四日目 ---4---
廃村を二人で出発して早一時間。
索敵に反応したスライムやツノウサギを倒しつつ雑談しながら歩いていたのだが、空模様が悪くなってきた。
「また雨か……」
「あの黒い雲は降りますね絶対……雨のにおいがします」
思えば今日は寝起きから空には黒い雲があった気がする。今日は後から気づくことばかりだ。
エルさんの見立てでは、今日中に街までつくことは難しいだろうとのことだ。つまり外で一泊はする必要がある。
雨対策は雨断層スキルと暖層スキルの二つを持っているが、これらは移動するときはともかく寝る時に使いものにならない。上からの雨は弾くのだが、地面がぐしょ濡れになったらそれで濡れてしまうのだ。
雲が太陽を隠している。少し日が暮れてきているのもあって辺りはかなり暗くなってきていた。
「どうしましょう。傘はあるんですけど、夜が困りますね」
「そうだな……なんとか雨風凌げたらいいんだけど」
「……最悪ウェール村に帰るのもありですね」
「あの廃村ウェール村って言うんだ。……うーん」
結構歩いたから出来れば帰りたくはない。けれどたき火もない雨の中、その辺にサバイバル寝するのはとても辛そうと思う。雨の中寝るのだ。そもそも寝付け無さそう。
「シンさんは森で迷子していたって言ってましたけど、こういう時はどうしてたんですか?」
「実は森サバイバルしていたのは三日間だけで、エルさんと会った日以外は晴れてたんだよね。普通にたき火してその周りに寝てた」
「なるほど……」
話し合っている間にもぽつぽつと雨が落ち始めてきている。
困ったときはスキル習得。
いつものパターンで解決を図る。スキルポイントは64もあるし沢山習得可能スキルがあるはずだ。魔力値や素早さが上がったことで新しく獲得可能になったスキルも多い。
習得可能スキル検索欄で『雨 防ぐ』で検索。
ずらっと思ったより沢山のスキルがヒットした。
「……? シンさんなにしてるんですか?」
「スキルポイントが余ってるからスキル獲得して何とかならないかなってステータス画面いじってる」
「スキルポイント? ステータス画面?」
「あれ、これって普通はないものなのか」
顔を上げてエルさんの方を見ると、知らない国の言葉を聞いたような反応をしていた。頭に?マークが並んでそうな感じに首をかしげている。
「えっじゃあレベルとかは?」
「聞いたことないです」
「ステータスとか」
「ステータスは聞いたことありますね。教会でやってもらえる、自分が使えるスキルを確認したり今の身体能力を測定してもらえるんですよね」
「……そういうもんなのか」
俺は割と衝撃を受けていた。今まで森暮らしで人と接する機会もなかったから気づけるはずもないが。これは普通の人には見えないものらしい。
「スキル獲得……って言ってましたよね。つまりシンさんって自分で狙ったスキルを自由に獲得できるんですか……?」
「あぁ。なんでもかんでもってわけじゃないけど結構自由に」
「す、すごすぎませんか!? 聞いたこともないですよそんなの!!」
エルさんの話によると、スキルは神様からの贈り物とされていて、生まれ持ったスキル以外は努力に努力を重ねているといつの間にか獲得しているものらしい。
例えば剣術スキルだと剣での素振りや対人模擬戦などをしていると獲得できたり。
じゃあ生活魔法スキルは一般流通していないのかと疑問をぶつけてみたら、魔法は学校や魔導書で学べば誰でも使えるものらしく。生活魔法なんかは両親から教えてもらえるから簡単なものなら大体皆使えると説明された。
「な、なるほど。そう聞いてみたら俺ってもしかしてすごいのか」
「すごいなんてもんじゃないですよ! 普通の人が喉から手が出るほど欲しいスキルを自分で選んで使えるようになっちゃうんですから。ほんと羨ましいです」
「実感がわかない」
なにせ今まで森暮らし。羨ましいと言われても、俺は森で石を投げて原始人のような生活をしていたし。エルさん以外の人類に会ったことすらない。
人並みの生活を心から欲している俺には、羨ましいと言われてもまるで実感がわかなかった。
「あ、雨降ってきちゃいましたね」
「うお、ほんとだ。とりあえず『雨弾層』『暖層』! エルさんにも!」
MPを消費して雨対策のスキルを発動する。道中で魔物を倒してレベルを上げたのでMPにはかなり余裕がある。
「わっ雨を弾いてます! しかも暖かい。こんなスキルがあるんですねー傘要らずじゃないですか」
「あれ、これも生活魔法だった気がするけど知らないんだ」
「私は使えないです。あーでも前に騎士の方がこんなの使っていたのを見た気がします」
生活魔法なら何でも誰でも使えるように普及しているわけではないのか。まあ考えてみたらそう言うもんな気がする。
それより雨対策スキルを見つけないと。
「……どうしようかな」
様々なスキルがあるものの中々ピンとくるものが見当たらない。
「あ」
「シンさん? どうしたんですか?」
「雨対策思いついたかも」
「ほんとですか!」
「うん、さっきエルさんにも使った『雨弾層』のスキル、雨をはじいてくれるスキルなんだけど、これを木に使えばその下で雨宿りできるんじゃないかなって」
「そ、そんなことできちゃうんですか」
「多分。試してみる」
早速近くの木に向かって雨弾層のスキルを発動してみる。スキルは無事に発動した。
だがLv1だと弾く範囲が狭すぎるからか普通に葉っぱの隙間から雨が漏れて落ちてくる。
スキルポイントを30消費して雨弾層のレベルを3まで上げた。残りスキルポイント34。
「これでどうだろう。『雨弾層』」
木に手をかざしてスキルを発動。
「これはー。成功みたいですね」
「だな」
木の下で上を見上げてしばらく観察してみるが雨粒は落ちてこない。
割と大きい木なのでスペースにも余裕がある。それに恐らく雨弾層の効果時間も伸びていることだろう。
「今夜はこの下で過ごす感じですか。地面もまだそんなに濡れてなくてよかったです」
「周りの何本かに雨弾層かけとくよ」
「助かります。あのシンさん、私の敷布団出してもらっていいですか?」
「え。良いけどここで?」
「はい」
戸惑いながらもアイテムボックスから布団取り出して渡す。
エルさんはそれを比較的乾いてそうな地面にバサッと敷いた。
「うお。汚れそうだけどいいの?」
「本当は良くないですけど、シンさんが布団きれいにできる魔法を使えること知っているので」
「それは、使えるけど」
だとしても結構抵抗ありそうだ。外の雨が降った次の日の地面に布団を敷くということ。なんだろう衛生面?
「元々あの廃村に捨てる気でいたんですから、いいんです。シンさんの使ってくれた暖層?スキルのおかげか寒くはないですし、今夜はここで過ごせそうですね」
「まあ確かに」
エルさんが良いならいいかと自分を納得させる。
もっと良い雨対策もありそうなもんだが、咄嗟に出来た対策はこんなものであった。
一人の頃は自分さえ良ければよかったが、これからのサバイバルは二人だということを改めて認識させられた。
小灯火の魔法を明りにして雨が止むのを待っていたが、段々と眠くなってきた。
外なので風はあるが暖層のおかげで温度がちょうど眠くなる温度なのだ。エルさんは先にもう横になって掛け布団もなしで寝始めている。たくましい。
結界を張って、寝ている間に効果が切れないように暖層のスキルレベルを3まで上げてかけ直す。俺も寝ることにしよう。
こうして二人サバイバル一日目の夜がふけていった。




