五日目 ---1---
五日目。
目が覚めた。隣でエルさんがまだ寝ている。
隣に異性がいる目覚めというと何かロマンチックな響きなのだが、外である。
思いっきり地面に直接、敷布団だけ広げて寝ていた。冷静に考えたらどんなだよ。
「……んん~あ。おはようございますシンさん」
「……おはよう」
エルさんが起きて背伸びしている。
こういう女性が背伸びとかしているシーンもとても好きなのだが、シチュエーションのせいで余りエモくない。
「何かすごく寝心地よかったです。暖層? スキルのおかげかとても暖かくて」
「そうなんだよなあ。寝心地は無駄に良かった」
「シンさんが近くに居てくれたのでとても安心して寝られました」
「お、おう」
なんかこの子まだ出会って3日目程度なのに心許しすぎじゃない?
敷布団の上に女の子座り、あくびしてから目をこすっているエルさんを眺めながら思う。
まあ出会ってからの毎日がとても濃かったからというのもあるだろうが。吊り橋効果のガチ命の危険バージョンを既に何度か超えている。
そう言えば雨弾層や暖層は朝まで効果が切れなかったようだ。スキルレベルを上げた甲斐があって良かった。
「雨は止んでますね。今日順調に進めば夜には街につくと思います」
「遂に……人里に……」
「……シンさんずっと森で迷子してたから人里恋しいんですね。物凄く嬉しそうです」
可哀想なものを見る目で見られた。
失礼な気がしたがガチで人里恋しいので何も言い返せない。
出発の準備を始める。
【身体浄化魔法】と【衣類浄化魔法】を使って身体と服を綺麗にしたら、エルさんがぼーっとこっちを見ていた。
「……シンさんって本当に色々な魔法が使えますよね」
「エルさんにもかけたげる。後布団もきれいにしてアイテムボックスにしまっておこう」
「ありがとうございます。何から何まで」
これらの生活魔法も一般人に普及しているものではないようだ。逆にどんな魔法なら使えるんだろうか。
飲料水生成魔法を自分で使って顔を洗っているエルさんを見ながら疑問に思った。
「それでは出発」
「行きましょー」
街への道を歩き始めた。昨日とほぼ変わらない光景。馬車が通る少し開けた道を行く。
せっかくなので歩きながら先程疑問に思った、どんな生活魔法なら使えるのかを聞いてみたところ、5つほど紹介された。
まずは俺も使える2つのスキル。飲料水生成魔法と小灯火。
俺が使えない3つのスキルは、洗濯する魔法と身体強化魔法と魔力供給という3種類の生活魔法ならしい。
前二つはなんとなく分かるのだが魔力供給とはなんぞと聞いてみたら、信じられないものを見る顔をされた。
「魔力供給知らないってシンさんサバイバルする前はどんな生活してたんですか……。魔力供給は魔石に魔力を補充する魔法ですよ」
「魔石……」
「え、まさか魔石すら知らないんですか?」
「うん」
「わあ……」
いよいよエルさんがこちらを見る目が原始人を見る目になってきている気がする。失礼な。けれど本当に知らないし、原始人生活だから何も言い返せないですはい。
「掃除機や照明など色んな魔法器具がありますよね。それらを動かす為に魔石に魔力を込める必要があるんです」
「魔法器具……だと……?」
この世にはそんな文明的な暮らしがあったのか。
早く街につかねば。森暮らしが定着しつつある俺は心からそう思った。
「……私は逆にシンさんが使ってる魔法が気になります。あの暖層っていうのは温度調節とかも出来るんですか?」
「出来るぽいよ。……どれくらいまで暑くできるんだろうな。試してみよ」
魔法を発動してから更に魔力を込めていく。
魔力を込めるとか初めてやることなのだが何故かやり方が理解できた。
受け身スキルを手に入れたら屋根から飛び降りた時の受け身の取り方が分かるように、スキルというのは習得すると経験がなくてもやり方が分かるようになるものみたいだ。
思えばいつも魔法とかもススっと使ってるしな。
「どれどれ……おおー暖かくなってきた。おぉ~おぉ~暑くない? ていうか熱い。……あっつ!!?」
魔力を込めすぎたのかめっちゃ熱い空気に包まれた。反射的にスキル解除。
こんなに温度上げられるのか。予想以上だ。
「あはは。なにしてるんですかー」
「エルさんにもはい。魔力高めた『暖層』」
「なんで私にもかけるんですか!? あっつ!?」
のけぞってリアクションするエルさんが面白い。すぐ解除する。
「ふはは」
「ふははじゃないですよ! 謝ってください!」
「ごめんごめん」
「も~」
ぷんぷん怒るエルさんを宥めながら歩いた。
索敵に反応があれば投石で倒してレベル上げもする。レベルが上がるとMPも全快するし少しづつでもスキルポイントが貯まるので有難い。
この道に出てくるのはほとんどがスライムで、たまーにツノウサギが出てくる。全体的に弱い敵ばかりだ。一度だけゴブリンの五匹集団に出会ったが遠距離から投石で難なく倒せた。
この辺りでは無双できるな。
と、安心して気が緩んできたころ。
「ん? あ、あれは……っ」
「え? ん-人、ですかね。沢山います」
「人! 人がいるぞ! 文明の香りだ!」
「もしかしてあれって……ちょ、シンさん!」
エルさんの呼ぶ声も無視して人がいる方へ走り出す。
この世でエルさん以外に見かけた非常に希少な人類である。しかも群れに遭遇。俺は興奮していた。
男の人が多いようだ。目算で10人ほど。男達は全員茶色いフードをしていた。何かのグループなんだろうか。
「こんにちはー!」
笑顔で近づく。
男たちは俺の声に気づいたようだ。振り返って驚いている。
確かに。いきなり森でめっちゃ笑顔で挨拶されたら驚くかもしれない。俺は少し落ち着いて歩調を緩めた。
息を整えながら話せるくらいの距離に近づいていく。後ろを見るとエルさんも焦った様子で走ってきていた。
「あの、こんにちは初めまし―――」
「止まれ。それ以上近づくな」
「え?」
男たちは皆一斉にナイフなどの武器をこちらに向けて構えていた。
「俺たちはガルダ盗賊団。動いたら殺す」
……。…………。
あー。……盗賊団の方たちでしたかあ。
異世界で二番目に会った人類は殺意剥き出しの犯罪者集団だった。
空を見上げたら馬鹿にしてるように青く晴れていた。




