのは?」


「この馬車、お金借りて買ったばかりなんです……。売上で返していく予定でしたが、これではもう商人を続けられません……」


「あぁー……」


破産。


異世界で初めて会った人が破産して絶望している。


何とかしてあげたいがこちらも山暮らしの無一文だ。


「……ずっと商人をするのが夢だったんです。開業して頑張って、やっと軌道に乗ってきたと思ったら、これですよ」


「うわそれキツイな。上手くいきそうだった分反動が」


「ごめん、なさい。初対面の人にこんな。生きてるだけでも、奇跡なのに」


「全然いいよ、無理すんな」


「……ううう」


「大変だったね」


背中さすってあげたらまた涙が溢れて泣き始めた。ごめんなさいと言うので良いよと繰り返す。


それにしてもどうしよう。だいぶ日が暮れて来ていた。


空はまだ曇っている。今夜も雨が降るかも。


ボロボロだけど村のどこかの家を貸してもらうか。


今の俺にとっては屋根があるだけで贅沢なお城だ。



ようやく落ち着いたエルさんと今後について話し合った。


馬車の中に残ったお金と無事な商品を取り出して、今夜は村で一番マシそうな家に泊まる。


晩ご飯は肉を食べられることになった。元々商品だろうにいいのかと尋ねたら、良いんだと。


3日ぶりの肉は最高だった。エルさんの持っていたポン酢の様な調味料で頂いたのだが。噛む事に肉の味が口の中に広がって涙が出るほど美味しかった。


空腹の飯が一番美味しいというのはマジかもしれない。


この三日間食べていたものと言えば、果物や道草 (ガチの道草)とまともな食事にありつけていなかった。


だからだろうか、肉が、調味料の味が、身体に染み込んでくるような錯覚を覚える程に美味しい。幸せ。


一緒にご飯を食べていると少しずつエルさんにも笑顔が戻ってきた。


美味しいご飯を食べて、屋根のある家で寝る。サバイバルから一気に文明人になった気分。


だがいつまでもこの崩壊した村に居る訳にはいかないので。


明日からはエルさんの住んでいると言う町へ移動しようと話している。


町へ行けば更に文明的な暮らしが待っていることだろう。お金ないけど。多分。


距離は馬車だと一日で行けて、歩きだと三日ほどかかるかもしれないらしい。


つまりサバイバルデュオ開始だ。


晩御飯の後、じゃあ別々の家で寝ようか、おやすみなさいと別れようとした時。


エルさんが立ち去ろうとする俺の服のすそを掴んで止めた。


「あ、あの」


「え? なに」


「……今夜……一緒に寝ませんか……!」


「え!?」


「あ! 違います違います! 変な意味じゃなくて!」


エルさんは顔真っ赤で両手をブンブン振るっている。何事だろう。


元々色白の子が顔赤くしてるとギャップすごいなと思った。


焦ってしどろもどろに話すエルさんの言葉達を拾って何が言いたいのかをまとめると。


「つまり、オークがトラウマになってて一人になりたくないと」


「そ、そうです! 一人にしないでください……お金、払いますから……っ」


「いやお金は要らないけど」


お金要らないと言うとがーんとした表情をされた。持てる手札使い果たしたような絶望の雰囲気纏ってる。


「あーいや、断るという意味じゃなくてお金は必要ないって意味。一緒に寝るのは別に良いよ」


「ほ、ホントですか! ありがとうございます」


心から安心したと言う様子だ。割と表情豊かだなこの子。


まあ扉も無い家で命の危機に陥った村に一晩泊まるって普通に考えたらめっちゃ怖いよな。一通り倒したと聞いていてもいつオークが出てくるか気が気でないはずだ。


本当はお金欲しいけど。破産した子のなけなしのお金を貰うのは罪悪感が凄そうだ。



夜。村で一番マシそうな家にて。


俺はソファにエルさんは布団に寝ていた。


布団はエルさんの馬車にあったもので泥まみれだったのだが、衣類浄化魔法をかけてみたら効果があったのでそれで綺麗にした。


「……シンさん、まだ起きてます?」


「起きてるよ」


電気もない暗い部屋で声をかけ合う。


修学旅行みたいだな、と少し思った。修学旅行と言うには色々と酷すぎるけども。


「私今日色々失っちゃいましたけど、生きていられて良かったって思ってます」


「……そっか」


「まずは、無事に街に帰ってまともな生活が出来るようにならないとですね」


「まともな生活……したい」


「……シンさんって今までどんな生活してたんですか?」


「え? 森で果物齧りながら迷子してた」


「わぁ……」


こんな感じでお喋りしていたら夜は更けていった。

村は壊滅していましたが人と合流できたので森ソロサバイバル編は終了です。

次回デュオサバイバル編開幕。

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