三日目 ---2---
走りながら魔法で石を生成して右手に持つ。
近くのオークが俺が走る音に気づいて振り返ろうとした時に俺は石を全力でそのオークの頭めがけて投げていた。
直撃。ゴッと言う鈍い音と共に豚のような鳴き声を上げてオークが倒れる。
【レベルアップ!! レベル75→83】
レベルアップ音を聞いて無事に倒せたことに安堵しつつ次の戦闘に備える。
周りのオークたちも何事だと鳴き声を上げ、こちらの存在に気づいたようだ。
すかさずまた石を生成して近くのオークの顔面めがけて投げる。石はオークに当たるが今度は倒れない。腕で顔を守ったようだ。
オークの集団がぷぎいいいいと大声を上げながらこちらに向かって走り始める。とんでもない威圧感。距離は十メートルほど。迎え撃つ訳にも行かないので逃げる。
幸いオークはそんなに走るのは早くないようで、追いつかれる気配は無い。だが集団に追いかけられる恐怖感は凄まじい。めっちゃ怖い。
しばらく走って後ろを振り返って追いかけてきて無いことを確認してから立ち止まる。
「ぜえ……ぜえ……げほっ。やばいな。このままじゃ倒せない」
今の投石では攻撃力不足だ。もっと強力な攻撃手段を手に入れないと。
周りに警戒しながら習得可能スキル欄を開く。探すのは攻撃魔法の欄だ。今割り振れるスキルポイントは9。
「今習得できる範囲で言うと良さそうなのは……」
【サンダーボール:必要ポイント5:雷の玉を発生させて標的を攻撃する】
とかだろうか。同じ系統のファイアボールもあるが今は雨なので雷の方がいいだろう。
意外と現時点で習得できる攻撃魔法は少なくて、サンダーボールを習得したら次の強い雷魔法が手に入る感じだ。魔力値がもっとあれば習得できるものもあるのだが……ないものねだりしても意味が無い。
「どうしようか。付け焼き刃のサンダーボールを取得して戦うか、投石を強化するか」
少し迷う。ただ今こうしている間にも村では人が襲われているかもしれない。早く決める必要がある。
「……こっちだな」
投石を強化する方針で決めた。
スキルポイントを8消費して投石スキルをLv3にする。
それからステータスポイントを力に全振りした。
改めてステータスを見返してみる。
【シン】
【レベル83】next:1
【所持金:0G】
【ステータスポイント:0】
【MP:25/25】
【生命力:25】
【力:19】
【物理耐性:5】
【魔力:5】
【魔法耐性:5】
【状態異常耐性:5】
【賢さ:5】
【素早さ:33】
【器用さ:10】
【スキルポイント:1】
【パッシブスキル:無限の神の加護、成長の神の核、人言語理解Lv1】
【技能スキル:投擲Lv2、投石レベル3、索敵Lv1、マッピングLv1】
【魔法スキル:飲料水生成Lv1、小灯火Lv1、植物知識Lv1、果物知識Lv2、結界術Lv1、乾風Lv1、石生成魔法Lv2、身体浄化魔法Lv2、衣類浄化魔法Lv2、雨弾層Lv1、暖層Lv1】
……よし。出来ることはしたな。あいつら足は遅いからダメだったらまた逃げてこよう。
村へと小走りで移動する。緊張のせいかすぐに息が上がる。生命力にも降っておく方が良かったか。
ーーーーと、その時こちらに向かってくる人影を見つけた。一瞬警戒したのだがどうやらオークではなく人間のようだ。
銀髪の女の子だ。後ろにオークが3匹追いかけて来ていて、必死にこちらに逃げてきているようだ。
「助けてください!」
その声は最初に俺に助けを求めた声と同じだった。
「任せろ!」
石を生成して構える。狙いは追いかけてきている先頭のオーク。
距離は20Mくらいか。
振りかぶって投げた。投石のレベルが上がったからか見えにくい雨の中でも外れる気がしなかった。
命中。俺の投げた石は先頭を走っていたオークの頭に直撃した。
【レベルアップ!! レベル83→91】
残った2匹のオークが倒れた仲間に動揺して鳴き声を上げながら立ち止まる。こちらを警戒しているようだ。
「そのまま走って逃げて!」
振り返って状況確認しようとする女の子に指示を出しながら俺は2個目の石を投げる。
今度は避けられてしまった。頭ばかり狙っていてもダメか。
狙いを胴体に変えて石を投げる。
スキルレベルを上げてから自分でも信じられないくらいの速度で石を投げられている。的がでかい胴体を狙えばそう簡単には避けられないはずだ。
オークの腹に命中。食らったオークは死んではいないがかなり苦しいようでお腹を抑えて膝をついてうずくまった。
もう一匹のオークが鳴き声を上げてこちらを威嚇しながらじわじわと下がり始める。
そこで村の方から増援のオークがゾロゾロとこちらに出てきて走ってくるのが見えた。
「たす、かりました! ありがとう、ございます!!」
無事に俺の位置まで逃げてきた女の子が息を切らしながらお礼を言う。
「ここは危ないからこの先まで逃げておいて!」
「わ、分かりました」
再び女の子が走り出した。相当疲れているのか足は遅い。もっと時間を稼がないとな。
俺はとりあえず腹を抑えてうずくまっているオークの頭に投石して倒した。
【レベルアップ!! レベル91→99】
ラストの1匹のオークは距離をとって俺を警戒しながら増援が来るのを待っているようだ。
俺はその様子を見ながらステータス画面を開き、ポイントを力に全振りした。力の数値が19から35まで一気に上がる。
そしてスキルポイントを16消費して投石スキルをレベル4に上げた。
「ははっこれならやれるかも」
笑っていた。完全に楽しくなってきている。
石を生成して警戒しているオーク目がけて助走つけて投げた。
ブンッと風を切る音と共にまた今までより更に数段早い速度で石が飛んでいき、オークの胴体に石がめり込んだ。
ぷぎいいいいと悲鳴を上げてオークが倒れる。
そのタイミングで増援オークも到着した。倒れたオークを踏み潰しながらこちらに突進して来ている。数は六匹か。更に村からまだこちらに増援が来ているようだ。
俺は六匹の内の一匹オークだけ投石で倒してから逃げ出した。
後ろを確認してオーク達と少し距離がとれていたらまた投石。これを繰り返す。
オーク達は興奮状態で真っ直ぐ追いかけて走ってきているからか、攻撃を頭に当てられることが多かった。手とかで防がれることもあるが手でも当たれば怪我を負わせて追いかけるのを中断させることが出来る。
レベルがどんどん上がっていく。
「はははっ」
一歩間違えたら命の危険だと言うのに俺は何故か楽しくなってきていた。
走りながらステータス画面を開いて生命力と力に割り振る。走る・投げる持久力を付けるためだ。
そしてオークを倒して手に入ったスキルポイントを32消費して投石スキルをレベル5にした。
「これならどうだ!?」
仲間が殺されて興奮状態のオーク達がこちら目がけて走ってくる。今追いかけて来ている数は三匹。だいぶ減ったな。まだ村の方に行けば居るんだろうけど。
「ッシ!!」
ソフトボールサイズの石を生成して投げる。
標的のオークは手で守ろうとした。
だが、石はオークの手に当たり……貫通した。
血を吹き出して倒れるオークを見て周りにいた二匹も流石に恐怖感を感じたのか足が止まる。
「次!」
立て続けに投石。早すぎる石を避けることも出来ずにまた一匹のオークが倒れる。
ここで残りの一匹が悲鳴を上げながら逃げ出した。
「逃がすか!」
ラストのオークは更に現れた増援オーク組と合流した。
数は合流したのも含めて八匹か。いける。
もはや俺にとってオークは恐怖の対象では無くなっていた。
「俺に! 人間らしい生活を! よこせ!!」
一投につき一匹ずつ確実に倒していく。三匹倒したくらいからもはやオーク達はこちらに向かってくることをやめて逃げ回っていた。
バラバラに逃げていたから全部を倒せたかは分からないが、索敵スキルに反応したオークは全て片付けた。
気づけば雨はやんでいた。