一日目 ---2---
「お、あれは……うさぎか?」
森を歩いていてスライム以外の魔物に初めてであった。
見た目はツノの生えた兎だ。これからはツノウサギと呼ぼう。移動は兎にしては遅く。ぴょこぴょこ跳ねては草を食べたり耳を立てて周辺をキョロキョロしたりしてる。
まだこちらはバレていないようだ。
早速持っていた良い感じのサイズの石ころを構えて、ツノウサギが草を食べ始めて動きがとまった瞬間を狙って投げた。距離は10Mくらい。
「お!」
石は1発で命中した。ツノウサギは吹っ飛んだ後によろよろと逃げようとしている。すかさずに近づいて2つ目の石を投げる。またも命中。ツノウサギは動かなくなった。
【レベルアップ!! Lv5→Lv8】
「一気に3レベルも上がった! という事はこいつは経験値は3か」
ツノウサギはスライムの3倍の経験値を持っていた。これからも見つけ次第ガンガン倒していきたいところだ。
動物を殺すということに対してもっと何か道徳的な考えることがあるかなとかちらっと考えたけど。どうにも自分は余りそういう意識は芽生えなかった。生きる為に必要なのだ。
薄く血溜まりを作るツノウサギを見下ろして考える。これそのままは食料にはならないよなあ。解体スキルとか手に入れたら良いんだろか。としても解体するナイフとかもないしなあ。焼くためには火もいる。
「もっともっとレベルをあげる必要があるな」
そうだよな。ここはゲームの世界ではない。倒した魔物もちゃんと生きている。レベルを上げるとは命を奪うこと。そこら辺はちゃんと理解しておかないと。
手頃な石ころを拾ってまた歩き始めた。
俺はちゃんとこの世界で生きていけるのだろうかと仄かな不安を感じながら。
※
日が暮れてきた。
あれから魔物を倒しつつ森をまっすぐ歩いてきたが未だに人が居る場所につく気配はない。
今の俺のステータスはこうなっていた。
【シン】
【レベル21】next:1
【所持金:0G】
【ステータスポイント:0】
【MP:15】
【生命力:5】
【力:10】
【物理耐性:5】
【魔力:5】
【魔法耐性:5】
【状態異常耐性:5】
【賢さ:5】
【素早さ:10】
【器用さ:10】
【スキルポイント:0】
【パッシブスキル:無限の神の加護、成長の神の核】
【技能スキル:投擲Lv2、投石レベル2】
【魔法スキル:飲料水生成Lv1、小灯火Lv1、植物知識Lv1、果物知識Lv2】
投擲のレベルを上げて更に投石スキルも手に入れたことで10Mくらいの距離なら余程激しく動いてない限り命中させることが出来るようになり、一度だけ空に飛んでいた鳥を撃ち落とすことに成功した。経験値はツノウサギと同じく3。威力も上がってツノウサギも安定して一撃で倒すことが出来る。
小灯火スキルは生活魔法の1つで、人差し指の先からマッチ程度の火を出すことができるようになるスキルだ。サバイバルになるなら火起こしは必須と聞いたことがあるので手に入れた。
果物知識は木になってる緑色の果物を見つけた時に食べれるかどうかが知りたくて習得した。
対象となる植物&果物を見ながらスキルを発動するとその果物の名前とか簡単な知識が表示される。
ちなみにその時見つけた果物はバヤの実と言うらしく食べられるものだったので飲料水で洗ってから食べてみた。瑞々しくて美味しかった。食感や味は梨に近い。
植物知識スキルは果物知識のスキルの習得に必要だったので手に入れた感じだ。使い方は果物知識スキルと同じ。
気がついたことは、レベルが上がればMPが全回復になるということだ。小灯火や知識スキルでMPを消費した直後にスライムを倒したらMPが全回復していたのでそういうことなんだろう。
「どうしよう。日が暮れてきたな」
空はオレンジ色になって太陽が落ち始めている。水と火と食料は手に入れたものの拠点がない。
魔物が生息するこの森で野宿するのはとても恐ろしいことのような気がした。
「夜には強い魔物が出現するとかゲームではありがちだしな」
日が完全に沈む前に安全に寝られる場所を見つけたいものだ。もしくはその問題を解決できるスキルを習得しないと。
焦る心を落ち着けながら森を歩いていると、新しい魔物を見つけた。
「あれは…ゴブリン……?」
バレないように小さく呟く。
緑色の肌。ボロボロの腰布を纏っている小さな人型の生き物が3匹で歩いている。手にはそれぞれ石のナイフや槍のような武器を持っている。
草むらに隠れて遠目に見ていたがやがてそいつらは見えなくなった。
スライムは勿論、ツノウサギは角が生えているとはいえ遠距離攻撃で一撃で倒せるから全然脅威を感じなかった。だがゴブリンは武器を持っていた。しかも群れで行動している。油断ならない相手だ。
夜森で寝ている時にあんな奴らに襲われたら死んでしまうかもしれない。どうにかしないと。
周辺の音に注意しながらゴブリンが歩いていった方とは違う方向に道を歩いて進む。
魔物も見えにくくなってきている。
その辺の草むらからいきなりツノウサギが出てきたら怪我をしてしまうかも。
そう言えば索敵とか言うスキルあったな。あれがあればもっと気楽に歩けるのだろうか。
他にも使えるスキルがないか探してみる。
「あ、これがあれば夜をこせるかも」
【結界術:必要ポイント5:魔物を寄せつけない結界を張ることが出来る】
だが今はスキルポイントがない。なんとか5ポイント分をレベル上げ出来れば夜を越せそうだ。
「となれば……」
獲物を探す。今までの経験上、背丈の低い草むらのような場所にツノウサギはいた。そういう場所を探す。
しばらく探したが中々ツノウサギもスライムも見つからない。
いよいよ日が暮れてきて焦りだした頃にそいつらはまた現れた。
ゴブリンだ。今度は3匹では無く1匹。目を凝らしてみたらナイフのようなものを持っている気がする。暗くて判別がつかない。
少し考えて、攻撃することに決めた。持っていた石ころを構える。
ゴブリンはこちらに気づいていない。
「……ッシ!」
振りかぶって全力投擲。石は正確にゴブリンの頭に向かっていき、直撃した。
ギャッと言う独特の悲鳴をあげてゴブリンが倒れる。すかさず近づいて行くと頭から血を流して倒れているゴブリンがいた。その付近に落ちている石ナイフを奪ってから、ポケットに入れていたもうひとつの石ころを頭目掛けて近距離で投げた。
ゴッと鈍い音が響いて、ゴブリンは動かなくなった。
【レベルアップ!! Lv21→26】
……どうやらゴブリンの経験値は丁度5だったらしい。無事にゴブリンを倒せたことと、夜を超える目処がたったことに安堵する。
スキルポイントとステータスポイントを割り振る。
【シン】
【レベル26】next:1
【所持金:0G】
【ステータスポイント:0】
【MP:20】
【生命力:5】
【力:10】
【物理耐性:5】
【魔力:5】
【魔法耐性:5】
【状態異常耐性:5】
【賢さ:5】
【素早さ:10】
【器用さ:10】
【スキルポイント:0】
【パッシブスキル:無限の神の加護、成長の神の核】
【技能スキル:投擲Lv2、投石レベル2】
【魔法スキル:飲料水生成Lv1、小灯火Lv1、植物知識Lv1、果物知識Lv2、結界術Lv1】
ステータスポイントはMPに割り振った。
それから枯れた枝を少し開けた場所に集めて、小灯火を使って火をつけて、結界術を使用して、その日は何とか寝た。
右腕を枕にして寝心地は最悪だったが精神的に割と疲労していたのか意外とぐっすり寝れた。
※小灯火は1分につきMP1消費。結界術はMP15で耐久を超える衝撃を食らうか、24時間経つと消える。